プラズマイオン注入法を用いた複雑形状物の表面処理技術

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作成： 2000/01/15 堀野　裕治データ番号　　　：010159 プラズマイオン注入法を用いた複雑形状物の表面処理技術目的　　　　　　：プラズマイオン注入法を用いて、安価でかつ複雑形状物に対応できる表面処理技術の開発放射線の種別　　：軽イオン,重イオン放射線源　　　　：プラズマイオン注入装置(100kV) 利用施設名　　　：イオン工学センター全方位型イオン注入装置照射条件　　　　：真空中、ガス気流中応用分野　　　　：自動車エンジン部品の表面加工、ローラー、歯車等の大型産業部材の表面加工、切削工具の表面処理、湿式メッキの代替技術概要　　　　　　：　イオン注入技術は半導体以外の分野でも研究が盛んに行われ、多くの研究成果を得たが、イオンビームの指向性から産業部品等の複雑形状物への均一注入、成膜は困難で、装置の高価格もあり、産業化は広くは進まなかった。米国で開発されたPBII(Plasma Based Ion Implantation)は、プラズマ中の被加工物に負のパルス電圧を印加するすることにより、プラズマ中のイオンを引き出しイオン注入する方法で、複雑形状物に安価で、生産性よく均一注入、成膜ができる。詳細説明　　　　：　　イオン注入は半導体、電子材料の分野で利用され、半導体がICからLSIに展開するにつれてその利用は一段と活発になってきたが、その他の分野、特にエンジニアリングの分野では多くの研究成果、例えば表面硬度の増加、耐摩擦の1桁に及ぶ改善、摩擦損の1桁に及ぶ減少などの効果にもかかわらず、実用面で足踏み状態にある。その理由は、古くから実用化されてきたイオン窒化、プラズマCVD、アーク式イオンプレーティングなどの簡便な手法による表面改質に比べて、イオンビームを利用した表面改質が性能など多くの利点を有するものの、経済性に問題があったことによる。さらに、イオンビームはビームに指向性が出て、二次元の平面加工物には最適であるが、立体形状、複雑形状を有するものには不適であった。　　1986年米国のウイスコンシン大学のコンラッド博士によって開発されたPBII(Plasma Based Ion Implantation)はプラズマをベースにしたイオン注入装置で、立体形状物に対応できる(参考文献1)。プラズマイオン注入技術の特徴を下記に示す。　 (1)立体形状物への均一垂直注入ができる。 (2)大電流イオンビームによる自己加熱制御ができる。 (3)材料そのものの特性を損なうことなく、表面の物性のみを変えることができる。 (4)生産性を従来のイオン注入装置の3倍以上、経済性を従来の1/2以下にすることができる。図1　従来のイオン注入(a)及び(b)とプラズマイオン注入(c)及び(d)の比較。(a)従来のイオン注入方式、(b)マスク必要：イオンが端部でスパッタを起こすため、(c)プラズマイオン注入方式、(d)マスク不要：イオンが全方位から垂直に入射されるため。（原論文1より引用）　従来型のイオン注入とプラズマイオン注入の概念の違いを図1に示す。図1(a)、(b)のように、従来型では立体形状を有する被加工物への一様なイオン注入をする場合、被加工物の回転機構を装置内に設けねばならず、装置コストがかかり、大型の被加工物への注入が困難となる。そのため、大量生産には不向きである。一方、図1(c)、(d)に示すように、大型の部材や複雑形状物への均一な表面改質のためにはイオンビームを二次元的ではなく、三次元的に発生させる。被加工物をプラズマ中に浸し、イオンを引き出し注入することにより、回転機構を設けることなく、三次元形状を有する物体に一度にイオンの注入を行うことができる。　　　プラズマイオン注入にはガスプラズマ、固体元素プラズマ及びそれら複合したものなどがある。ウイスコンシン大学によって開発されたのはガスプラズマ中のイオン引き出しで、ロスアラモス研究所(LANL)で強力に研究開発が進められた。固体元素イオンに関してはローレンスバークレイ研究所(LBL)で推進されており、固体の蒸発源を利用してパルスアークガンにより固体プラズマが引き出される(参考文献2)。図2(a)、(b)に示すように、プラズマイオン注入装置はプラズマ発生源、プラズマ中のイオンを引き出すパルス源、真空容器から構成される。図2　プラズマイオン注入原理概念図。(a)ガスプラズマソースイオン注入(PSII)装置(University of Wisconsin, Los Alamos National Laboratoryで開発中)、(b)メタルイオン注入(PIII)装置(Lawrence Berkley Laboratoryで開発中)（原論文1より引用）　プラズマ発生源としてガスプラズマの場合はアンテナ方式、RF方式、ECR方式を利用し、固体元素プラズマの場合は、真空アーク蒸発源、バケット型蒸発源、非平衡マグネトロンスパッタ源等を利用してプラズマを発生する。固体の場合、金属イオン種によって発生の難度があり、発生にふさわしい蒸発源が選ばれる。一種類のプラズマ源による処理を始め、各種プラズマ源を搭載して、金属化合物を成膜、さらにその上に同時または交互に金属イオンを注入するなど、複合的に処理することが可能である。図3　パルス電圧の印加によるプラズマシースの変化（原論文1より引用）　図3はパルス電圧を印加した場合の基板表面付近のプラズマシースの変化を示す。試料まわりのプラズマ中のイオンはプラズマシースのシース電圧によって加速され注入される。印加されるパルスの長さは通常数十μsである。パルス電圧を印可するとプラズマ中の電子は基板表面から遠くに追いやられ、イオンは質量が大きいのでほとんど動かずイオンのみが残る。数μs程度経過して電界が強くなると、イオンは基板表面の方向に加速される。イオンが基板に衝突すると、基板付近の電荷のバランスが崩れ、さらに電子はイオンと逆方向に加速され、シースの厚みは増加する。　　プラズマイオン注入では、注入分布に特長がある。従来法によるイオン注入の場合、イオンはある深さをピークにしてほぼ正規分布する。一方、パルスイオンビームの場合は基板である被加工物の表面からほぼ一様に深さ方向にイオンが注入される。この理由は、パルス電圧波形が時間に依存し、イオンの加速電圧が時間とともに低い方から高い方に変化するからである。深さに一様に注入されることは、表面改質の立場からすると好都合で、従来のイオン注入で加速電圧を変化させて行う多重注入と同等である。コメント　　　　：　プラズマをベースにしたイオン注入は複雑形状物へのイオン注入、膜形成が可能で、安価で生産性に優れていることから、産業界の期待は大きい。省エネルギーに有効な手段の一つとして材料の軽量化、薄形化が挙げられており、軽量材料の耐摩擦性、耐食性など環境に対する機能を付与し、材料の長寿命化、高品質化などの技術開発が産業界から強く要望されている。当該技術はそれらに応え、かつ近い将来環境問題等から利用ができなくなることが懸念されている湿式メッキの代替技術としても期待されていて、その波及効果は大きいと思われる。原論文１ Data source 1：三次元イオン注入による立体形状物の表面処理鈴木泰雄㈱イオン工学研究所　(現在、日新電機㈱) 応用物理　第67巻　第6号　(1998)　pp.664-667 参考資料１ Reference 1： Sheath thickness and potential profiles of ion-matrix sheaths for cylindrical and spherical electrodes J. R. Conrad University of Wisconsin J. Appl. Phys. vol.62, (1987) pp.777-779 参考資料２ Reference 2： Plasma synthesis of metallic and composite thin films with atomically mixed substrate bonding I. G. Brown, A. Anders, S. Anders, M. R. Dickinson, I. C. Ivanov, R. A. MacGill, X. Y. Yao and K.-M. Yu Lawrence Berkeley Laboratory Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B80/81, (1993) pp.1281-1287 キーワード：プラズマ、イオン注入、三次元イオン注入、プラズマイオン注入、 plasma, ion implantation, three-dimentional ion implantation, PBII, PSII, 分類コード：010304,010302,010102
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