放射線照射によるハロン類の分解処理に関する研究

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作成： 1998/10/30 須藤　高史データ番号　　　：010120 放射線照射によるハロン類の分解処理に関する研究目的　　　　　　：ハロンのイソプロピルアルコール中での放射線分解機構解明放射線の種別　　：ガンマ線放射線源　　　　：Co-60 (185TBq) フルエンス（率）：特に記載無し。利用施設名　　　：東京都立産業技術研究所照射条件　　　　：イソプロピルアルコール中応用分野　　　　：フロン分解、有機塩素化合物分解概要　　　　　　：　ハロン類は化学的、熱的に安定であり、消火剤として使用されている。しかしオゾン層破壊力が大きく、その製造は禁止されたが、依然として回収再生による使用が続いている。ここではフロンと同様に放射線分解を試み、フロン類との分解機構の差を検討し、より効率的な分解条件を求めた。その結果、アルカリ性のイソプロピルアルコール中で照射した場合にフロン類より大きなG値が得られ、分子の持つ電子親和力の差によると思われる。詳細説明　　　　：　　代表的なハロカーボンであるハロン類は化学的にも熱的にも安定な化合物であり、炭酸ガスより毒性が低いため消火剤として使用されている。しかし、ハロンのオゾン層破壊力はフロンの10倍ほど大きく、フロンとともに規制されている。製造禁止ではあるが、高層ビルや病院などの特定用途に限定し、回収再利用が行われている。ハロンの使用量は消火設備17,000トン、メーカ保有量500トン、H7の需給では供給80トン、回収41トンである。まだ確立した処理法はなく、今後これらのハロンの破壊処理が強く求められる。　　放射線分解処理法は特定フロンに有効であり、ハロン類の分解に適用した。図1にハロン化学構造を示す。図1　ハロン2402の化学構造　放射線照射試料はハロンを中性またはアルカリ性のアルコールに溶解した後、窒素を2-3分間通気した。アルカリ性アルコールは水酸化カリウムを添加し、その上澄液を適当な濃度に希釈して使用した。照射試料はガラス容器に入れ、185TBqコバルト-60線源のγ線を照射した。一般的なアルコール溶剤であるメチルアルコール、エチルアルコール及びイソプロピルアルコールの中で、アルカリ性イソプロピルアルコール中が放射線分解処理法に適しており、γ線照射により脱臭素反応が連鎖的に進行し、効率よく分解される。ハロンの中性及びアルカリ性アルコール溶液中でのG値を表1に示す。中性におけるG値は、解離的電子捕捉反応によるものが主と考えられる。溶液中のハロン初期濃度を変化させると、分解のG値は濃度に比例し増加することが分かった。フロン類の分解と傾向は似ている。表1　ハロン、フロンおよび六塩化エタンの放射線分解のG値（原論文1より引用） --------------------------------------- ハロカーボン中性アルカリ性 --------------------------------------- CF₂BrCF₂Br 16 1300 CCl₂FCClF₂ 7 750 CCl₃CCl₃ 20 2300 --------------------------------------- 線量：385Gy(2.4×10¹⁸eV/g) 　照射後の試料にはフロンと同様な白色沈殿物があり、分析の結果、臭化カリウムが主成分であった。ハロンのアルカリ性イソプロピルアルコール中での照射の場合は、ガスクロマトグラムのパターンに、フロンと異なり、分解生成物のピークは検出できなかった。フロンとハロンではその反応機構が異なる可能性を示唆している。フロンでは、エタン骨格に結合している1個の塩素原子が水素と置換した生成物が確認されたが、ハロンの場合、2個の臭素原子の脱離が早く進むと考えられる。　　フロンの場合を考慮すると、臭素原子が水素原子と置換した生成物の存在が予想されるが、現在までのところ検出されていない。この反応機構を検討するため、表1に示す3種のハロカーボンについて反応機構を比較した。表1で、六塩化エタンはG値大きく、フロンが最小である。それぞれの分子の持つ電子親和力によると推定される。これら3種のハロカーボンのアルカリ性イソプロピルアルコール中でのラジカル反応機構を図2に示す。図2　ラジカル反応機構の比較（原論文1より引用）　六塩化エタンの場合、塩素原子が2個脱離し、テトラクロルエチレンの生成があり、1個水素と置換した五塩化エタンの生成も認められた(反応5))。ハロンの場合、反応6)で示したものと類似の反応により脱臭化反応が進行すると推定される。臭素原子と水素原子が置換した生成物が認められないのは、その中間体であるラジカルの安定性と関係している可能性がある。ハロンの分解生成物について、更により詳細な分析を行うことが必要である。また、フロンとイソプロピルアルコールより生成するラジカルアニオンとの電子親和力の差が生成物の収率に影響するものと考えられる。コメント　　　　：　オゾン層破壊の原因物質であるハロンの放射線分解は、フロンの場合より更にG値が大きく、他処理法と比較しても優位性がある。しかし、Co-60等のγ線線源は一般には使用し難く、電子線等がより望ましい。原論文１ Data source 1：放射線照射によるハロン類の分解処理に関する研究下川　利成、中川　清子東京都立アイソトープ総合研究所東京都立アイソトープ総合研究所年報(平成8年度)、50-53(1997) 参考資料１ Reference 1：フロン113の放射線分解(Ⅰ) 中川　清子、下川　利成、澤井　照子東京都立アイソトープ総合研究所東京都立アイソトープ総合研究所年報(平成3年度)、52-53(1993) 参考資料２ Reference 2：フロン113の放射線分解(Ⅱ) 中川　清子、下川　利成、澤井　照子東京都立アイソトープ総合研究所東京都立アイソトープ総合研究所年報(平成4年度)、43-45(1994) キーワード：放射線分解、ハロン、G値、イソプロピルアルコール、連鎖反応 radiation decomposition, halon, G-Value, isopropanol, chain reaction 分類コード：010505
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