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作成: 1999/12/14 坂本 俊貴

データ番号   :010173
放射線環境下における光ファイバ-分布型センサの適用
目的      :放射線環境下における光ファイバ-センサの性能及び測定法
放射線の種別  :ガンマ線,中性子
放射線源    :60Co,24Na
線量(率)   :60Coγ線:3.1×103 Gy(SiO2)/hr、中性子線:1.9×103 Gy(SiO2)/hr、γ線:1.7×103 Gy(SiO2)/hr
利用施設名   :高速中性子源炉「弥生」、高速実験炉「常陽」
照射条件    :常温〜80℃
応用分野    :プラントの安全モニタリング、高線量率領域用センサ-システム、

概要      :
 高放射線環境下における分布型光温度センサー、光ファイバセンサの性能および測定法。分布型光ファイバーセンサーの原子力プラント設備への適用性評価のため、実際の実験炉を使用したフィールド試験、センシング用ファイバとして使用されるフッ素ドープ石英コア光ファイバーについて放射線照射実験を行い、性能評価した。適用波長の選定、今回開発した温度補正を行うにより、実プラントへの適用が期待される。

詳細説明    :
 
 分布型光温度センサは、光ファイバの特長である軽量性、耐電磁環境性に加えて光ファイバに沿って、温度の分布測定が可能なセンサとして多分野で適用されている。
分布型温度センサは光ファイバーにレーザー光源を入射させ、その後方散乱光としてラマン散乱光を利用し、温度測定を行う。受信されるラマン散乱光は非常に微弱であり、温度精度は信号対ノイズ比で決定される。
 
 光ファイバが放射線環境下にある場合、下記の2つの理由により測定温度精度が低下する。
(1)カラーセンターの生成により、光ファイバーの伝送損失が増加する。伝送損失が増加するとラマン散乱受信光の信号対ノイズ比が劣化し、温度精度の低下を招く。
(2)伝送損失の増加には、波長依存性があり、通常、1100nm程度までは短波長ほど伝送損失が大きくなる。ラマン方式はレーリー散乱光の両サイドに発生するストークス光とアンチストークス光の比により、温度を求めるため、伝送損失に波長依存性があると測定誤差となる。
 
 これらの影響を評価するため、高速実験炉・常陽(動力炉・核燃料開発事業団)において実験を行った。図1に設置状況を示す。変換器は日立電線製FTR010(レーザー光源波長:1054nm)、光ファイバはSUS保護管付きポリイミド50/125GI型を用いた。当光ファイバーを常陽一次系配管の外装板表面に、約50cmピッチで螺旋状に巻き付けて固定した。また評価用温度センサとして熱電対(TC)を3箇所設置して比較した。


図1 常陽一次系への光ファイバー及び熱電対の設置状況(原論文1より引用)

 常陽の運転サイクルに合わせて、測定した結果、評価用熱電対との温度誤差は最大約30℃であった。配管表面でのγ線量率は6.4×103〜7.7×103R/hでほぼ一定に近いと考えられる。温度精度を向上する手法として熱電対による補正を試みた。放射線量が一定と考えられるため、熱電対基準間の光ファイバーの伝送損失が一定と考えると基準熱電対管の温度補正が可能となる。結果を図2に示す。基準熱電対TC-1とTC-3間において補正前はTC-2において誤差は8℃であったが、補正後には約2.5℃まで改善された。本補正方式は放射線量の一様性を前提としているが、通常運転時の温度分布を再現しており、有用な手法と考えられる。一方、欠点として基準用温度として熱電対を用いなければならない。この欠点を解決する手法として、ループ状設置による補正方法を新たに提案している。これはファイバ布設を検出器側から見て、ループにして布設し、光ファイバー上に同一放射線・温度条件の場所を2対つくることにより温度補正を行うものであり、ファイバ単独での測定が可能となる。模擬試験の結果もほぼ温度分布が再現されている。今後のフィールド検証による評価、また原子力プラントへの適用が期待される。


図2 TC-1、TC-3の測定結果を用いた誤差補正結果(原論文1より引用)

 また、放射線環境下に適用する光ファイバーセンサには、光ファイバー自体の耐放射線性を向上することが必要である。現在、最も耐放射線性の高いフッ素ドープ石英コア光ファイバーへの中性子照射時の影響を評価した。トータルの照射線量が1573Gy(SiO2)の時点での結果を図3に示す。損失の波長依存性については、特に700nm以下の短波長領域の損失が大きい。800nm以上の波長領域では中性子の有無による損失スペクトルの相違が少ない。センサの測定精度を向上させるためには、先の補正方法の検討に加えて、センサ光源の波長選定も重要なファクターとなる。


図3 フッ素ドープ光ファイバ-における放射線誘起損失スペクトルの比較(原論文3より引用)



コメント    :
 分布型温度光ファイバーセンサは、光センサの中でも最先端技術の1つであり、広範囲な用途展開が期待されている。今後、当センサの高分解能化、高速応答性の技術開発の進展によっては、原子力プラント設備への安全モニタリング等にも応用が考えられ、注目される技術の1つである。

原論文1 Data source 1:
光ファイバーによる温度・放射線分布測定法
高田 英治
東京大学
JAERI-Conf 98-011 pp.67-71(1998)

原論文2 Data source 2:
光ファイバーセンサ-の原子力プラントへの適用
木村 敦、Jensen Fredric、高田 英治、中沢 正治、高橋 浩之
東京大学・工学部
UTNL-R, pp.41-42 (1998)

原論文3 Data source 3:
放射線環境下における光ファイバー分布測定法に関する研究
中沢 正治、高田 英治、細野 米市、F..B.H.Jensen、木村 敦、高橋 浩之
東京大学・工学部
UTNL-R, pp.40-41 (1998)

キーワード:光ファイバー、温度分布センサ、ラマン散乱、放射線、中性子線照射、γ線照射
optical fiber, distributed temperature sensor, raman scattering, radiation, neutron irradiation, gamma irradiation
分類コード:010202

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