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作成: 1998/11/04 吉井 文男

データ番号   :010151
放射線橋かけポリカプロラクトンの耐熱性
目的      :ポリカプロラクトンの耐熱性を放射線照射により改善する。
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Co
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所コバルト第二棟
照射条件    :真空中及び空気中、照射温度、30℃から80℃
応用分野    :農業、医用、包装

概要      :
 ポリカプロラクトン(PCL)を固相の30℃から55℃、溶融状態(融解相)及び過冷却状態(過冷却相)で空気中と真空中で照射し、橋かけ挙動を調べた。融解相照射は室温照射に比べて高い確率で橋かけが起こるが、照射中の生成ガスにより多くの気泡が観察された。80℃で融解したPCLを45℃に温度を下げ、過冷却状態で照射すると、気泡も生成せず三つの相の中で最も橋かけしやすいことを見出した。この橋かけPCL(160kGy照射の80%のゲル分率)を200℃で熱プレスし得たフィルムは、110℃で0.667MPaの荷重下で3時間を経過しても切断しない耐熱性のあるものである。また、120℃の引張り試験でも3MPaの強度がある。未照射PCLは、60℃で直ちに溶解し、切断する。さらに過冷却橋かけ試料は、透明であり、熱収縮機能がある。

詳細説明    :
 
 (はじめに)近年廃プラスチックが環境を汚染することから、使用後土壌中の微生物により炭酸ガスと水に分解する生分解性ポリマーが注目されている。生分解性ポリマーには、ポリ(3ーヒドロキシブチレート)、3ーヒドロキシブチレート・3ーヒドロキシバリレート共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン(PCL)がある。これらのポリマーは熱成形温度範囲が狭いものやPCLのように耐熱性が60度以下のものがある。PCLは包装材や医用材料として使われいるが、用途の拡大には耐熱性の改善が不可欠である。放射線による耐熱性の改善には、橋かけが最も有効である。ポリエチレン(PE)は室温でも橋かけ反応は起こるが、融点温度に近いほど橋かけ反応が起きやすくなる。最近では、テフロンは放射線分解型のポリマーとされていたが、融点以上の340℃という特殊な条件で橋かけ反応が起こることが見出されている。本レポートはPCLを室温の固相、融解相及び過冷却相で照射し、橋かけ挙動と橋かけPCLの耐熱性を調べた。
 
(実験)用いたPCLはダイセル化学工業(株)から入手したPCL-H7で数平均分子量が1.28x105である。照射は15mmの試験管を使い、真空中と空気中とで種々の温度で、10kGy/hrの線量率で行った。
 
(結果と考察)PCLを室温の固相、80℃の融解相及び80℃で融解後45℃の過冷却相で照射した。室温でも橋かけは起こるが、大線量を要し、ゲル分率も40%程度で飽和してしまう。融解相では橋かけが進行し、100kGy照射で60%のゲル分率が得られる(図1)。しかし、照射中の分解ガスに起因すると思われる気泡が生成した。これを防ぐため、融解後温度を下げ、45℃の過冷却相で照射した結果、溶融相よりも高い橋かけが起き、気泡の生成がないものが得られた。この過冷却相を確認するため、照射前のPCLのDSC測定を行ったのが図2である。融解後温度を25℃及び30℃に下げると、結晶化ピークが現れる。35℃でブロードなピークが現れる。しかし、45℃では長時間経過しても結晶化ピークが現れず、非結晶状態を保持している。この相状態が高い確率で橋かけ反応を引き起こす。過冷却相で得た試料を200℃の熱プレスにより100μmの厚みに成形したフィルムの室温の強度は、未照射の50MPaに対し150kGyに最大値があり、80MPaに達した。耐熱性は150℃でも溶融せず、120℃で3MPaの強度があった。クリープ試験による耐熱性の評価では、0.667MPaの荷重下で未照射は融点の60℃で瞬時に切断してしまうが、80%のゲルをもったものは、150℃でも30分保持できる。このように過冷却相で照射したPCLは高い耐熱性が得られることが分かった。過冷却相で照射し、熱プレスによって得たフィルムは透明性にも優れていた。


図1  Effect of dose on the gel fraction of PCL irradiated in vacuum: (■)the supercooled state; (△ ) the molten state (80℃). (原論文1より引用。 Reproduced from J. Appl. Polym. Sci,, Vol. 68, 581-588 (1998), Fig.4(p.584), D. Dawis, H. Mitomo, T. Enjoji, F. Yoshii, K. Makuuchi, Heat Resistance of Radiation Crosslinked Poly(epsiron-caprolactone); Copyright(1998) by permission of John Wiley & Sons, Inc., All Rights Reserved.)



図2 Isothermal crystallization curves at various temperatures for 16 h after melting at 80℃ of unirradiated PCL. (原論文1より引用。 Reproduced from J. Appl. Polym. Sci,, Vol. 68, 581-588 (1998), Fig.5(p585), by permission of John Wiley & Sons, Inc.)



原論文1 Data source 1:
Heat Resistance of Radiation Crosslinked Poly(epsiron-caprolactone)
D. Dawis, H. Mitomo, T. Enjoji, F. Yoshii, K. Makuuchi
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, JAERI, Watanuki-machi, Takasaki, Gumma-ken 370-12, Japan
J. Appl. Polym. Sci,, Vol. 68, 581-588 (1998)

キーワード:ポリカプロラクトン、γ線, 橋かけ、耐熱性、過冷却相、透明性、照射、融解相、固相、polycaprolactone、gamma-rays、crosslinking、heat resistance、supercooled state、transparency、irradiation、molten state、solid phase
分類コード:010106, 010107, 010108, 010207

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