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作成: 1999/11/10 粕谷 健一

データ番号   :010178
水系での放射線硬化樹脂の開発
目的      :紫外線および電子線を用いた水中での高分子合成
放射線の種別  :電子
照射条件    :室温
応用分野    :表面コーティング、塗装

概要      :
 揮発性有機溶剤(VOC)の規制に代表される近年の地球環境問題や臭気などの作業環境に対する意識の高まりによって、工業用塗装、コーティングなどで、溶剤中心の塗料から水系化、粉体化、および無溶剤化へと変化してきている。そのなかで、無溶剤化可能な紫外線・電子線硬化樹脂が注目されている。ここでは、水系での紫外線・電子線(UV・EB)硬化樹脂の特徴および合成法について述べる。

詳細説明    :

 水系でのUV・EB硬化樹脂の特徴としては、1. 水による粘度調整が可能である。2. 水希釈タイプであれば、スプレーなどの塗装でも安全である。3. 揮発性有機溶剤を全く使用しないことが可能である。4. 薄膜化が可能である。皮膚刺激性、臭気がなく、安全である。水系でのUV・EB硬化樹脂は、水分散型と水溶性型の2つのタイプに分類することができる(図1)。水溶性型の場合は、放射線が未照射であればほとんど重合しない。このため塗装剤として用いた場合、未重合時の洗浄性に優れている。一方、水分散型の場合、乾燥後、分散剤が塗装表面に残存するため、洗浄性は良くない。水希釈性および水溶液の粘性挙動に関しても水溶性型の方が優れている。しかしながら、水溶性型の場合、構造に親水基を含む必要があるため、構造上のバリエーションが水分散型と比較して乏しいという欠点がある。


図1 The difference between the water dispersion and water soluble types.(原論文1より引用)


 一方、具体的な水分散型の放射線硬化樹脂の合成およびその性質として以下の例を挙げる。フィルム形成能のあるポリスチレン/ポリ(ブチルアクリル酸-co-グリシジルメタクリル酸)(PS/P(BA-co-GMA))を核にもつラテックス粒子が2段階乳化重合法によって作成された。GMAを後から添加することによって、表面にエポキシ基を露出させた(図2)。


図2 Surface modification of core-shell particles using MAHEMA, MAHEMA-5, and MAHEMA-10.(原論文2より引用)


 この表面エポキシ基が、1、5、10の不飽和オキシレンユニットを有するカルボニル基のグラフト部位として用いれらた。UV照射後のポリマーの性質が調べられた。グラフトはFTIR,H-NMRを用いて調べられた。架橋効果は、熱的あるいは動的機械的分析により調べられた。示差光熱量計は硬化能力の評価に対して用いられた。5個のオキシレンユニットを持つ試薬は、他のものと比較してより多く主鎖にグラフトされ、照射により完全に硬化されフィルムになることが明らかとなった。このように、水分散型の放射線硬化樹脂は、機能樹脂としての開発が、水溶性型と比較して容易であると言える。

コメント    :
 水系での放射線硬化樹脂の開発は、環境問題への一つの対処法になりうる。本方法においては、副生成物の発生が無く、また有機溶媒の使用が不要である。

原論文1 Data source 1:
水可溶性放射線硬化樹脂の開発
祝迫 浩一、高橋 真希
第一工業製薬(株)樹脂資材事業部
ポリファイル,Volume 33, Number 5 (1996), pp.49-51

原論文2 Data source 2:
Influence of spacer groups on grafting ability, curing ability, and film properties of water-based radiation curable latexes.
J. Odeberg, J. Rassing, J. Joesson, B. Wesslen
Center for Chemistry and Chemical Engineering(Sweden)
Journal of Applied Polymer Science,Volume 70, Number 5 (1998), pp.897-906

キーワード:水溶性、水系、放射線硬化樹脂
water-soluble, water-based, radiation curable resin
分類コード:010101

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