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作成: 1999/11/01 吉井 文男

データ番号   :010176
低エネルギー電子加速器による天然ゴムラテックスの放射線加硫
目的      :放射線加硫天然ゴムラテックスの開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :日新ハイボルテージ(株)社製低エネルギー電子加速器(300 kV, 100mA),
岩崎電気(株)製 175 kV 及び250 kV, Co-60線源(10 kGy/hr)
線量(率)   :300kVについては20から 60mA、175kVと250kVについては5から9mA
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所の低エネルギー加速器とコバルト棟第6セル
照射条件    :窒素気流中
応用分野    :検査用ゴム手袋、手術用ゴム手袋、避妊具、

概要      :
 放射線加硫の実用化のためには、大量照射技術の開発と照射コストの低減が主要な研究課題でる。低エネルギー電子加速器はコバルト60線源で必要な遮蔽や大きな建屋が不要であり、照射コストの低減に有利と考えられる。低エネルギー電子線の問題は、透過力が低いことである。反応糟方式と回転ドラム方式による実験を行い、低エネルギー電子加速器が放射線加硫に使用できることを明らかにした。両方式を比較すると、回転ドラム方式は連続照射ができるという実用上の利点がある。

詳細説明    :
 
 放射線加硫天然ゴムラテックスフィルムの特徴は、発ガン性のニトロソアミンが副生しない、接触皮膚炎の恐れがない、自然環境下で容易に分解する、たんぱく質アレルギーの恐れが少ないなどである。これまでの放射線加硫天然ゴムラテックスの製造では、主にコバルト-60からのγ線を用いてきた。本研究では、二つの照射装置を使い低エネルギー電子線による放射線加硫を行った。図1は撹拌することにより電子線を吸収するラテックス表面層が絶えず更新され、照射されたラテックス粒子は直ちに容器内部へ移動し、新たに未照射ラテックスが表面に現れる上下循環流動型である。


図1 Outline of vessel type irradiator   (原論文1より引用)

 300keVの電子線を用い40mAと電流値を一定にし、撹拌速度を100〜200rpmで変えて照射すると、150rpmが最も高い橋かけ速度を与え、最高29MPaの強度をもつゴムフィルムが得られた。これは100rpmであると撹拌が十分でなく、200rpmでは、上下循環が過剰であるため、ラテックス粒子飛沫が容器カバーに付着し、電子線の透過を低下させたためである。加速電圧を300keV、撹拌速度を150rpmと一定にし、線量率に対応する電流値を20〜60mAまで変化させ、照射すると線量率依存性が現れ、高線量率ほど橋かけ速度が小さい結果が得られた。回転ドラム方式の放射線加硫方法が図2である。得られた結果が図3である。ラテックス層の厚さは90μmであるため、加速電圧175kVでも十分加硫でき、フィルム強度は上下循環方式よりも高いくらいである。


図2 Outline of drum type irradiator   (原論文1より引用)

 以上のように低エネルギー電子加速器でも十分放射線加硫が可能であることが実証された。これは高・中エネルギーやコバルト-60のような遮蔽の大きな建屋が不要であることから、コストの低減につながり、実用化を促進する技術となる。


図3 Tensile strength and swelling ratio of NR film prepared from irradiatted latex with drum type irradiator □:Tensile strength, irradaiatede with EB of 250kV ■:swellinratio, irradaatede with EB of 250kV ○:Tensile strength, irradaiatede with EB of 175kV ●:swellinratio, irradaatede with EB of 175kV(原論文1より引用)



コメント    :
 これまで低エネルギー加速器は透過力が小さいため、液状物質の改質は困難とされてきた。本論文により、照射中の撹拌を液状試料が下から上にあがるように撹拌すれば、低エネルギー加速器でも十分液状物質の改質に使用できると考えられる。

原論文1 Data source 1:
低エネルギー電子加速器による天然ゴムラテックスの放射線加硫
幕内恵三(1)、吉井文男(1)、武井太郎(2)、木下忍(2)、Feroza Akhtar(3)
(1)日本原子力研究所高崎研究所、(2)岩崎電気株式会社、(3)バングラデッシュ原子力研究所
日本ゴム協会誌、69巻、500 - 506 (1996)

参考資料1 Reference 1:
ゴムラテックスの低エネルギー電子線架橋方法
幕内(1)、吉井(1)、大山(2)、大泉(2)
(1)日本原子力研究所高崎研究所、(2)岩崎電気株式会社
公開特許公報(A)特開平8-257499

参考資料2 Reference 2:
ゴムラテックスの低エネルギー電子線による加硫方法
幕内、吉井
日本原子力研究所高崎研究所
公開特許公報(A)特開平8-73609

キーワード:天然ゴムラテックス、加硫、低エネルギー電子線、γ線、撹拌タイプ照射容器、ドラムタイプ照射容器、均一橋かけ、オゾン接触
natural rubber latex, vulcanization, low energy electron beam, gamma-rays, mixing type irradiation vessel, drum type irradiation vessel, uniform crosslinking, ozone contact
分類コード:010101, 010104

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