液晶ポリマーの耐放射線性

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作成： 2000/02/25 森田　洋右データ番号　　　：010187 液晶ポリマーの耐放射線性目的　　　　　　：非常に高い耐放射線性(10MGy以上)を示す高分子材料放射線の種別　　：電子放射線源　　　　：コッククロフト・ウォルトン型電子加速器(2MeV,30mA) フルエンス（率）：電子線では10¹⁴/(cm²・s) 線量（率）　　　：3kGy/s 利用施設名　　　：日本原子力研究所高崎研究所1号電子加速器照射条件　　　　：ヘリウムガス気流中、室温応用分野　　　　：高い耐放射線性電気絶縁材料、機器・部品などの有機材料概要　　　　　　：　核融合炉周辺材料や宇宙材料の使用を目的として、100～1000MGy の高い耐放射線性有機材料が必要とされている。高分子主鎖が芳香環で構成されている液晶性ポリマーは高い耐放射線性と成形性や耐熱性を兼ね備える材料として有用である。　詳細説明　　　　：　　核融合炉周辺材料や宇宙材料の分野において、放射線が照射される雰囲気は真空中や不活性ガス中であるが100～1000MGy の耐放射線性絶縁材料が必要とされている。例えば、電線絶縁材、電機部品の絶縁材、パッキングやシール材などである。ポリエチレンなどの通常の高分子材料の耐放射線性は0.3～1MGyであり、上記の放射線環境は100～1000倍の高い耐放射線性材料を必要としている。高分子主鎖が芳香環で構成されている液晶性ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)は高い耐放射線性と成形性や耐熱性を兼ね備える材料として有用である。従来、高い耐放射線性を有する材料として、ポリイミドやポリエーテルエーテルケトンなどが知られているが、フィルム状であったり成形加工が難しい、また、高価であるなどの欠点があった。しかし、LCPは精密成形ができる、耐熱性がある、安価などから放射線照射下での利用が広がる可能性がある。　　最も一般的なLCPは芳香環を有するモノマーをエステル結合で縮合したもので、メソゲン(剛直な直線状部分)がパラヒドロキシ安息香酸から成るものとハイド口キノンテレフタレートから成るものとがある。現在、工業化されているLCPの主流は前者である。また、LCPは主鎖が主に芳香環であるため分子が直線状で剛直であり、溶融状態においても分子の絡み合いが少ない。このため、せん断応力を受けると一方向に配向し、これを冷却すると配向を保ったまま固化し、他のプラスチックにはない特異な性質を示す。LCPの主な特徴を以下に示す。1)高強度、高弾性率である、2)寸法安定性が良い、3)線膨張係数が低い、4)耐熱性が高い、5)ガスバリヤー性、6)耐薬品性がある。一方、問題点は1)力学的特性などに異方性がある、2)低ウェルド強度、3)低靭性、4)外観が良くないなどである。LCPは充填材を入れて使用することが多く、ガラス繊維、ミネラルなどのフイラーが充填される。フイラー充填によって、耐熱性の向上、ウエルド強度の向上、表面フイブリルの解消、異方性の緩和、成形性の改善などが得られる。LCPには特性によっていくつかの種類があり、例えば、熱変形温度を基準に、Ⅰ型(超耐熱性:250～350℃)、Ⅱ型(高機械的強度:180～250℃)、Ⅲ型(高流動性:60～180℃)などに分けられる。　　図１にLCPの分子の配向状態と多層構造を示す。LPC試料は配向方向によりその機械特性が異なり、配向方向の曲げ弾性率は配向に直角方向の約三倍である。また、LCPは多層構造(自己補強構造)を持ち、内部に配向していないコア層、この外部に強く配向したスキン層、さらに、スキン層表面には特に強く分子配向した表面スキン層が形成されると言われている。図２にガラス繊維の充填されたLCP(厚さ１～２mm)を200MGyまで大線量の電子線照射を行った結果を示す。曲げ弾性率及び曲げ強さとも200MGy 照射しても、低下は見られず、逆に、配向方向試料では明瞭に曲げ弾性率や曲げ強さが向上した。照射条件は雰囲気に酸素がなく、線量率が高いことから一般的に高分子では架橋が起きる条件である。このことから、LCPは 200MGy の大線量照射により、照射による温度上昇が起こり架橋反応が起きていると考えられる。図1　液晶ポリマー（LCP）の配向状態と多層構造 (a)配向状態 (b)多層構造（原論文1より引用）図2　電子線200MGy照射したLCPの曲げ弾性率および曲げ強さの変化（原論文1より引用）　　図３は種々のLCP試料の曲げ強さを示す。フィラー種類による比較では、曲げ弾性率はカーボン繊維(LPC-3)>ガラス繊維(LPC-2)>無充填(LPC-1)の順になった。フィラーの影響は初期の機械特性には関与しているが、耐放射線性に関しては違いが見られなかった。種々のLCPにおいても、耐放射線性は100MGy以上ある。図3　照射による液晶ポリマーの曲げ弾性率及び曲げ強さ変化。 (a)配向方向試料の曲げ弾性率　(b)配向方向試料の曲げ強さ　（原論文1より引用）　コメント　　　　：　照射施設や加速器などで耐放射線性の高い有機材料の使用の要望がある。しかし、有機材料の耐放射線性は酸素の有無（空気中か不活性ガス中か）によって大きく異なる。不活性ガスや真空下の雰囲気では、液晶ポリマー（LCP）の耐放射線性は高いことが分かったが、空気中でのγ線照射での耐放射線性はどの位あるのか。液晶ポリマーの耐放射線性の限界や耐放射線性の機構が分かると良い。　原論文１ Data source 1：液晶ポリマーの耐放射線性緒方　昭雅、仁田　真、谷　恒夫、八木　敏明、森田　洋右矢崎電線、日本原子力研究所電気学会、誘電・絶縁材料研究会資料 DEI-99-11(1999) 参考資料１ Reference 1： Degradation in tensile properties of aromatic polymers by electron beam irradiation T.Sasuga,N.Hayakawa,K.Yoshida,M.Hagiwara JAERI, Takasaki POLYMER,Vol.26,pp1093,1985 参考資料２ Reference 2：ポリイミドの大線量γ線照射効果森田　洋右、渡辺　清、柳生　秀樹原研、高崎研、日立電線電気学会絶縁材料研究会、EIM-88-129(1988) キーワード：液晶ポリマー、成形性、配向性、電子線、耐放射線性、高線量、曲げ強さ、曲げ弾性率 liquid crystal polymer, molding ability, orientation, electron beam, radiation resistance, high dose, flexural strength, flexural modulus 分類コード：010101
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