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作成: 1999/01/20 茶谷原 昭義

データ番号   :010138
集束イオンビームによって加工された表面構造
目的      :集束したイオンビームを用いた材料表面の微細加工とその構造
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :イオン加速器(20keV)
照射条件    :真空中
応用分野    :半導体素子、マイクロマシン、電子顕微鏡試料作製

概要      :
 集束イオンビーム(FIB)を用いた材料表面のマイクロ-及びナノ構造を形成する技術は、集積回路の形成、プロトタイプの修正、欠陥検査、マイクロマシン形成、透過電子顕微鏡用試料作製にとって非常に重要な技術である。この文献では、トレンチ(溝)構造の傾斜、表面粗さ、欠陥の導入について研究している。また、電子顕微鏡用試料の観察例が報告されている。

詳細説明    :

 集束イオンビーム(FIB)は材料表面の深さサブミクロン領域での加工を行うための主たる技術である。この材料表面でマイクロ-及びナノ構造を形成する技術は、集積回路の形成、プロトタイプの修正、欠陥検査、マイクロマシン形成、透過電子顕微鏡(TEM)用試料作製にとって非常に重要な技術である。これらすべての応用において、材料の除去は物理的なスパッタリングまたはイオンビーム誘起エッチングにより行われる。後者は、高速なエッチング速度、異種材料間での選択性、再堆積の抑制等の利点を持っている。また、TEM試料作製など実用上は作られた構造の傾斜角度が重要である。そこで、傾斜角度に対するビーム電流の依存性を物理的スパッタリングとイオンビーム励起エッチングの両方について述べる。さらに、FIB加工後の表面粗さ、再堆積、ガリウムイオンビームによる欠陥の生成について述べる。
 
 実験にはFEI620デュアルビームシステムにおいて、30keVのガリウムイオンビームを用いた。このシステムは6〜7000pAの電流範囲のイオンビームを使うことができる。6pA時、ビーム径は16nm(半値巾)、7000pA時はビーム径は400nmである。また、装置は電界放出電子銃の鏡筒を備えている。電子ビームのエネルギーは1〜30keVである。材料の除去加工のためには、ビームのラスタースキャンをデジタル制御によってあらかじめ設定した領域で行う。それぞれのピクセルでイオンビーム照射は滞在時間Tvの間行われる。ビームが同じ位置に戻る時間をループ時間Tzと呼ぶ。イオンビーム励起エッチングを行うには、この時間のため試料表面でガス分子が吸着できる。励起エッチングには、ヨウ素がエッチャントとして用いられ、導入システムを通して1015分子/cm2のガスフラックスとして29℃に昇温された表面に供給される。この導入システムはサンプル表面から300μmに位置する。

1.トレンチ構造の傾斜角度
 削った構造の傾斜角度を調べるために(100)シリコンの試料端付近に加工を施した。これは、スパッタされた材料の再堆積を最小にして傾斜角度を測定するためである。


図1 Trench structure sputtered with a beam current of 16pA (16nm beam diameter) for the investigation of the slope angle.(原論文1より引用。 Reproduced from J. Vac. Sci. Technol. B14, 16(1996), 3996-3999, Fig.1(p.3996), S. Lipp, L. Frey, C. Lehrer, B. Frank, E. Demm, H. Ryssel, Investigations on the topology of structures milled and etched by foucused ion beams; Copyright(1996), with permission from American Vacuum Sciety and the authors.)

 図1に、16pAのビーム電流で加工したトレンチ構造を示す。傾斜角度は水平からトレンチの壁の間の角度とした。ビーム電流の増大にともないビームプロファイルが広がるので、傾斜角度は減少する。最小ビーム電流6pA、ビーム径16nmから7000pA(400nm)の範囲で、傾斜角度は89°から86°に減少する。上記の傾斜角度の測定においては、再堆積の効果は無視した。再堆積の効果を調べるために、二つの矩形の穴を100pAのビーム電流で掘った(図2)。


図2 (a)SEM picture of sputtered craters for the invesitigation of the effect of redeposition on the slope angle. (b)SEM picture of an etched structure for the investigation of the slope angle. The gas flux was coming from the right-hand side.(原論文1より引用。 Reproduced from J. Vac. Sci. Technol. B14, 16(1996), 3996-3999, Fig.3(p.3997), with permission from American Vacuum Sciety and the authors.)

 これらの穴は0.5×0.5μmと3×3μmであり、あとでイオンビームにより堆積させた白金にて埋めた。続いて走査電子顕微鏡(SEM)で観察できるように、これらの構造の断面を削り出した。傾斜角度は再堆積効果によって、アスペクト比6の溝において、81°であった。エッチングの場合の傾斜角度の評価も(100)シリコンに矩形穴を掘ってスパッタの場合と同じように行った。0.2μsの滞在時間、30msのループ時間で実験した。ビーム電流6pAから1000pAの範囲で、傾斜角度は87°であった。ビーム電流7000pAでは、81.5°に減少する。

2.表面粗さ
 削った穴の側壁と底面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定した。底面の粗さはビームの重複の程度によって変化するか実験した。33%の重複により、イオン照射量の均一性は99%となる。重複0%と25%の場合、測定された粗さは4nmであった(図3)。


図3 AFM picture of the bottom of a crater which was sputtered with a beam current of 500pA and a beam overlap of 0%. The measured roughness was 4nm (rms).(原論文1より引用。 Reproduced from J. Vac. Sci. Technol. B14, 16(1996), 3996-3999, Fig.5(p.3997), with permission from American Vacuum Sciety and the authors.)

 33%の重複で、粗さは3.5nm、50%時は2.5nmとなった。これらの値はエッチングにおいても同様であった。穴の底面はビームが1スキャンを終えてスタート地点に戻る間(フライバック)も除去されるので、結果として対角線上に溝ができる。また、側面の粗さは、4000pAのビーム電流で0.8nmであった。

3.欠陥
 TEM試料作成はFIB技術の主な応用の一つである。興味のある領域に数ミクロン厚さの保護層をFIBを使って堆積させることができる。観察部はスパッタまたはエッチングされる。最終的な微細ミリングによって約100nmの幅の短冊が残される。保護層の下部に欠陥帯がTEM観察で見られる。この層の厚さは40nmである。これは30keVのガリウムイオンの注入飛程に一致する。電子ビームによる堆積ではこのような欠陥は見られない。
 

コメント    :
 FIB加工技術は微細加工を行う最も有力なツールであり、例えるとミクロな旋盤・フライス盤・ボール盤といったところである。また、イオンビームまたは電子ビームにより励起される反応によって薄膜の堆積も可能で万能表面微細加工機と呼べる。LSI製造で使われているマスクを使った露光技術を利用する微細加工技術は大量生産向きの技術であるのに対し、FIB加工技術は現状では「一品もの」の作製に利用される技術である。

原論文1 Data source 1:
Investigations on the topology of structures milled and etched by foucused ion beams
S. Lipp, L. Frey, C. Lehrer, B. Frank, E. Demm, H. Ryssel
Fraunhofer-Institut fur Integrierte Schaltungen, Bereich Bauelementetechnologie,
Lehrstuhl fur Electronische Bauelemente, Universitat Erlangen-Nurnberg,
Siemens AG
J. Vac. Sci. Technol. B14, 16(1996), 3996-3999

キーワード:集束イオンビーム、スパッタリング、エッチング、マイクロマシン、電子顕微鏡
focused ion beam、sputtering、etching, micro-machine, electron microscope
分類コード:010305、010304

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