イオンビームによる医用高分子材料の開発

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作成： 1999/10/09 石垣　功データ番号　　　：010182 イオンビームによる医用高分子材料の開発目的　　　　　　：イオンビーム照射による高分子材料の表面改質放射線の種別　　：軽イオン,重イオン放射線源　　　　：イオン加速器フルエンス（率）：1 x 10¹⁵ ions/cm² 応用分野　　　　：人工臓器、人工血管、概要　　　　　　：　人工の医用材料が生体内に埋め込まれた際の生体反応は、生体がその材料を異物として認識することに起因する。高分子材料に生体適合性を持たせるには、表面修飾や改質により細胞の接着性・増殖性などの制御が必要である。生体適合性付与を目的として、イオンビーム照射を利用した各種高分子材料の表面改質研究について概説する。詳細説明　　　　：　　高分子材料を生体内に埋入した際の生体反応は、生体が材料を異物として認識することに起因する。高分子材料に生体適合性を持たせるには、表面修飾により細胞の接着性・増殖性などの制御が必要である。　　医療分野では、イオンビーム照射により耐摩耗性を改善した人工関節材料が既に実用化されているが、高分子材料にイオンを注入して生体適合性を付与する研究は未だ歴史が浅い。高分子にイオンを照射する場合には、注入されるエネルギーが高く且つ局在化するので、材質劣化(結合の破断)、炭化、或いは表面帯電などに留意する必要がある。　１．抗血栓性材料　人工臓器用材料として最も必要とされている機能は抗血栓性である。医療用シリコーンに、種々のイオンを照射(加速エネルギー 150 keV, 照射量 1x10¹⁷～3x10¹⁷ ions/cm² )した試料をラット総頚静脈-心臓に留置し血小板の粘着量を調べた。イオンビームを照射することによって、試料表面の血小板の集積が減少した。また、肝臓などへの集積についても減少が認められ、循環する血小板の活性化と損傷も軽減された。　２．細胞接着性材料　生体適合性の一つとして細胞適合性がある。多くの細胞は基質に接着することでその生命を保つ性質を有する。血管内皮細胞が全く接着しないセグメント化ポリウレタンが、イオンビームを照射(加速エネルギー　50, 100, 150 keV、照射量　1x10¹⁵ ions/cm²　以上)することによって細胞が接着するようになった(図1)。また、細胞接着性を有するポリスチレンへのイオンビーム照射により細胞の接着量が増加した。これらは He⁺, Ne⁺, Ar⁺, Kr⁺, Na⁺　などのビーム照射で観察された。図1　イオンビーム照射されたセグメント化(b)と未照射(a)上での細胞の増殖性（原論文2より引用）　３．細胞非接着性材料　一方、蛋白質のような細胞接着性の生体高分子に、イオンビーム照射により、細胞非接着性を付与することが可能である。コラーゲンをコーティングしたポリスチレンにNe⁺, Ar⁺, Na⁺などのイオンを照射(50, 100, 150 keV, 1x10¹⁵ ions/cm²以上)して、子宮頚部ガン細胞(HeLa細胞)と接触させた結果、イオンで照射された部位にはHeLa細胞が接着していないことが認められた(図2(b))。細胞の接着性の制御は、バイオセンサーや抗血栓性材料の設計に極めて有用である。図2　Ar⁺イオンビームを照射したコラーゲンコーティングポリスチレンへのHeLa細胞の接着状態（原論文3より引用）　コメント　　　　：　医学及び医療技術の進展とともに、医用材料に対する要求はますます厳しく且つ高まるものと考えられる。医用材料の開発研究は長い歴史を有するが、この分野へのイオンビーム利用は歴史が浅く、人工骨への応用があるだけで今後の研究の進展を待たれるところである。イオンビーム照射は、従来のγ線や電子線と比較して、極めて高い制御性を有する。この特徴を利用して、生体が有する複雑な機能に適応した分子レベルでの材料の改質・修飾を行うことにより、優れた医用材料が開発されるものと期待される。原論文１ Data source 1：イオンビームと表面・表層・界面のかかわり(V)　医用材料へのイオンビーム照射効果鈴木　嘉昭、中尾　愛子、岩木　正哉ソニー㈱、理化学研究所 IONICS(アイオニクス),　第21巻第6号、5-16(1995) 原論文２ Data source 2：イオンビーム照射と医用高分子雀部　博之、李　載錫、鈴木　嘉昭理化学研究所、韓国光州科学技術院、ソニー㈱高分子加工、44巻10号、434-439(1995) 原論文３ Data source 3：イオンビーム照射による医用高分子の表層改質鈴木　嘉昭、日下部　正宏、貝原　真、岩木　正哉ソニー㈱、理化学研究所放射線と産業、No.62, p.9-13(1994) キーワード：医用高分子、生体適合性、抗血栓性、表面改質、イオンビーム、医用材料、イオン注入、 biomedical polymers,　biocompatibility, thronbogeneity, surface modification, ion beams, biomaterials, ion implantation, 分類コード：010101, 010204, 010304,
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