電子線によるポリ塩化ビフェニールの分解

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作成： 2000/09/25 石垣　功データ番号　　　：010196 電子線によるポリ塩化ビフェニールの分解目的　　　　　　：ポリ塩化ビフェニールの電子線照射による脱塩素化放射線の種別　　：電子放射線源　　　　：電子加速器(4.5 MeV、150 μA) 線量（率）　　　：2 - 100 kGy 利用施設名　　　：Czech Technical University, Faculty of Nuclear Science and Physical Engineering 照射条件　　　　：窒素雰囲気下応用分野　　　　：トランス油など各種PCB汚染物(液状)の無毒化概要　　　　　　：　高エネルギーの電子線照射によるポリ塩化ビフェニ-ル(PCB)の分解が検討された。アルカリ性イソプロピルアルコールを溶媒とし、PCB濃度が0.3～1.0 vol%の溶液に、加速エネルギー4.5 MeVの電子線を照射して脱塩素化による分解を調べた。PCBの分解は、照射線量とともに増加し、主生成物は、塩化カリウム、アセトン、低塩素化ビフェニ-ル、及びビフェニ-ルでγ線の場合と同じであった。水及びビフェニ-ルは分解に影響を与えなかったが、酸素及びアセトンは分解反応を阻害する効果を示した。エタノール溶液では放射線による脱塩素はほとんど起こらなかった。詳細説明　　　　：　　有害物質であるPCBの分解には、1100℃以上での焼却処理が現状ではベストであると考えられているが、その欠点は、費用であるとともに、1100℃以下では不完全となりダイオキシンのような極めて有毒な物質を生ずることである。一方、焼却法に変わる放射線分解法が有望視され、① PCBのアルカリ性イソプロパノール溶液、②PCB含有コンデンサー排油、③PCB汚染土壌などのCo‐60のγ線照射に関する研究が盛んに行なわれ、多数の報告が出されている。なお、電子線照射による含塩素化合物の分解では、塩素化炭化水素で汚染された空気や水中のハロゲン化炭化水素の分解が報告されている。線量依存性と分解生成物　　PCBのアルカリ性イソプロパノール溶液の電子線照射による分解の主な生成物は、塩化カリウム、アセトン、低塩素化ビフェニル及びビフェニルでありγ線の場合と同じであった。PCB濃度は、照射線量の増加とともに減少し、照射線量 20 kGy で, ビフェニルの生成のピークを経て、100 kGy で、微量のmonocholorobiphenyl と biphenyl のみとなり、PCBはほとんどが脱塩素化された(図1)。図1　 Chromatogram of DELOR 103 before irradiation 1-3-monochlorobiphenyl, 4-5-dichlorobiphenyl, 6-9-trichlorobiphenyl and 10-tetrachlorobiphenyl. Fig. 1b. As in Fig. 1a but after irradiation with the dose of 4 kGy. Fig. 1c. As in Fig. 1b but for the dose of 20 kGy. Fig. 1d. As in Fig 1b but for the dose of 100 kGy.（原論文1より引用。　Reprinted from Radiat. Phys. Chem., 50(5) Mucka,V.;Silber,R.;Kropacek,M.;Pospisil,M.;Klisky,V., Electron beam degradation of polychlorinated biphenyls,p.503-510(1997), with permission from Elsevier Science.）　アルカリ濃度依存性　PCBの脱塩素化に及ぼすアルカリ濃度の影響では、KOH濃度の増加とともに脱塩素化の程度が上がる。例えば 0.5 vol% PCB溶液のKOH濃度を種々変えて、20 kGy照射した場合の脱塩素化率は KOH濃度、 0, 0.05, 0.8 mol/dm³ dechlorination、　2.3 21.0 39.7 %　のようになり、KOH濃度とともに脱塩素化率は増加した。KOH濃度がさらに高い場合には、PCBの脱塩素化率は、照射線量約20 kGy まではほぼ直線的に増加するが、それ以上では、増加の程度が緩やかになった。これはKOH濃度の減少によるためであり、特に初期KOH濃度が低い場合には線量の増加にも拘わらず、脱塩素化率は低い一定値に飽和した(図2)。図2　 Dependence of the degree of dechlorination α[%] on the dose of irradiation D [kGy]（原論文1より引用。　Reprinted from Radiat. Phys. Chem., 50(5) Mucka,V.;Silber,R.;Kropacek,M.;Pospisil,M.;Klisky,V., Electron beam degradation of polychlorinated biphenyls,p.503-510(1997), with permission from Elsevier Science.）　雰囲気・溶媒組成等の影響　PCB溶液が脱気されていない場合には、照射線量が低いと脱塩素化率も低く、溶存酸素がPCBの分解を抑制するが、PCB溶液が0 - 2 vol% の水を含有していても、水フリーの溶液と同程度に脱塩素化は進行することが判明した(表1)。また、アセトン濃度が 0.125 mol/dm³ 以上では、20 kGy 照射された溶液でも顕著な抑制効果が見られ、さらに、アセトン濃度 0.3 mol/dm³ 以上では、γ線照射(Sawai et al.,1974)と同様に、脱塩素化は殆ど起こらないことが分かった。一方、PCBの溶媒として、イソプロパノールに代えて、エタノールを用いると脱塩素化反応は極端に低下した(表1)。表1　 Influence of biphenyl-concentration, deaeration and using of ethanol as a solvent on the degree of dechlorinaition α[%] after irradiation of PCBs-solutions with the D [kGy] doses.（原論文1より引用。　Reprinted from Radiat. Phys. Chem., 50(5) Mucka,V.;Silber,R.;Kropacek,M.;Pospisil,M.;Klisky,V., Electron beam degradation of polychlorinated biphenyls,p.503-510(1997), with permission from Elsevier Science.） ------------------------------------------------------------------------------------- α System studied D 6 20 ------------------------------------------------------------------------------------- A/ PCBs(0.5 vol.%), 2-propanol,KOH(saturated),deaerated 21.9 44.7 B/ As in A + biphenyl(1.3 vol.%) 21.8 44.3 C/ As in A but undeaerated 4.1 40.6 D/ As in A but ethanol instead of 2-propanol 2.7 7.7 ------------------------------------------------------------------------------------- 　脱塩素化の反応機構　電子線照射によるPCBの脱塩素化反応において、イソプロパノールは、γ線の場合と同様に重要な役割を演じているものと考えられる。本系の主生成物の定量分析から、アセトンおよび塩化カリウムの濃度は、OH^ーイオンの濃度の減少と殆ど等しく、また、反応初期の線量依存性から推定したCl^-イオン、アセトン、OH^-イオンのGi値は、PCB濃度 0.5 & 0.3 vol% に対して、約 100 のオーダであった。この値は、Sawai et al. (1974)の Gi(Cl^-) = 600 、Shingh et al. (1985) のGi(Cl^-) > 1000 よりもかなり低いけれども、本系電子線照射でも、PCBは連鎖反応的に脱塩素化されて分解しているものと考えられる。つまり、PCB溶液のγ線および電子線照射の両者に多くの共通した特徴があることから、両者はほぼ同じような反応機構で脱塩素化が起こっているものと考えられる。　結論 1. PCBのアルカリ性イソプロパノール溶液に、電子線を照射することにより、連鎖反応的にPCBの脱塩素化が進行し、分解される。 2. PCBの脱塩素化率は、KOH濃度及び照射線量の増加とともに高くなる。 3. 溶存酸素及びアセトンは、PCBの分解反応を抑制する。 4. 水(up to conc. of 1.1 mol/dm³)及びビフェニ-ル(up to conc. of 0.1 mol/dm³)は、PCBの分解には影響を与えない。 5. エタノール溶液中では、放射線脱塩素化は無視できる程度しか起こらない。コメント　　　　：　最近の加速器技術の進歩とともに、高エネルギー電子線を高出力で安定して発生・供給できる極めて信頼性の高い加速器が作られるようになり、従来のγ線を線源とした工業分野にも用いられつつある。本系のように、溶液系での比較的低分子の分解反応には、高エネルギー、高出力の加速器の特徴が極めて有用であると思われ、本件の基礎的検討をベースに、実用化のための工学的検討が望まれる。原論文１ Data source 1： Electron beam degradation of polychlorinated biphenyls. (1);Mucka, V.; Silber, R.; Kropacek, M.: Pospisil, M. (2);Klisky,V. (1);Czech Technical University, Faculty of Nuclear Science and Physical Engineering, 115 19, Prague, 1, Czech Republic (2);Comp. Polovodice, a.s., 140 00, Prague, 4, Czech Republic Radiat. Phys. Chem., 50(5), p. 503-510(1997) 参考資料１ Reference 1： The radiolytic chain dechlorination of polychlorinated biphenyls in alkaline 2-propanol solutions. Sawai, T., Shinokawa, T. and Shinozaki, Y. Bull. Chem.Soc. Jap., 47, 1889-11893(1974) キーワード：ポリ塩化ビフェニール、電子加速器、放射線分解、加速電子、脱塩素化、脱気、ガンマ線、連鎖反応 Polychlorinated biphenyls, Electron accelerator, Radiation degradation, Accelerated electrons, Dechlorination, Deaeration, γ-Rays, Chain reaction、分類コード：010505、040504、
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