電子線処理による廃水からの重金属除去

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作成： 1999/10/15 須藤　高史データ番号　　　：010165 電子線処理による廃水からの重金属除去目的　　　　　　：廃水中の重金属除去放射線の種別　　：ガンマ線,電子放射線源　　　　：電子加速器(～32Mev)、⁶⁰Co線源線量（率）　　　：～160kGy 利用施設名　　　：メリーランド大学UM　V7715J(～7MeV)、NIST-MIRF(8-32MeV)、UM　⁶⁰Co U-12　線形加速器(～5MeV) 照射条件　　　　：水中(空気飽和、脱気) 応用分野　　　　：工場廃水処理、廃棄物処理場廃水処理、土壌汚染処理概要　　　　　　：　廃水の電子線照射により重金属イオンの還元を行い、濾過により除去する方法の開発を行った。水の放射線照射により生成する水素原子や水和電子は還元反応に寄与するが、同時に生成するOHラジカルや溶存酸素は還元反応を抑制する。脱気した廃水にOHスカベンジャーとして蟻酸やエタノールを添加し、Cd、Pb、Cr、Hg等をキレートも含め低線量で除去できた。詳細説明　　　　：　　廃水から重金属を除去することは環境保全上、重要なことである。各種の廃水から重金属を除去するための電子線処理法を研究した。この方法は各金属イオンを金属やより低価のイオンに還元し、濾過により除去する放射線化学還元法を基にしている。CdやPbの場合は溶存酸素を少なくすることと、還元された金属イオンを再度酸化するOHラジカルを取り去ることの2つが必要である。電子線処理での還元は、金属イオンと水の放射線照射により生成する水和電子や水素原子との反応の結果である。水に空気が溶解している場合は、酸素と水和電子や水素原子が反応し、イオンの還元反応は抑制されてしまう。また、酸素との反応で生成した過酸化水素は還元されたイオンを再度酸化してしまう。そのため、照射により酸素を消費した後に、期待される還元が始まることになり、金属イオン除去に必要な線量を増加させる。水の照射により生成した活性水酸基も還元されたCdやPbイオンをまた酸化してしまう。この活性水酸基の逆効果を取り除くために、活性水酸基を還元剤に変換するスカベンジャーを用いる。蟻酸イオンは活性水酸基と作用し、COO^-活性イオンを生成し、金属イオンを還元できる。CO₂が発生するが、毒性はない。エチルやイソプロピルアルコールは同様にスカベンジャーとして使用されるが、酢酸やアセトンの有害物を生成し、活性RCHOHは還元されたCdイオンを酸化する。ここではCd、Pb、Crのモデル水溶液からの除去につき実験した。 Cd、Pbは2価のイオンであったが、完全に還元され、Crはクロム酸イオンの形で6価のものが3価に還元された。実験では水溶液を空気で飽和するか、Arガスのバブリングで脱気するかのいづれかが選択された。照射により生じた析出物は濾過あるいは遠心分離にて除去した。　　図1に空気飽和のPb水溶液で、初期のPb2価イオン濃度5mg/dm³の電子線照射による濃度変化を示す。曲線1は蟻酸なしで、曲線2は10^-²mol/dm³の蟻酸を加えた場合である。蟻酸なしの場合には1kGyの照射でも、脱鉛は顕著ではない。蟻酸がある場合は照射初期には変化は小さいが、その後は急速に減少している。初期の停滞は、水溶液中の酸素の存在の効果であり、酸素が消費された後は還元が順調に進むことが分かる。この場合はPb濃度が5から1mg/dm³に減少するのに0.7kGy必要であるが、初期濃度10-20 mg/dm³の場合はやや高い1.0-1.2kGyの線量が必要であった。図1　Dependence of Pb^Ⅱ concentration in aerated aqueous solution in the absence of fomate (1) and in the presence of 10^-²mol dm^-³ formate (2) on the dose of electron radiation.（原論文2より引用。　Reproduced with permission　from Mendeleev Commun., 52-53, 1997, Fig.2(p.53), Pikaev, Alexei K. , Kartasheva, Lidiya I. , Zhestkova, Tat'yana P. , Yuric, Tamra K. , Chulkov, Vladimir N. , Didenko, Oleg A. , Kim, DukKyung , Kim, Yuri , Han, Bumsoo., Removal of heavy metals from water by electron-beam treatment in the presence of an hydroxyl radical scavenger; Copyright(1998).）　図2にクロム酸水溶液の場合を示す。クロム酸の初期濃度は5mg/dm³であり、曲線1、2は図1と同様に蟻酸の有無で濃度は9.6x10^-³mol/dm³である。曲線3は、曲線1、2が空気飽和の水溶液に対し、脱気を行いかつ蟻酸は無しの場合である。空気飽和で、蟻酸がない曲線1では6価クロムイオン濃度の減少はほんの僅かで、酸素や活性水酸基の影響で、還元反応が進まないことを示す。蟻酸添加の効果は、空気飽和の場合が顕著で、曲線2は曲線3と同じ傾向を示している。図2　Dependence of Cr^Ⅵ concentration in aerated neutral aqueous solution in the absence of fomate (1) and in the presence of 9.6x10^-³mol dm^-³ formate (2) and in deaerated neutral aqueous solution (3) in the absence of fomate on the dose of electron radiation.（原論文2より引用。　Reproduced with permission　from Mendeleev Commun., 52-53, 1997, Fig.3(p.53).）　　水銀に関しても、エタノールをスカベンジャーとして除去実験がなされている。HgCl₂の10^-³mol/lの水溶液に1%のエタノールを添加し、電子線やγ線照射し、Hg²⁺の除去に少なくとも3kGy必要である。また土壌洗浄用キレート剤として使用されるエチレン2アミン4酢酸とPbとの複合体に関しても、還元や分解反応により、図3に示すごとく活性水酸基スカベンジャーとしての炭酸ナトリウムの添加で脱鉛可能であった。図3　Percentage removal of Pb from aqueos solution of (Pb EDTA)²^- (PbCl₂ (1x10^-³ L mol^-¹) and EDTA(1.2x10^-³ L mol^-¹)) versus absorbed dose by e-beam ( dose rate = 50 kGy/pulse). ◆N₂-saturated; pH=8, ■N₂-saturated air-saturated with sodium carbonate(4 x10^-³ L mol^-¹);pH= 11,　▲ air-saturated with sodium carbonate(4 x10^-³ L mol^-¹);pH= 11. （原論文1より引用。　Reproduced from Radiation Physics and Chemistry 53(1998) 145-150, Fig.2(p.148), Chaychian, Mahnaz , Al-Sheikhly, Mohamad , Silverman, Joseph , McLaughlin, William L., The mechanisms of removal of heavy metals from water by ionizing radiation;Copyright(1998), with permission from Elsevier Science.）　コメント　　　　：　地下水も含め水の重金属汚染は環境保全上重要であり、簡易に除去できる本方法は有望である。効率的な照射方法と低線量化を図れば、実用化できる技術である。原論文１ Data source 1： The mechanisms of removal of heavy metals from water by ionizing radiation Chaychian, Mahnaz , Al-Sheikhly, Mohamad , Silverman, Joseph , McLaughlin, William L. * Department of Materials and Nuclear Engineering, University of Maryland, *Ionizing Radiation Division, NIST Radiation Physics and Chemistry 53(1998) 145-150 原論文２ Data source 2： Removal of heavy metals from water by electron-beam treatment in the presence of an hydroxyl radical scavenger Pikaev, Alexei K. , Kartasheva, Lidiya I. , Zhestkova, Tat'yana P. , Yuric, Tamra K. , Chulkov, Vladimir N. , Didenko, Oleg A. , Kim, Duk Kyung* , Kim, Yuri* , Han, Bumsoo* Institute of Physical Chemistry, Russian Academy of Sciences, *Samsung Heavy Indutries Co., Daeduk R&D Center Mendeleec Commun.52-53, 1997 原論文３ Data source 3： Radiation-Initiated Removal of Heavy Metals from Water Al-Sheikhly, Mohamad , Chaychian, Mahnaz , McLaughlin, William L. * Department of Materials and Nuclear Enjineering, University of Maryland, *Ionizing Radiation Division, NIST Radiation Processing of Waste Water - 1 参考資料１ Reference 1：放射線グラフト重合技術を利用した重金属吸着用脱水シートの研究太田良和弘、松本　豊、田村　久恵、須郷　高信* 静岡工業技術センター、 *日本原子力研究所高崎研究所第7回環境科学討論会予稿集　、1998 キーワード：電子線、γ線、廃水処理、重金属除去、還元、カドミウム、鉛、クロム、水銀 electron beam, γ-rays, waste water treatment, removal of heavy metals, reduction, cadmium, lead, chromium, mercury 分類コード：010502,010504,010505
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