ガラス基板へのイオン注入技術と表面加工

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作成： 1998/12/15 堀野　裕治データ番号　　　：010136 ガラス基板へのイオン注入技術と表面加工目的　　　　　　：オプトエレクトロニクスデバイス開発のためのイオン注入法によるガラス加工技術の開発放射線の種別　　：重イオン放射線源　　　　：中エネルギーイオン注入装置(200kV、～1mA) フルエンス（率）：～1x10¹⁷ions/cm² 利用施設名　　　：日本板硝子㈱筑波研究所イオン注入装置照射条件　　　　：真空中応用分野　　　　：オプトエレクトロニクスデバイス、光導波路、高速表示パネル、光非線形超微粒子、フォトダイオード概要　　　　　　：石英ガラス基板に窒素と珪素、リンと酸素それぞれ二つのイオンを注入することにより、非常に安定な窒化珪素層やリン珪酸ガラス層を形成できることを示した。これらの層は、ガラス基板に含有されているアルカリ元素が、基板上に形成された半導体膜や液晶へ拡散することを防止する。これにより信頼性高く、性能の良い高精細・高速表示パネルが作製できる。また、ガラス基板上オプトエレクトロニクスへのイオン注入技術の寄与例についてまとめた。詳細説明　　　　：石英ガラスに窒素イオンを注入し、ガラスの構成元素であるシリコンと反応させ、窒化珪素層を作製することを試みた。図1　(a)石英ガラスに窒素イオンを注入したときのN1sのXPSスペクトル、(b)石英ガラスにケイ素と窒素をイオン注入したときのN1sのXPSスペクトル（N⁺加速電圧：50kV、Si⁺加速電圧：100kV、N,Si注入量：1x10¹⁷cm^-²（原論文1より引用）　図1(a)は窒素イオン注入した試料の深さ方向分布の熱処理依存性をSIMSにより調べたもので、600℃以上で窒素が殆ど抜けていることがわかる。これは注入された窒素が石英ガラスと完全に反応することなく、遊離した状態、或いは遊離に近い状態で存在することを示している。この試料のXPSスペクトルを図1(b)に示す。398eVのピークは、Si₃N₄のN1sのピークのエネルギー位置と一致している。403eV付近のピークは窒素と酸素あるいは窒素と窒素の結合の可能性がある。これから注入された窒素のごく一部は、ケイ素と反応してSi₃N₄を形成していることがわかる。　　次に、遊離した窒素をケイ素化するために、ケイ素イオンの注入を行った。図1(c)は、窒素イオンとケイ素イオンを注入したときのN1sのXPSスペクトルで、表面からスパッターをしながら深さ方向の分布を見たものである。Si₃N₄に由来する398eVのピークが強く観測され、窒素が注入されたケイ素と反応したことがわかる。この試料を900℃、1時間の熱処理しても深さ方向分布に変化は観測されず、2つのイオンの注入により非常に安定な窒化珪素層が形成されることが分かった。図2　(a)石英ガラスにリンをイオン注入したときのP2pのXPSスペクトル（P⁺加速電圧：50kV、P注入量：5x10¹⁶cm^-²、(b)石英ガラスにリンと酸素をイオン注入したときのP2pのXPSスペクトル（P⁺加速電圧：100kV、P注入量：5x10¹⁶cm^-²、O⁺加速電圧：50kV、O注入量：1.25x10¹⁷cm^-²）（原論文1より引用）　石英ガラスの表層にリンイオンを注入し、ガラスの成分のシリコンの一部をリンで置換し、リン珪酸ガラスを作製することを試みた。図2(a)にリンイオンを注入した試料のXPSによるP2pスペクトルの深さ方向分布を示す。130eVのピークは固体リンのそれと一致しており、リン-リン結合を示し、135eVのピークはP2O5と一致し、リン-酸素結合を示すものと考えられる。これから注入したリンの一部が酸素と結合し、リン珪酸ガラスを形成するものと考えられる。この試料に、窒素雰囲気中で900℃の熱処理を加えたが、リン-リン結合とリン-酸素結合のピーク強度の比には殆ど変化が無かった。　　次に、リン-リン結合を構成しているリンを全て酸化させるために、リン注入に続いて酸素のイオン注入を行った。酸素のイオン注入は化学量論比を考慮し、注入量を設定し、加速エネルギーは、酸素の投影飛程がリンと一致するように、シミュレーションにより決定した。図2(b)は、リンイオンと酸素イオンとを注入した石英ガラスのXPSによるP2pのスペクトルである。135eV付近にリン-酸素結合を反映した単一のピークが現れ、酸素を注入することにより、リンが酸化されたことを示している。この試料に窒素雰囲気中で900℃の熱処理を加えたが、リンの状態に変化は認められなかった。これらの結果は、酸素のイオン注入がリンの酸化に効果的であることを示している。図3　石英ガラスにリンイオン注入のみしたときのナトリウムの深さ方向分布（原論文1より引用）　図3(a)はリンイオンのみを注入した石英ガラスに対するリンとナトリウムの深さ方向分布である。実線は熱処理前のリンとナトリウムの深さ方向分布を示し、破線は窒素雰囲気中で900℃、1時間の熱処理後のナトリウムの分布を示す。熱処理後にリン珪酸ガラスによって、ナトリウムのゲッタリングが約5倍増加していることがわかる。一方、図3(b)はリンイオンと酸素イオンを注入した石英ガラスに対するもので、熱処理後でリン珪酸ガラス層によるゲッタリングが約100倍増加していることがわかる。コメント　　　　：イオン注入技術により、ガラス基板上オプトエレクトロニクスを実現するためには、コストと時間が問題になると考えられる。イオンの大電流化等で処理が高速化がなされると、工業製品の品種が増え、製造コストは低下し、工業化の実現ができる。近い将来には、イオン注入技術が従来の半導体分野から脱皮し、他の分野への適用が活発になると考えられる。特に、最近注目されている負イオンビームを用いたチャージアップレス注入などで、イオン注入技術の他の絶縁体などへの拡がりが期待されている。原論文１ Data source 1：ガラス基板上へのオプトエレクトロニクスに対するイオン注入技術田中　修平日本板硝子㈱　筑波研究所光技術コンタクト　Vol.30、No.12　(1992)　672-678 参考資料１ Reference 1： Low-loss integrated optical waveguides fabricated by nitrogen ion implantation I.K.Naik Northrop Research and Technology Center Applied Physics Letters 43, (1983) 519 参考資料２ Reference 2： Au+-Ion-Implanted Silica Glass with Non-Linear Optical Property K.Fukumi, A.Chayahara, K.Kadono, T.Sakaguchi, Y.Horino, M.Miya, J.Hayakawa, M.Satou Osaka National Research Institute, AIST Japanese Journal of Applied Physics 30, (1991) L742. 参考資料３ Reference 3： Grain-size distribution in ion-irradiated amorphous Si films on glass substrates K.Oyoshi, T.Yamaoka, T.Tagami, Y.Arima S.Tanaka Nippon Sheet Glass Co., Ltd. Applied Physics 71, (1992) 648 キーワード：ガラス、石英、りん珪酸ガラス、オプトエレクトロニクス、光導波路、イオン注入、光電子分光法、SIMS glass, quartz, Phosphorus silicate glass, optoelectronics, optical waveguide, ionimplantation, XPS 分類コード：010103、010206、010304
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