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作成: 1998/12/10 吉田 勝

データ番号   :010148
活性官能基をもつポリマー粒子
目的      :反応性ポリマー粒子の開発とその応用
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(104MBq)
線量(率)   :2-30kGy, 10kGy/h
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所コバルト棟
照射条件    :窒素気流中、室温からドライアイス温度
応用分野    :免疫診断用微粒子、酵素固定化用微粒子、薬物ターゲッティング用微粒子

概要      :
 有機溶媒中で疎水性ビニルモノマーをγ線重合する過程で微粒子状ポリマーを得る技術を確立した。この技術を用いて、活性官能基をもつコポリマー微粒子を合成し、次いで酵素を固定化することによりバイオリアクターへの応用を検討した。

詳細説明    :
 
 ジエチレングリコールジメタクリレート(疎水性架橋型モノマー、2G)とオルト蟻酸メチルエステルを混合し(5%モノマー溶液)、窒素雰囲気中で60Co線源からのγ線を室温、静置状態(非撹拌)において10kGy照射したとき、混合液系から重合によって析出してくるポリマーが微粒子化することを見いだした。電子顕微鏡観察から、この微粒子の形は球状からなり、そのサイズはコールターカウンター測定によって1.55μmであることが分かった(表1)。

表1 Radiation-induced polymerization of 2G in the presence of MOF and characteristics of radiation-polymerized polymeric microspheres.(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., 30, 39-45 (1987), Tab.1(p.40), M. Yoshida, M. Asano, I. Kaetsu, Y. Morita, Characteristics of Polymer Microspheres Prepared by Radiation-Induced Polymerization in the Presence of Organic Solvents; Copyright(1987), with permission from Elsevier Science.)
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     Irradiation condition     Characteristic of polymeric microsphere
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     Temperature  Dose       Polymer yield  Shape of polymeric     Size
No.     (℃)      (kGy)          (%)            particle           (μm)
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 1       25                       74         Complete sphere    1.55±0.54
 2        0                       57         Complete sphere    1.75±1.09
 3      -43         10            34         Complete sphere    1.76±1.21
 4      -78                        9         Spongy mass            −
 5                   2            14                            1.34±0.67
 6                   5            27                            1.38±0.71
 1       25         10            74         Complete sphere    1.55±0.54
 7                  30            97                            2.40±0.93
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a Solution (5 vol% monomer) was irradiated  without stirring.
    
 このような微粒子のサイズは、照射温度(例えば、-43℃で1.76μm、25℃で1.55μm)、照射量(例えば、30kGyで2.40μm、2kGyで1.34μm)、有機溶媒の種類(例えば、テトラヒドロフランで8.61μm、アセトンで3.71μm、酢酸エチルで1.73μm、プロピオン酸エチルで0.87μm)によってコントロールが可能である。一方、2G以外のモノマーについても、ポリマー微粒子の合成が検討されている。2Gシリーズ[(CH2CH2)nでnの長さを異にするジメタクリレート;2Gはnが2]の場合、エチレングリコールジメタクリレート(nが1)では、重合体は微粒子化せず、塊状のポリマーになった。これに対し、nが4からなるテトラエチレングリコールジメタクリレートでは、2G(1.55μm)と比較し、約 2.6倍のサイズをもつ微粒子(3.97μm)を得た。nの長さが9以上になると、このシリーズのモノマーは水に可溶になる(nが4以下のモノマーは水に不溶)。例えば、nが14からなるテトラデカエチレングリコールジメタクリレートの場合、有機溶媒に可溶なポリマーが得られた。有機溶媒に可溶なポリマーとしては、スチレン、メチルメタクリレートもあげられる。興味深いモノマーは、反応性官能基(エポキシ基)をもつグリシジルメタクリレートである。このポリマーは、4.41μmのサイズをもつ微粒子を形成した。この他に、粒子の形成に欠かせない因子として、撹拌の影響も重要である。照射重合中に混合液を撹拌した場合、粒子の形成を妨げることが確かめられている。
 活性官能基の一つである琥珀酸イミド基は、酵素分子内に含まれている第一級アミン(-NH2)と化学的に結合することが知られている(図1)。


図1 Model scheme for chemical immobilization of enzymes onto copoly(ASu/2G) microspheres.(原論文2より引用。 Reproduced from J. Polym. Sci.: Part C: Polym. Lett., 27, 437-442 (1989), Fig.1(p.438),M. Yoshida, M. Asano, T. Yokota, Rahayuningsih Chosdu, M. Kumakura, N-Acryloxysuccinimide-Containing Copolymeric Microspheres for the Immobilization of Biomolecules; Copyright(1989), by permission of John Wiley & Sons, Inc., All Rights Reserved.)

 
 そこで、琥珀酸イミド基をもつアクリロキシモノマー(ASu)を合成し、2Gと共重合させることによりポリマー微粒子を合成した。ASu/2G(20/80wt%)コモノマー系の場合、サイズが2.70μmからなる球状の微粒子が得られた。琥珀酸イミド基を含むポリマー微粒子へのグルコアミラーゼの固定化は、pH8.5、4℃の条件である。得られた酵素固定化微粒子の性能は、マルトースを基質とし、一回当たり40℃、2時間の酵素反応を25回まで繰り返すことにより調べた(図2)。


図2 Changes in the amount of glucose produced by hydrolyzing maltose with immobilized glucoamylase as a functin of repeated use.(原論文2より引用。 Reproduced from J. Polym. Sci.: Part C: Polym. Lett., 27, 437-442 (1989), Fig.4(p.441), by permission of John Wiley & Sons, Inc.)

 その結果、酵素反応によって生成したグルコース量は、25回の反応を通して一定であり、500mg/dlであった。フリーの酵素を用いた反応から、1gのポリマー微粒子中に固定されている酵素量は、20mgに相当することが判明した。

コメント    :
 琥珀酸イミド基は、第一級アミン(-NH2)を含む物質と高い反応性をもつことから、免疫診断など、幅広い分野への応用が期待できる。2GとASuからなるポリマー微粒子の場合、活性官能基は表面のみならず、内部にも存在する。しかし、第一級アミン(-NH2)を含む物質との反応サイトは、微粒子の表面にのみ限定される。従って、反応効率の観点から、今後、得られた微粒子の表面にのみ、ASuを放射線グラフトさせる試みなどが必要と思われる。

原論文1 Data source 1:
Characteristics of Polymer Microspheres Prepared by Radiation-Induced Polymerization in the Presence of Organic Solvents
吉田 勝、浅野 雅春、嘉悦 勲、森田 康司
日本原子力研究所高崎研究所材料開発部、千寿製薬株式会社伊丹研究所
Radiat. Phys. Chem., 30, 39-45 (1987)

原論文2 Data source 2:
N-Acryloxysuccinimide-Containing Copolymeric Microspheres for the Immobilization of Biomolecules
吉田 勝、浅野 雅春、横田 勉、Rahayuningsih Chosdu、熊倉 稔
日本原子力研究所高崎研究所材料開発部、国産化学株式会社、Centre for the Application of Isotope and Radiation (Jakaruta, Indonesia)
J. Polym. Sci.: Part C: Polym. Lett., 27, 437-442 (1989)

キーワード:放射線重合、懸濁系、ポリマー粒子、活性官能基、酵素、固定化、固定化酵素、ジエチレングリコールジメタクリレート、N-アクリロキシ琥珀酸イミド
radiation-induced polymerization, suspension system, polymer microsphere, active functional group, enzyme, iImmobilization, immobilized enzyme, diethylene glycol dimethacrylate, N-Acryloxysuccinimide
分類コード:010104, 010201, 010304

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