放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2000/02/25 森田 洋右

データ番号   :010188
シングルサイト触媒重合ポリエチレンの放射線酸化劣化
目的      :シングルサイト触媒重合ポリエチレンの低線量率での耐放射線性評価
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Co線源(8,7PBq)、電子加速器(2MeV、30mA)
線量(率)   :10kGy/h(空気中γ線照射)、4.2〜4.6kGy/h(酸素加圧下γ線照射)、30kGy/path(0.5MV電子線照射)
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所、コバルト照射施設、同1号加速器
照射条件    :空気中、酸素加圧下(0.5MPa)
応用分野    :原子力施設などの電気絶縁材料
 

概要      :
 メタロセン触媒に代表されるシングルサイト触媒で重合した新規ポリエチレンの低線量での耐放射線性(耐放射線酸化劣化特性)、及びポリエチレンの結晶化度(密度)と耐放射線性の関係。
 

詳細説明    :
 
 原子力発電所や核燃料サイクル施設などの原子力施設や大型の加速器施設では多くの電線ケーブルや高分子絶縁材料が使用されている。実際の原子力施設などでの電線ケーブルの使用環境は、例えば、室温〜60℃の温度で放射線線量率は1Gy/h以下で数十年の長時間であり、このような環境下において機械的及び電気的特性を長期間維持することが要求されている。ケーブルの絶縁材として、ポリエチレンやエチレン−プロピレンゴムが用いられるが、特にポリエチレンはその電気絶縁特性が優れていることから使用されることが多い。しかし、上述のような低線量で長時間の照射では、通常、ポリエチレンは放射線酸化が進行して劣化する。空気中で数mm厚さのポリエチレンを10Gy/h以下の線量率で照射するとき、すなわち、ポリエチレン中に酸素が十分に拡散するような低線量率での耐放射線性を知る必要がある。また、ポリエチレンでは結晶化度がその耐放射線性に影響を与えるとされてきた。ポリエチレンの結晶化度(密度)と耐放射線性の定量的な関係も重要である。
 
 次世代のポリオレフィン系高分子材料としてメタロセン触媒に代表されるシングルサイト触媒で重合した新規ポリエチレンが注目されている。シングルサイト触媒ポリエチレンは非常にシャープな分子量分布を持つ均質なポリエチレンで、電気的特性に加え、機械的特性、低温特性、架橋効率、フィラーの分散性等様々な点で従来のマルチサイト触媒で重合されたポリエチレンより優れているとされている。さらに、超低密度ポリエチレンから高密度ポリエチレンまでの広い密度範圏のポリエチレンを一つのプラントで製造できるという利点も持っている。
 
 表1は結晶化度(密度)の異なる四種類のシングルサイト触媒ポリエチレン(以下S-PE-1〜4)、比較として用いた高圧法低密度ポリエチレン(HP-LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)及び超低密度ポリエチレン(V-LDPE)の密度と結晶化度を示す。

表1  シングルサイト触媒重合ポリエチレン及びその他のポリエチレンの特性(原論文1より引用)
                   試料ポリエチレンの特性
-------------------------------------------------------
                                           結晶化
              密度              MI           度
            (g/cm3)          (g/10分)       (wt%)
-------------------------------------------------------
  S-PEI       0.935            2.0           62
  S-PE2       0.915            1.0           47
  S-PE3       0.895           1.6           32
  S-PE4       0.875            3.0           20
 HP-LDPE      0.919            1.2            -
  L-LDPE      0.921            2.0            -  
  V-LDPE      0.900            0.5            -
-------------------------------------------------------
 
 図1に各種ポリエチレンを種々の条件で照射したときの破断伸びの変化を示す。電子線照射では線量率が高く短時間照射のため、ほとんど空気中の酸素が試料内部に供給されず、試料全体で架橋が起こっている。空気中でのγ線照射では、試料の表面部分が放射線酸化劣化して主鎖の切断反応が起きている。しかし、試料内部は酸素がほとんど拡散せず架橋反応が起きている。放射線酸化して切断反応の起きている部分と架橋部分の割合は線量率、試料の厚さ、酸素の拡散速度に依存する。酸素加圧下照射では照射中でも試料内部まで十分に酸素が拡散し、試料全体が放射線酸化劣化反応を起こしている。図から結晶化度の高いS-PE1を除き、電子線照射と空気中γ線照射の破断伸びはほぼ同じ挙動を示す。これは照射試料の力学特性が試料中の架橋部分によって支配されているためである。これに対して、試料内部まで酸化劣化している場合は試料の結晶化度によって明瞭に耐放射線性が異なる。すなわち、結晶化度の高いものほど耐放射線性が低くなる。結晶性の低いS-PE4は1000kGyの照射によっても破断伸びは初期値とほぼ同じ値である。これによって、同じポリオレフィン系高分子であるポリエチレンとエチレン−プロピレン共重合体の耐放射線性の違いを説明できる。無定型ポリマーであるエチレン−プロピレン共重合体は結晶性ポリマーであるポリエチレンよりはるかに耐放射線性が高い。


図1 シングルサイト触媒重合ポリエチレンの破断伸びの照射による変化 (a) シングルサイト触媒ポリエチレン、 (b) 従来のポリエチレン(原論文1より引用)

 
 図2は同じく各種のポリエチレンを種々の条件で照射したときの強度の変化を示す。強度は高結晶化度の方が電子線照射等では高い値を示すが、酸素加圧下照射ではあまり違いが見られない。また、試料の照射によるゲル分率や電子プローブマイクロアナライザーによる試料断面の酸化劣化領域の分布を測定する方法もポリエチレンの放射線酸化劣化の測定には有効である。


図2  シングルサイト触媒重合ポリエチレンの強度の照射による変化 (a) シングルサイト触媒ポリエチレン、 (b) 従来のポリエチレン(原論文1より引用)

 

コメント    :
 今まで、ポリエチレンの照射効果に関する研究は非常に多い。しかし、空気中での高線量率照射、すなわち、照射試料中で酸化劣化による主鎖切断反応と架橋反応が入り交じった状態で照射している場合がほとんどである。試料全体が酸化劣化している低線量照射試験の結果は少い。

原論文1 Data source 1:
シングルサイト触媒重合ポリエチレンの照射特性
緒方 昭雅、仁田 真、谷 恒夫、八木 敏明、森田 洋右
矢崎電線、日本原子力研究所
電気学会、誘電・絶縁材料研究会 DEI-97-149

参考資料1 Reference 1:
耐放射線性誘電・絶縁材料の最近の動向(I)
耐放射線性誘電・絶縁材料調査専門委員会
電気学会
電気学会技術報告(II部)第316号(1989)

キーワード:ポリエチレン、シングルサイト触媒、結晶化度、γ線、電子線、酸素加圧下照射、機械的特性、主鎖切断
polyethylene, single-site catalyst, crystallinity,γ-ray, electron beam, irradiation under oxygen pressure, mechanical property, main-chain scission
分類コード:010101

放射線利用技術データベースのメインページへ