放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/12/18 佐々木 隆

データ番号   :010146
真空蒸着・電子線塗装プロセス
目的      :表面平滑な機能性フイルム、ラミネートフィルム等の製造プロセスの開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(10-20KeV)
線量(率)   :特定なし
利用施設名   :Catalina社内設置試験装置
照射条件    :真空中、室温
応用分野    :フィルム状キャパシター、食品包装材、静電防止フィルム、紙幣・証券の印刷

概要      :
 真空容器内で、金属あるいは金属酸化物を蒸着すると同時に、アクリレート化合物の電子線硬化を行うプロセスを開発した。0.05-2ミクロンの平滑かつ均一な塗膜を高速で形成することができ、フィルム状キャパシター、食品包装材、静電防止フィルムなどの製造、紙幣・証券の印刷など広範な応用が可能である。

詳細説明    :
 
 本プロセスは真空容器内で、金属あるいは金属酸化物を蒸着すると同時に、アクリレート化合物の電子線硬化を行う。装置概念図の1例を図1に示す。原反ロール、金属化合物の蒸着装置、アクリル化合物の塗工装置、電子加速器、製品巻取りロールはいずれも真空度が10-4 - 10-5Torrになるような容器内に収納されている。塗工装置では、貯槽から供給されたアクリル化合物が加熱方式のアトマイザーによって霧状化された後、ノズルから噴射されて低温に保たれている被塗フィルム上に0.05-2ミクロンの薄膜状に堆積する。薄膜のアクリル化合物は、直ちに10-20keVに加速された電子線で照射され、瞬間的に硬化する。図1の装置は基材フィルムにまずアクリル化合物の塗膜を形成し、金属蒸着をした後、表面に保護塗膜を設ける場合を想定している。塗膜あるいは蒸着の層の数に応じて塗工装置、電子加速器、金属蒸着部を増やすことができる。


図1 金属蒸着・塗工用の真空加工装置(原論文2より引用)

 応用例として、安価なポリプロピレン(PP)を原料とする複合フィルムがある。図2に原料PPフィルムとこのプロセスで処理したフィルムの酸素透過性、水分透過性を比較した結果を示す。塗膜-アルミ蒸着-塗膜処理を行うことによって、酸素透過性は1万分の1以下に、水分透過性は百分の1以下にそれぞれ低下しており、食品包装材として好適である。


図2 金属蒸着・塗工加工したPPフィルムの酸素透過性(左)と水分透過性(右)(原論文2より引用)

 また、基材フィルム上に金属蒸着、着色塗膜、極薄金属蒸着を行うと表面の金属層で反射した光と、表面を通過して、底部の金属層で反射された光が干渉することにより色のずれが生じる。このため、紙幣、有価証券類の複写による偽造を防止できる。
 
 このプロセスは元来多層フィルムキャパシタの製造のために開発された。図3は、このプロセスで作製した1ミクロンの保護膜層をもつキャパシタ(右側)を耐湿試験(95%RH, 22℃)後の断面写真である。右側の保護膜層のある試料では極めて均一な構造をしているのに対し、左側の保護膜層のない試料は金属の薄い部分で腐食され白くなっていることが分かる。


図3 フィルムキャパシタの耐湿試験後の断面写真(原論文3より引用)

 このプロセスの特徴として、均一な薄膜が厚さ0.05-2ミクロンの範囲で自由に調製できること、また、その薄膜にピンホールがないこと、薄膜の熱安定性がよいこと(熱重量分析で確認)、300m/min程度の高速処理が可能であること、塗膜形成、金属蒸着が同一容器内で一挙にできることなどが挙げられる。

コメント    :
非常に応用範囲の広いプロセスで、今後の進展が期待できる。ただ、原料、製品とも真空容器内にあるため、バッチプロセスであること、真空の維持は高コストであろうと予想されることが難点である。

原論文1 Data source 1:
A New High Speed Vapor Deposition Process for Applying Acryrate Coatings
Dave Show
Catalina Coating Inc.
Proc.RadTech North America '92 , vol. 2, 853 (1992)

原論文2 Data source 2:
Some Characteristics of Evoporated Acrylate Coatings and Related Applications
D. Show and M. Langlois
Catalina Coating Inc.
Proc.RadTech North America '94 , vol. 2, 785(1994)

原論文3 Data source 3:
An Improved Metallized Film Capcitor Using a New Acrylate Coating Process
D.G. Show
Catalina Coating Inc.
Proc.RadTech North America '96 , vol. 2, 693(1996)

原論文4 Data source 4:
Use of Evaporated Acrylate Coatings to Smooth the Surface of Polyester and Polypropylene Film and Aluminum Foil Substrates
M. Roehrig, D. Show, M. Langlois, C. Sheehan
Catalina Coating Inc.
Proc.RadTech North America '96 , vol. 2, 785(1996)

キーワード:電子線、真空蒸着、アクリレート、キュアリング、メタライゼーション、キャパシター、包装材、静電防止、印刷
electron beam, vapor deposition, acrylate, curing, metallization, capacitor, packaging material, anti-electorostatics, printing
分類コード:010107,010205,010302

放射線利用技術データベースのメインページへ