イオンビームを用いた航空機エンジン用部品の表面改質

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作成： 1998/12/22 堀野　裕治データ番号　　　：010135 イオンビームを用いた航空機エンジン用部品の表面改質目的　　　　　　：高温高圧等の過酷環境に耐えるジェットエンジン用部品の開発放射線の種別　　：重イオン照射条件　　　　：真空中概要　　　　　　：　航空機用エンジン用部品に高エネルギービーム(イオンビーム、プラズマ溶射等)を適用して表面改質する技術について、既存の技術とともに開発状況の一部をまとめた。高温、高圧下での高速回転と過酷な条件に耐える必要があるために、軸受け等の各部材表面の処理は重要であり、高エネルギービームの利用が有効であることが認識されてきている。詳細説明　　　　：図1　Schematic section of turbofan engine（原論文1より引用）　　大型航空機に採用されている2軸のターボファンエンジンの断面図を簡略化して示す(図1)。太線および黒く塗った部分が回転部分である。エンジン中央部に位置する外側の高速回転軸は、燃焼器を挟んで前方(左側)の高圧圧縮機と後方の高圧タービンとを結び、発生する高温高圧の燃焼ガスで後方に位置する低圧タービンを回転し、低速回転軸でつながる前方の低圧圧縮機およびファンを回転させて推力を発生する。回転軸は前後に配置された転がり軸受で保持され、各軸受は潤滑油で冷却および潤滑され、軸受の前後には油シールならびに空気シールが配置される。圧縮機は、ファン、低圧圧縮機ならびに高速回転する高圧圧縮機とから構成される。空気を効率よく圧縮するには空気シール等が重要である。燃焼器は、圧縮機で圧縮された高圧空気に燃料を吹き込み、連続燃焼させて高温高圧の燃焼ガスを発生させる。小型軽量でかつ長寿命化のために燃焼器の壁面に空気冷却技術とプラズマ溶射による遮熱コーティングが適用される。タービンは、高温高圧の燃焼ガスから回転力を取り出す部位で、高温強度の優れた超合金が採用されている。高温高圧の燃焼ガスの漏れを防ぐために、空気シールが多用されている。以下に部品個別に要求される機能ならびに適用されている表面改質技術を示す。　転がり軸受　エンジンの回転部を支持する転がり軸受は、エンジン前方に玉軸受、後方のタービン部にころ軸受が採用される。高速回転化が望まれている一方、回転軸の外径は振動解析から極端に細くできないため、内輪径と回転数の積で表わされるDN値の向上が要求される。転がり軸受には主にM50材が使用され、熱交換器で冷却されたタービン油のジェット噴霧で冷却および潤滑される。燃焼器の内側に配置されるころ軸受は、燃焼器からの熱を遮断するために軸受の外側に断熱層を設けて空気冷却を行なう。熱交換器や冷却空気の消費ならびに断熱層の設置は重量増加やエネルギー損失となるため、高温環境で使用可能な転がり軸受の開発の必要性が増している。図2　Hard carbon ion beam coating process（原論文1より引用）　そのため、転がり軸受の表面改質では、イオンビームを用いたダイヤモンド状炭素コーティングによる転動疲労寿命の向上などが行われている。図2に示すように、コーティングは、アルゴンイオンビームによるスパッタクリーニング、メタンガス中でのケイ素ターゲットを用いたスパッタ蒸着によるSiC中間層の形成、そしてメタンガス中450eVのイオンビームで高硬度の炭素コーティングを行う3ステップからなる。また、窒化ケイ素製玉軸受にMoS₂をイオンスパッタコーティングした固体潤滑玉軸受では、低速回転であるが、650℃での運転試験が可能となっている。　圧縮機　ターボファンエンジンはファンならびに圧縮機の性能がエンジンの効率を左右する。悪条件下での運用によりエンジン内部に入り込む砂塵や氷、水等のためファンや圧縮機の動静翼の前縁部に摩耗や変形が生じた場合はそれらの性能低下が著しくなる。このためエロージョンの対策が必要な場合があり、イオンプレーティングによる窒化チタンの適用化が試みられている。イオンビームで形成された窒化チタンは摺動部等での摩擦摩耗に良い耐性を示す。　燃焼器　燃焼器は内部で高圧空気に燃料が噴霧され連続燃焼しており、燃焼効率の改善や排出ガスの清浄化の技術等とともに燃焼器の長寿命化のために壁面の冷却技術が重要である。このため燃焼ガスにさらされる壁面は空気冷却されるとともに壁内面に遮熱コーティングとして熱伝導率の小さいジルコニア系材料がプラズマ溶射される。遮熱コーティング層は厚いほど基材温度の低下に有効であるがはく離が生じやすくなるため、一般的には0.2～0.4mmの厚みが選ばれる。この遮熱コーティングは燃焼器出口近傍の空気冷却構造を有するタービン静翼にも適用されている。　タービン　タービンは、燃焼器で発生した高温高圧の燃焼ガスを増速させるタービン静翼、燃焼ガスを受けて回転力を発生するタービン動翼などから構成され、高温環境下で回転による遠心力や運転停止による繰返し応力、急速加熱冷却による熱衝撃、振動等を受ける。特にタービン翼は高温に長時間さらされるため内部冷却通路を設け圧縮機からの高圧空気を流して冷却するが、翼面では高温酸化とともに空気中の塩分と燃料中の硫黄分とで生じる高温腐食が問題となる場合があり、これらを防ぐ目的で翼表面にコーティングが適用される。コーティング材は、MCrAlY(MはCo,Ni,Co+Ni等)系の材料が選ばれ、高温腐食には高Cr系、高温酸化には高Al系が用いられる。このMCrAlYコーティングには電子ビーム真空蒸着法(EB-PVD)と低圧プラズマ溶射法(LPPS)とが一般的である。EB-PVDはLPPSと比べると製膜速度が毎分20μm前後と遅いが、複数枚数が同時に処理できる利点がある。一方、LPPSはコーティング速度が比較的速いものの、溶射範囲が狭いため1枚ずつコーティング処理する必要がある。コメント　　　　：　軽量、高出力の航空機用エンジンの性能向上のために、様々な研究、技術開発が進められている。イオンビームなどの高エネルギービームにより形成した場合には膜質が良く、密着性が高いため、現在は研究レベルの技術についても近い将来には実際のエンジンに適用され、エンジンの性能向上に貢献すると期待できる。原論文１ Data source 1：航空機用エンジンにおける表面改質秋川尚史川崎重工業㈱ジェットエンジン事業部トライボロジスト　第41巻、第11号　1996年、923-928。キーワード：ジェットエンジン、軸受け、イオンビーム、イオン照射、表面改質、プラズマ溶射 jett engine, bearing, ion beam, ion beam irradiation, surface modification, thermal sprying by plasma 分類コード：010304、010102、010302
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