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作成: 1999/01/11 斎藤 恭一

データ番号   :010155
一軸および二軸配向したポリマーフィルムを基材とするイオン交換膜の放射線グラフト重合法による作成
目的      :延伸配向したエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムからのカチオン交換膜の作成
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(520 kV,4 mA)
線量(率)   :30-50 kGy
応用分野    :電気透析、拡散透析

概要      :
 電子線前照射グラフト重合法を適用して、一軸あるいは二軸配向したエチレン-ビニルアルコール共重合フィルムにスチレンスルホン酸のカリウム塩をグラフトしてイオン交換膜を作成した。イオン交換基密度の異なるイオン交換膜を作成できた。含水率、透過性、塩の除去率、比電気抵抗、引張強度、伸度などを測定した。基材フィルムの形態が膜特性に与える効果について議論した。

詳細説明    :
 
 分離技術用の膜には、高透過性、高排除率、そして強度が要求される。水溶液系で膜を利用するときには、膜は不溶性であると同時に水に膨潤する必要がある。こうした性質をもたせるには疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合体が適している。そこで、エチレンとビニルアルコールとの共重合体(以下、EVALと呼ぶ)フィルムを基材にして、前照射グラフト重合法を適用し、イオン交換膜を作成した。ここでは、延伸によって配向の異なる2種類のEVALフィルムにスチレンスルホン酸カリウム(以後、SSKSと略記)を接ぎ木した。得られた強酸性カチオン交換膜の物性、ここでは、含水率、水蒸気透過率、輸率、水酸化カリウムの拡散速度、塩排除率および透過流束、電気抵抗、そして引張強度と伸度を測定した。
 
 まず、二軸配向EVALフィルム基材イオン交換膜に比べて、一軸配向EVALフィルム基材イオン交換膜の含水率は高くなった。これは水が侵入して膨潤するアモルファス部の割合が高いからである。
 
 つぎに、水酸化カリウムの拡散速度(膜単位面積、単位時間あたりのKOHの拡散透過量、以後、PHDRと略記)を測定した。


図1  Plot of KOH diffusion rate vs SSKS degree of grafting for mono- and bi-oriented EVAL film.(原論文1より引用。 Reproduced from J. Membrane Sci., 49, 321-340(1990), Fig.5(p.329), A. Mey-Marom, S. Shkolnik, Irradiation grafted ion-exchange membranes from uniaxially and biaxially oriented copolymer films; Copyright(1990), with permission from Elsevier Science.)

 横軸にSSKSのグラフト率、縦軸にPHDRをとって図1に示す。一軸配向EVALフィルム基材ではグラフト率50%までPHDRは直線的に増加した。一方、二軸配向EVALフィルム基材では、PHDRは35%で屈曲点を示し、その後増加して、50%で平坦になった。二軸配向EVALフィルム基材イオン交換膜のPHDRが低いのは、二方向への延伸に伴う高分子鎖の再配列によって、透過物質に対して膜の屈曲率が増加したためである。
 
 さらに、実用上、重要な物性として、得られた膜の機械的強度を測定した。ここでは、一軸および二軸配向EVALフィルムを基材にしてSSKSをグラフトして作成したイオン交換膜の降伏点および破壊点までの引張強度(それぞれTSYおよびTSBと略記)、そして伸度を測定した。


図2  Plot of tensile strength in machine direction vs SSKS degree of grafting for mono-oriented EVAL film.(原論文1より引用。 Reproduced from J. Membrane Sci., 49, 321-340(1990), Fig.7(p.332), with permission from Elsevier Science..)

 一軸配向EVALフィルム基材イオン交換膜の、SSKSグラフト率とTSY、TSBとの関係を図2に示す。グラフト率約20%までTSYが低下するのはグラフト重合に伴い結晶化度が減少するためである。それ以上のグラフト率では機械的強度に影響しない。


図3  Plot of tensile strength in machine direction vs SSKS degree of grafting for bi-oriented EVAL film.(原論文1より引用。 Reproduced from J. Membrane Sci., 49, 321-340(1990), Fig.8(p.333), with permission from Elsevier Science.)

 一方、二軸配向EVALフィルム基材イオン交換膜では、TSYもTSBもSSKSグラフト率7%まで急激に減少し、それ以上のグラフト率ではTSBは直線的に減少し、TSYは一定となった(図3)。これはグラフト高分子鎖(poly-SSKS鎖)が導入されることによって、二軸配向フィルムでのEVAL高分子鎖間の接触が減ったためである。
 
 一軸配向EVALフィルム基材イオン交換膜の伸度はSSKSグラフト率の増加につれて大きく減少した。一方、二軸配向EVALフィルム基材イオン交換膜の伸度はSSKSのグラフト率が増えると増加した。両イオン交換膜とも、グラフト率70%で約150%というほぼ同一の伸度を示した。

コメント    :
 高分子フィルムを基材として、放射線グラフト重合法を適用してイオン交換膜を作成する手法は有効な手法であり、すでに電池用隔膜(ポリエチレンフィルムにアクリル酸をグラフト重合させて作成した膜)は実用化されている。ニーズに合わせて基材の組成や結晶化度を選ぶことによって、放射線グラフト重合法を適用しイオン交換膜を作成できる。グラフト重合法で作成すると、外部溶液の変化によって膜の膨潤や収縮が起きるので許容範囲内でのグラフト率の設計が必要になる。

原論文1 Data source 1:
Irradiation grafted ion-exchange membranes from uniaxially and biaxially oriented copolymer films
A. Mey-Marom, S. Shkolnik
Department of Radiation Chemistry, Soreq Nuclear Research Center
J. Membrane Sci., 49, 321-340(1990)

キーワード:放射線グラフト重合法、イオン交換膜、スチレンスルホン酸塩、配向高分子フィルム、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、透過係数、引張強度、伸度
radiation-induced graft polymerization, ion-exchange membrane, styrenesulfonic acid salt, oriented polymeric film, ethylene-vinyl alcohol copolymer film, permeability, tensile strength, elongation
分類コード:010201, 010107, 010502

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