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作成: 1999/10/30 須藤 高史

データ番号   :010164
揮発性有機物の放射線分解処理
目的      :揮発性有機物による空気汚染の浄化
放射線の種別  :電子,ガンマ線
放射線源    :電子加速器(3MeV,25mA)、電子加速器(2MeV)、60Co線源(444GBq)
線量(率)   :〜17.5kGy、〜270kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所2号加速器、University of Tennessee Space Institute
照射条件    :空気流中、窒素気流中
応用分野    :排煙処理、排ガス処理

概要      :
 空気流中の揮発性有機物(VOC)を放射線照射により分解し除去する。ベンゼン等の芳香族化合物やトリクロロエチレン等の塩素含有エチレン系化合物等の除去試験を行った。照射により生成した活性種がVOCと反応し、酸素と結合することにより有機酸等の低分子物質や、炭酸ガス、水にまで分解される。芳香族では低線量でエアロゾルを生成し、フィルター、遠心分離等で捕集できる。

詳細説明    :
 
 揮発性有機物(VOC)とは、ベンゼン、トルエン、トリクロロエチレンなどの高い揮発性を有する有機物の総称である。VOCは洗浄や塗装のプロセスなど、各種産業分野で使用され、深刻な大気、土壌等の環境汚染の原因となる。これらのVOCを処理するための方法が提案されている。溶剤除去、紫外線照射分解、オゾン酸化、ポリマー化、微生物分解、触媒酸化等である。高濃度の場合の活性炭吸着や低濃度の場合の直接燃焼法等もあるが、単に濃度を高めるための前処理にすぎなかったり、効率が悪く、さらに他の汚染物質を生成する危険もある。ここでは電子線やγ線による分解法の開発を行った。
 
 工場などの排ガス、主に換気ガスは、通常空気が主で、これに数百から数ppmオーダーの微量のVOCが含まれる。排ガスに電子線照射を行うと、ガスの主成分である窒素、水、炭酸ガス、酸素からOH、O、HO2等の非常に反応性が高い活性種と呼ばれる原子や分子が生成する。これらの活性種は、排ガス中に含まれるVOCと反応し、さらに酸素が結合することにより有機酸などの低分子となり、最終的には炭酸ガスと水にまで分解される。VOC濃度が高い場合には多量の電子線が必要で、処理コストは高くなるが、低濃度では少ない電子線で微生物分解が可能な有機酸や炭酸ガスにまで分解できる。また、ベンゼン等の芳香族化合物では、低線量照射でフィルター等による捕集が容易なエアロゾルに変換できる。
 
 実験には所定濃度のVOCを混合したモデルガスを使用した。芳香族のキシレン、トルエン、クロロベンゼン、ベンゼンの実験から、クロロベンゼン、ベンゼンはキシレン、トルエンに比べ分解し難い。クロロベンゼンの場合は分解に伴い塩素が離脱する。また、これらの物質からはエアロゾルが生成した。図1に代表例として初期濃度約90ppmのキシレンの結果を示す。吸収線量の増加に伴いキシレン濃度は低下し、エアロゾルや有機酸と思われる有機ガス状生成物及び炭酸ガスは増加している。80%分解のために15kGyの線量が必要だが、低濃度であればより低線量で処理可能である。バッチ方式でのキシレン照射では窒素中も空気中も結果にほとんど変わりはなかった。しかし、γ線照射と比較した場合、電子線照射による分解効率はその70%程度であった。


図1 キシレンの分解生成物(原論文1より引用)

 図2にクロロエテンの結果を示す。分子に含まれる塩素の数が多いほど分解されやすい傾向にある。モノクロロエチレンは初期濃度が低いため直接の比較は困難だが、クロロエテン中ではもっとも分解し難い傾向にある。比較のために、クロロエテンではないジクロロエタンでの結果は、線量を上げても分解し難く、クロロエテンの多くは分解しやすいことが分かった。トリクロロエチレンの照射の場合、有機ガス状物質が生成し、アルカリ液で容易に吸収できた。この物質はさらに線量増加により徐々に減少し、炭酸ガスが生成した。芳香族でみられたエアロゾルの生成はほとんど観察されない。生成物は主に炭酸ガスと塩酸に変換されると考えられる。


図2 クロロエテンの電子線分解(原論文1より引用)

 
 文献2ではクロロエテン等の分解反応の運動量モデルによる予測式を提案し、実験結果とよい一致を示した。
 
 図3に電子線による排ガス浄化プロセスの概念図を示す。低エネルギー加速器を本処理に用いる場合、窓箔の耐久性等の課題はあるが、安価で設置も容易となる。300keVで50cm程度の飛程は充分とれる。有機塩素化合物の場合は腐食対策が必要である。


図3 排ガスの電子線処理フロー(原論文1より引用)



コメント    :
 VOC濃度の低い工場排ガス等に有効な方法である。低エネルギー電子加速器の高効率化、大電流化、低価格化等の課題も緩和されてきており、VOC濃度が高くなってきても対応可能となるであろう。

原論文1 Data source 1:
電子線による揮発性有機物処理技術の開発
橋本 昭司
日本原子力研究所高崎研究所
ECO INDUSTRY, Vol. 3, No. 12, 1998

原論文2 Data source 2:
E-beam based destruction of volatile organic contaminants
Anshumali, Winkleman, B.C., Sheth, A.C.
University of Tennessee Space Institute
Proceedings. International Conference on Incineration and Thermal Treatment Technologies, 1997

原論文3 Data source 3:
Effect of Ionizing Radiation on Decomposition of Xylene and Benzene Contained in Air
Wu, Chunki* , Hakoda, Teruyuki , Hirota, Koichi , Hashimoto, Shhoji
*China Nuclear Information Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, JAERI
エアロゾル研究 Vol. 12, No. 2 , 1997

キーワード:電子線、γ線、空気汚染除去、揮発性有機物、エアロゾル、芳香族化合物、ベンゼン、トリクロロエチレン
electron beam, γ-rays, air pollusion control, VOC, aerosol, aromatic compounds, benzene, trichloroethylene

分類コード:010505,010501

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