ハイドロゲル創傷被覆材

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作成： 1999/08/24 石垣　功データ番号　　　：010180 ハイドロゲル創傷被覆材目的　　　　　　：放射線橋架けによるPVAハイドロゲルと創傷被覆材の開発放射線の種別　　：電子放射線源　　　　：電子加速器(3 MeV, 25 mA) 線量（率）　　　：10-100 kGy 利用施設名　　　：日本原子力研究所高崎研究所2号加速器応用分野　　　　：創傷被覆材概要　　　　　　：　外傷や熱傷など皮膚欠損部を保護するとともに治癒を促進する効果のあるとされるハイドロゲル創傷被覆材の開発。PVA水溶液から作成したフィルムに熱処理を行い部分的に分子配向による結晶化をさせると共に、次いで電子線を照射して非晶部に橋架けを導入することにより、耐熱性、機械的強度、透明性に優れたハイドロゲルの製造方法を開発した。詳細説明　　　　：　　ハイドロゲルは、親水性高分子の分子間が橋架けされて多量の水を保持することができ、特にポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)は生体親和性に優れ、生体・医用材料への応用が期待されてきた。一方、外傷や火傷などの傷は乾燥環境よりも湿潤環境の方が早く治癒することが知られている。従って、創面をハイドロゲルで被うことにより外部からの細菌感染を防止するとともに、浸出液を吸収し、かさぶたを形成せずに、新生皮膚(表面細胞)が成長するので治癒が促進される。　　放射線を利用したハイドロゲル創傷被覆材としては、PVP水溶液を放射線により25 kGy照射を行い、橋架けと滅菌とを同時に行ったものがポーランドで実用化されている。また、PVAハイドロゲルの一般的な製法としては、濃厚水溶液の凍結・解凍の繰り返しによる結晶化や、ホルムアルデヒドによる化学橋架けあるいは、濃厚水溶液の放射線橋架けによる分子間網目構造の導入等により製造が可能である。しかし、これらの方法で作成されたハイドロゲルは、煮沸滅菌等の操作に耐えうる耐熱性や機械的強度が十分ではなく、このままでは創傷被覆材として必ずしも実用には適したものではなかった。　　本方法では、PVAフィルムを熱処理と放射線照射により創傷被覆材に適したハイドロゲルを得ようとするものである。その調整法を図1に示す。図1　熱処理と照射の組合せによる耐熱ハイドロゲルの調整法（原論文2より引用）　　ハイドロゲルAは、PVAフィルムを水に浸漬し、プレハイドロゲルで照射(熱処理なし。比較対照品)。ハイドロゲルBは、照射前に 175 ℃, 5 min の加熱処理し、水に浸漬した後照射(照射前加熱処理)。ハイドロゲルCは、Aを更に175 ℃, 5 min の加熱処理し、その後水に浸漬(照射後加熱処理)。これらハイドロゲルのゲル分率と引張り強さの照射線量依存性を図2に示す。図2　熱処理と照射の組合せによるハイドロゲルのゲル分率と引張り強度の照射線量依存性（原論文2より引用）　　照射前に熱処理をしない A 及び C は照射線量 30 kGy でゲル分率 90 % に達するが、B は熱処理によりマトリックスの結晶化が起こり、ゲル分率 90 % に達するのに照射線量 100 kGy を必要とした。一方ハイドロゲルの引張り強さは、照射により橋架けが進行するにも拘らず、何れの場合も低下した。特に A 及び C は 100 kGy 照射により引張り強さのない脆いゲルになるが、B は照射後もある程度の引張り強さを保っている。200 kGy 照射し 10 分間の煮沸処理 B は透明で弾性があり、伸びは 120 % であった。15 分間の煮沸処理を4回繰り返した後も、最初の煮沸後の強度(1 MPa)と 120 % の伸びを保持した。　　オートクレーブ滅菌のような高温(121℃)にも耐えるハイドロゲルを得るために、ホルムアルデヒドによる化学橋架け(アセタール化)と電子線照射による改質を行なった。PVAフィルム(含水率　20 - 30 %)はPVA水溶液から成膜した。アセタール化反応は、市販のホルムアルデヒド水溶液(濃度37%)60 g、硫酸 50 g、及び無水硫酸ナトリウム 300 gを水1lに溶解した液に、PVAフィルムを浸漬して行なった。次いで、電子線を 100 kGy 照射したハイドロゲルの加熱滅菌時間と強度の関係を図3に示す。図3　アセタール化後照射処理したハイドロゲルの引張り強度と伸びの滅菌時間依存性（原論文1より引用）　　滅菌前の引張り強度 20 MPa が 15 分で約 10 MPa に低下するが、その強度は 90 分まで保持される。このような耐熱性は、放射線橋架け或いはアセタール化のみの単一処理では達成できない。この方法で得た PVA ハイドロゲルをモルモットの火傷部に貼り付け、その治癒効果を調べた結果を図4に示す。比較として滅菌ガーゼを用いたが、ハイドロゲルの方が治癒が早く創面が短期間の内に小さくなっている事を示している。図4　火傷モルモットの治癒の進行状況（原論文1より引用）　　耐熱性PVA ハイドロゲルは、創傷被覆材として①透明性がよく、治癒経過の観察が可能、②高温滅菌ができ、強度がある、③治癒が早い、④剥離が容易で、疼痛を与えない、等の特徴がある。　コメント　　　　：　煮沸やオートクレーブ等の加熱滅菌の可能な創傷被覆材の開発を目的とした、放射線橋架けと加熱処理、或いは化学橋架けとの組合せによるポリビニルアルコールハイドロゲルの改質である。放射線照射だけではゲル分率は高くなるものの引張り強度は低下し、また加熱処理との併用でも、強度はある程度保持されるが煮沸滅菌後は極めて低くなる。アセタール化との併用により、オートクレーブ滅菌の可能な耐熱性ハイドロゲルが得られている。創傷被覆材としては、①毒性のあるホルムアルデヒドの使用、及び②最近の医療用具の滅菌法は熱・薬剤から放射線に移行、の観点から、アセタール化の必要はないであろう。原論文１ Data source 1：放射線法ハイドロゲル創傷被覆材の開発吉井　文男日本原子力研究所　高崎研究所放射線と産業、No. 75, p. 63-65(1997) 原論文２ Data source 2：電子線による耐熱性ハイドロゲル吉井　文男、幕内　恵三日本原子力研究所　高崎研究所高分子加工、43巻5号、p. 209-213(1994) 原論文３ Data source 3：放射線橋かけポリビニルアルコールハイドロゲルの熱安定性吉井　文男、幕内　恵三、Zainuddin*, Adjat Sudradjat*, Darmawan Darwis*, Mirzan T. Razzak* 日本原子力研究所　高崎研究所, *;National Atomic Energy Agency, Centre for Application of Isotopes and Radiation 医器学、62巻6号、p. 285-289(1992) キーワード：放射線橋架け、ポリビニルアルコール、創傷被覆材、ハイドロゲル、親水性ポリマー、耐熱性、滅菌、化学橋架け、radiation crosslinking, poly(vinyl alcohol), wound dressing, hydrogels, hydrophilic polymers, heat resistant, sterilization, chemical crosslinking, 分類コード：010101, 010204, 010402
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