金属イオン注入によるサファイアの電気伝導率の変化

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作成： 1998/12/10 堀野　裕治データ番号　　　：010132 金属イオン注入によるサファイアの電気伝導率の変化目的　　　　　　：サファイアなどの絶縁材料のイオン注入による特性制御技術の開発放射線の種別　　：重イオン放射線源　　　　：イオン加速器フルエンス（率）：1x10¹⁷ions/㎝²　-　1.6x10¹⁸ions/㎝² 利用施設名　　　：日本原子力研究所高崎研究所静電加速器及び東京大学原子力研究総合センタータンデム加速器照射条件　　　　：真空中応用分野　　　　：セラミックスの表面の導電化、セラミックスの表面改質、ダイヤモンド等宝石の着色、ガラス中への微粒子形成概要　　　　　　：　高濃度でFe、Niイオン注入を行ったサファイア試料の電気抵抗測定、および照射後アニールした試料の表面観察を行った。注入量が10²³ions/m³以上においては、注入原子は金属状態で存在し、注入領域の電気抵抗率は注入量と注入エネルギーの2つのパラメータによって決定され、その伝導形態は照射量の増加に従い、半導体的な挙動から金属的な挙動へと変化することが分かった。照射後アニールによってFeイオンは表面に拡散し、基板と相互作用しながらFe₂O₃が成長する。詳細説明　　　　：　　高エネルギーイオンビームを物質に照射すると、原子のはじき出しや励起／イオン化が起こり、物性の変化が生じる。また、溶解度に関わらず非熱平衡状態で原子を注入することができるため、自然界には存在しない新しい構造や特性を持った物質を作り出すこともできる。ここでは、単結晶アルミナにFeイオン及びNiイオンを高濃度に注入し、電気抵抗率の照射量依存性、温度依存性の測定から原子の分布状態に関する考察を行なった。さらに、Feイオン注入試料のアニールを行い、原子移動の測定及び表面の観察を行った。　　サフャイア(α-Al₂O₃)に、Feイオン注入を(0001)面に対して、Niイオン注入を(1120)面に対して行った。Feイオンは380keVで、照射量1x10¹⁷ions/㎝²、4x10¹⁷ions/cm²、1x10¹⁸ions/cm²で注入し、Niイオンは3MeV のNi²⁺イオンを同一の試料に対して照射量1.6x10¹⁸ions/cm²まで注入し抵抗測定を遂時繰り返した。電気抵抗率は、高精度の振動容量型電流計を用いて注入方向と垂直な面に対して測定した。また、低温における電気抵抗は、試料を銅製のカプセルに封入し、熱電対で温度を測定しながら液体ヘリウムの液面に近付けながら測定した。熱処理はFeイオンを1x10¹⁸ions/cm²注入した試料を800℃、空気雰囲気中で12時間行った。この試料にラザフォード後方散乱法(RBS)を行い、表面付近のFe、Al、O原子の深さ分布を測定した。また、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて表面観察し、さらに、X線回折(CuK_α線)により、表面析出物の同定を行った。図1　a) Resistance of 380keV Fe implanted sapphire as a function of fluence, b) Resistance of 3MeV Ni implanted sapphire as a function of fluence. （原論文1より引用）　電気抵抗測定結果を図1a)、b)に示す。電気伝導率は注入量に従い指数的に変化するため、試料中の導電パスは最も注入濃度が濃い分布のピーク近傍付近であると考えられる。この2つの測定結果を比較するため、RBSで測定した注入イオンの分布の半値幅の内側における平均濃度で規格化してプロットした(図2)。図2　Electrical resistivity as a function of implantation density.（原論文1より引用）　照射方向に±10%程度の誤差を含むとすると、FeとNiはほぼ同様の挙動を示すと言える。また、その際の電気抵抗率は注入エネルギーと照射量の2つのパラメータで決定されることが分かる。他の実験では、アルミナに注入したCrイオンの場合、低照射量ではCr³⁺とCr⁰とが混在し、高照射量ではほとんどが中性のCr⁰であることが報告されている。また、アルミナやチタニアに注入したNbイオンの結果でも、Nbの濃度が低いとNb⁵⁺やNb⁴⁺が、濃度が高いとNb²⁺やNb⁰が観測されている。本実験では、これらの報告よりもさらに注入量が大きいことや、FeとNiで挙動が似ていることから、本実験の条件下では金属状態であるM⁰が主体であり、その電気伝導機構は同じであると予想される。図3　The temperature dependence of resistance on Fe implanted sapphire.（原論文1より引用）　Feイオン注入した試料の電気抵抗を、室温から液体ヘリウム温度まで測定した結果を図3に示す。照射量を1x10¹⁷ions/cm²と4x10¹⁷ions/cm²及び1x10¹⁸ions/cm²注入した試料では全く異なる挙動を示した。前者では温度の低下に従い、抵抗が上昇する半導体型の傾向を示し、金属-絶縁体-金属間を電子が熱活性化トンネリング機構により移動する伝導形態であると考えられる。一方、他2条件では温度の低下に従って僅かずつ抵抗が減少した。これは不純物を多量に含む金属の電気伝導の傾向と一致する。この結果より、1x10¹⁷ions/cm²と4x10¹⁷ions/cm²との間において、伝導パスが連続的になり金属伝導に移転する照射量が存在すると考えられる。　　Feイオン注入した試料のアニール前後におけるRBSスペクトルでは、アニール前はFe原子は表面から約180nmの深さを中心として、ほぼガウス分布の形で分布しているが、アニール後は、表面でのFe原子濃度が最大になるのが分かった。また、同スペクトルから表面にAl原子が存在しないことが分かり、表面は鉄の酸化物で覆われていると考えられる。注入領域のアニール後の表面観察の結果、注入領域の表面には厚さは100nm程度の鉄の酸化物と思われる析出物が成長しているが、非照射領域には全く凹凸が見られなかった。簡単な計算では、表面(酸素存在下)における酸化物で最も安定であるのはFeAl₂O₄(ヘルシナイト)、次にFe₂O₃(ヘマタイト)となる。X線回折測定によって表面における存在が確認されたのはFe₂O₃のみで、FeAl₂O₄に起因するピークは観測されなかった。これは表面にAl原子が存在しないというRBS測定の結果と矛盾しない。コメント　　　　：　絶縁材料へのイオンの注入についてはダイヤモンドの着色やサファイア表面の硬化、非線形機能創製のためのガラス中での極微粒子形成などの報告があり、色々な材料に応用されている。溶解度に関係なく、非熱平衡状態で原子をドープし、特性変化を誘起できるのが大きな特徴となる。イオン照射の際、チャージアップ等の問題があるが、負イオンビームを用いることにより低減できるなどの最近の研究成果が報告されており、さらに応用が広がることを期待する。原論文１ Data source 1：高エネルギー金属イオン注入によるサファイアの物性変化小林　知洋、寺井　隆幸東京大学工学部総合試験所東京大学工学部総合試験所　年報　第56巻　(1997)　189-194. キーワード：イオン照射,イオン注入,サファイア,電気抵抗,電気伝導率,金属イオン ion beam irradiation, ion implantation, sapphire, electric resistance, electrical conductivity, metal ion 分類コード：010103、010205、010304
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