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作成: 1999/12/16 坂本 俊貴

データ番号   :010174
放射線環境下における光ファイバセンシングの適用
目的      :市販の光ファイバー式温度センサに対する耐放射線性の性能評価と高放射線環境下の蛍光光ファイバ-の評価
放射線の種別  :ガンマ線,中性子
放射線源    :60Co
線量(率)   :160kGy、1100Sv/min
利用施設名   :BR1 reactor at SCK・CEN, MOL ,Belgium 他
照射条件    :温度は常温〜100℃
応用分野    :原子力プラント設備の温度モニタリング、放射線量測定

概要      :
 市販品で入手可能な3種類の光ファイバー温度センサについてガンマ線を照射して、耐放射線性の比較を行った。3種類のセンサは半導体吸収、ファブリペローキャビティ型、蛍光センサの3種類で行った。一方、放射線測定に光ファイバーセンサを使用する目的で、当領域で光ロス増の少ない近赤外領域の蛍光測定をガンマ線照射下で試験した。その結果、照射量と蛍光ピーク値の直線性が確認され、放射線測定に利用できる可能性を見出した。

詳細説明    :
 
 入手可能な市販光ファイバー温度センサの耐放射線性について現状レベルを把握する目的で、3種類のセンサ-のガンマ線照射下での温度測定誤差を比較評価した。センサは半導体式センサー、ファブリペローキャビティセンサ、蛍光センサを使用した。
 
 半導体式センサーはGaAs半導体結晶の吸収端特性を、ファブリペローキャビティセンサは温度により光路差を発生させ、干渉を測定することにより、蛍光センサは蛍光波長の温度依存性を利用して温度計測を行うものである。
 
 試験のセットアップ状況を図1に示す。各センサ2個を評価用熱電対と共にアルミニウム製のシリンダ-内の小孔部に設置し、シリンダ-外周上に巻いた熱源で温度サイクルを行える様にした。ガンマ線照射期間中、10℃刻みで40〜80℃の温度サイクルを行い、各センサと評価用熱電対の温度を比較した。半導体吸収センサが耐放射線特性に最も優れ、ガンマ線トータル線量160kGy(装置限界)まで照射しても、精度良く温度測定が可能であった。(図2に結果を示す。)この理由としてGaAs半導体結晶の吸収端波長においてはガンマ線照射による影響が少ない領域であり、またファイバの詳細な種類は不明であるが、ファイバ種類の選定に配慮がなされているものと考えられる。ファブリペローキャビティセンサは、ガンマ線照射に対して大きな劣化傾向を示した。また蛍光センサは照射量250Gy後に温度測定不能状態となった。半導体吸収センサ以外のセンサの放射線による劣化は、測定原理等の本質的な問題と言うよりは、光ファイバの選定等、構成上の問題と思われる。
 
 半導体吸収センサはガンマ線照射の結果が良好であったので、さらに中性子線の影響を試験した。適用した照射束は1.93〜2.44(1011n・cm-2・S-1)である。温度測定に大いに影響があった。


図1 アルミニウムシリンダー内の光ファイバーセンサと熱電対の配置 (原論文1より引用。 Reproduced from IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE, VOL.45, NO.3, JUNE, 1537-1542, 1998, Fig. 6(p-1539), Francis Berghmans, Frans Vos and Marc Decreton, Evaluation of Three Different Optical Fibre Temperature Sensor Types for Application in Gamma Radiation Environment, Copyright(1998), with permission from IEEE)



図2 温度50℃における熱電対と半導体吸収センサの温度読値の差 (原論文1より引用。 Reproduced from IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE, VOL.45, NO.3, JUNE, 1537-1542, 1998, Fig.9(p-1540), with permission from IEEE)

 原子力設備に対して、これらのセンサで採用している強度変調方式のセンサを適用することは、慎重に行わなければならないと思われる。ファイバの伝送損失は、放射線環境下で大いに影響を受ける。伝送損失の増加・変動が起こると、測定精度の劣化につながるためである。構成、使用波長およびファイバの選定を充分に行い、伝送損失の劣化を極力少なくすることが重要となる。
 
 光ファイバーポイント型放射線計への応用には、従来からX線シンチレータが用いられてきており、950〜1050nmの近赤外領域の蛍光を利用することはいままで考慮されていなかった。近赤外領域は、高放射線フィールドでも光ファイバーの伝送損失への影響がすくないため、放射線計測用に有用と考えられる。近赤外領域のシンチレータとしての可能性を評価するために、Co-60ガンマ線照射下でGd2S2O:Pr2+ の蛍光特性測定した。図3に示す。


図3 Cd2S2O:Pr2+ 近赤外蛍光スペクトル (原論文2より引用)

 照射線量と近赤外ピーク値は直線性があり、放射線計への適用の可能性がある。またガラスシンチレーティング・ファイバを開発するため、Eu3+とZBLANドープガラスとPr3+ドープのガラスの蛍光スペクトルを測定した。いずれも赤外または近赤外発光が観測された。これらの材料はガラスシンチレーティング・ファイバへの適用が期待される。900-1100nmの波長領域は、高放射線領域下における伝送損失の観点からも有利であり、精度の良い、より寿命がながい放射線計の可能性があり、今後の研究の進展が期待される。

コメント    :
 放射線計への応用においては、長波長発光を利用する手法が提案された。当手法により、線量率の高い場所への応用が可能となり、今後に注目していきたい。

原論文1 Data source 1:
Evaluation of Three Different Optical Fibre Temperature Sensor Types for Application in Gamma Radiation Environment
Francis Berghmans
Belgian Nuclear Research Centre
IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE,VOL.45,NO.3,JUNE,1998 

原論文2 Data source 2:
Application of Optical Fiber Sensing to High Radiation Fields
中沢 正治、高田 英治、細野 米市
東京大学工学部
共用設備管理部門総合研究部門年報

キーワード:ファイバーセンサ、温度センサ-、半導体センサ、ファブリペロー式、蛍光センサー、γ線照射
fiber sensor, temperature sensor, semiconductor sensor, fabry-perot sensor, fluorescence sensor, gamma radiation
分類コード:010202

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