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作成: 2000/11/27 吉井 文男

データ番号   :010200
ポリマーの照射による加工性の改善
目的      :加工性の改善
放射線源    :電子加速器(2 MeV, 50MA), 60Co線源
線量(率)   :電子線 10 kGy/1pass, ガンマ線 10 kGy/hr
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所1号加速器、コバルト2棟
照射条件    :空気中
応用分野    :包装分野、農業分野、

概要      :
 放射線照射技術によりポリマーの加工性を改善した。ポリプロピレンについては、二官能性モノマーの添加により5kGyという極めて低い線量で溶融張力が著しく改善できた。生分解性ポリカプロラクトンについては、添加剤を使わずに15kGyで加工性が改善できた。これは照射により分岐構造が導入され、高分子鎖が絡み合いを起こすためである。フィルムや発泡体成形に有利である。

詳細説明    :
 
 ポリマーの加工性に溶融粘度は重要な因子である。ポリエチレンは溶融粘度が高いため比較的加工し易い材料である。しかし、ポリプロピレン(PP)は融点以上でメルトダウンが起こるため、薄いフィルムの成形はかなり困難である。溶融張力を上げメルトダウンを防ぐ方法として、分岐構造を導入することが提案されている。ポリマーはゲル化線量より低い線量照射すると分岐構造を導入することができる。しかし、PPは放射線に対しては分解型のポリマーであるため、低い線量で分岐構造を導入しなければならない。このため。一分子内に二個以上の二重結合をもった多官能性モノマーの存在下でPPを照射した。その結果、1,4-ブタンジオールジアクリレートや 1,6-ヘキサンジオールジアクリレートのような二官能性モノマーが5kGyという極めて低い線量で溶融粘度を上げるのに効果的であることが見出された(図1)。


図1  Effect of molecular chain length of PFM on the melt strength of PP(原論文1より引用)

 多官能性モノマーは分子鎖が小さいほどポリマー内に浸透しやすいため、分岐構造導入に有利である。生分解性の脂肪族ポリエステルであるポリカプロラクトン(PCL)の加工性を照射技術により改善した。PCLは橋かけ型ポリマーであるため、添加物などを使わずに照射のみにより、分岐構造を導入し、溶融粘度を改善できると考えられる。PCLペレットを15kGy程度照射することにより溶融粘度(溶融伸度)が著しく向上した(図2)。


図2  Elongational viscosity of PCL at 70℃(原論文2より引用)

 発泡体加工には30kGyの照射が好ましい。発泡体の酵素分解では、無数に空孔があるため同じ厚みのシートよりも生分解の速度が速い。このように照射による加工性の改善は、PCLの用途の拡大に有効であると考えられる。

コメント    :
 低線量照射により加工性が改善でき有益な方法である。しかし、多官能性モノマーを使う場合は反応していない残存モノマーに注意が必要である。

原論文1 Data source 1:
High-Melt -Strength Polypropylene with Electron Beam Irradiation in the Presence of Polyfunctional Monomers
F. Yoshii, K. Makuuchi, S. Kikukawa, T. Tanaka, J. Saitoh, and K. Koyama
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic, Energy Research Institute Chisso Petrochemical Corporation, Faculty of Engneering, Yamagata University
J. Appl. Polym. Sci., 60, 617-623(1996)

原論文2 Data source 2:
Improvement of Processability of Poly (ecaproractone) by Radiation Techniques
D. Darwis, K. Nishimura, H. Mitomo, F. Yoshii
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute Department of Biological and Chemical Engineering, Faculty of Engineering, Gunma University Daicel Chemical Industries Ltd.
J. Appl. Polym. Sci., 74, 1815-1820(1999)

キーワード:照射、分岐構造、溶融粘度、線量、多官能性モノマー、伸長粘度 、生分解性ポリマー 、ポリカプロラクトン、ポリプロピレン 
irradiation,Buranch structure, Melt viscosity, Dose, Polyfunctional monomer, Elongational viscosity, Biodegradable polymer,  Polycaproractone, Polypropylene
分類コード:010105,010506

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