放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/10/08 松本 鉄男

データ番号   :010118
原子力発電所用ノンハロゲン難燃ケーブル
目的      :原子力発電所に敷設配線されるケーブル被覆材のノンハロゲン難燃処理
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co
フルエンス(率):10 kGy/h
線量(率)   :2 MGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :空気中室温
応用分野    :電力ケーブル、通信ケーブル、原子力発電所、宇宙空間

概要      :
 原子力発電所用ケーブルとしては、これまでハロゲン難燃ケーブルが使用されていたが、ノンハロゲン難燃ケーブルの開発を実施した。ノンハロゲン系難燃材料について、金属水酸化物の配合部数調整や放射線防護剤の添加、接着性ポリマーの配合等により、原子力発電所用途として要求される耐放射線性、耐水蒸気性を改善し、ケーブルとしての一般的特性や、原子力発電所環境を模擬した劣化試験においても問題がないことを確認した。

詳細説明    :
 
 電線、ケーブルの難燃化の要求は拡大してきている。一般用途の電線、ケーブルについては、分解ガス、煙が少なく、避難や消火活動に支障をきたさない点や、周辺機器に対する腐食性が少ない点から、ハロゲン系材料を用いないノンハロゲン難燃ケーブルが主流になりつつある。一方、原子力発電所用ケーブルとしては、発生するハロゲン化水素の低減が図られたハロゲン系難燃ケーブルが使用されており、原子力発電所用ノンハロゲン難燃ケーブルの開発が望まれていた。
 
 一般的に、ノンハロゲン系難燃材料としては、ポリマー中に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を多量に配合したものが用いられている。この種の材料は、元々のポリマーよりも種々の物性が低下するため、難燃性と他物性のバランスをとることが重要である。この様なノンハロゲン系難燃材料を原子力発電所用ケーブルに適用するには、原子力発電所特有の環境に耐える必要がある。原子力発電所用途と一般用途の大きな違いは、耐放射線性、耐水蒸気性が要求されることである。原子力発電所内の環境は、原子炉の種類や発電所内の敷設場所によって異なるが、一例としてPWR(加圧水型原子炉)格納容器内の使用環境条件を表1に示す。通常運転時の環境とLOCA時(Loss-of-Coolant Accident:冷却材喪失事故)の環境があり、LOCA時は190℃の加熱水蒸気暴露と1.5MGyのγ線照射を受ける非常に過酷な環境である。

表1 PWR(加圧水型原子炉)格納容器内の使用環境条件(原論文2より引用)
----------------------------------------
 項  目    通常運転時       LOCA時
----------------------------------------
 温  度     最高49℃      最高190℃
----------------------------------------
相対湿度    0〜100%          100%
----------------------------------------
 圧  力     大気圧      最高4.22kg/cm2G
----------------------------------------
蓄積線量   7.5×105Gy      15×105Gy
          (60年相当)
----------------------------------------
 上述のようにノンハロゲン系難燃材料の耐放射線性、耐水蒸気性の改善がポイントとなるが、一般的な特性とのバランスを考慮して、材料組成の配合を決定する必要がある。原子力発電所用ケーブルに適用するノンハロゲン系難燃材料の基本的な配合材料としては、ベースポリマー、酸化防止剤、放射線防護剤、難燃剤(金属水酸化物)、その他充填剤や特性改善のための添加物がある。材料の種類や配合部数はメーカーのノウハウによる事項であるが、原論文では幾つかの具体的改善手法が挙げられている。耐放射線性の改善の例としては、原論文1では水酸化アルミニウムを多量配合すると耐放射線性が低下することが示されており、金属水酸化物の配合量を難燃性と耐放射線性の両特性を満足するようにバランスさせることと放射線防護剤の使用が必要と説明されている。また、原論文2には水酸化マグネシウム配合のポリオレフィンに対して接着性ポリマーを配合することにより、耐放射線性が改善されることが示されている。(図1)これは、接着性ポリマー配合により、ベースポリマーと水酸化マグネシウムとの間の親和性が改善されたことによると説明されている。


図1 耐放射線性に対する接着性ポリマーの効果(原論文2より引用)

 耐水蒸気性については、 原論文1にベースポリマーの種類を変えて評価した例が挙げられている。架橋ポリエチレン(XLPE)は耐水蒸気性が良好であるが、ノンハロゲン系難燃材料として金属水酸化物を配合するには適していない。金属水酸化物配合に適したポリマーの場合、非架橋では耐水蒸気性は悪く、水蒸気暴露後に伸びが無くなってしまう。ここでも接着性ポリマー配合により、耐水蒸気性が向上する事が示されている(図2)。


図2 各種ポリマーの耐水蒸気性(171℃×1h)(原論文1より引用)

 この様な改善を施したノンハロゲン系難燃材料を用いて作成した各種ケーブルについて、一般的特性(電気特性、機械特性、難燃性等)を評価し、問題無いレベルであることが確認されている。また、原子力発電所内の環境を模擬した劣化試験(使用年数相当の熱劣化とγ線照射を実施した後、LOCAを模擬したγ線照射と加熱水蒸気暴露を施す)を行った後に屈曲浸水耐電圧試験に合格し、原子力発電所用ケーブルとして適用可能であることを確認した。

コメント    :
 原子力発電所用途としては、耐放射線性以外にも耐水蒸気性や長期寿命安定性等の評価項目があり、高度な信頼性が要求される。一般的に幅広く使用されている材料を、放射線暴露を受ける特殊環境に適用するためには、ここで取り上げた改善手法以外に様々なノウハウが駆使されていると考えられる。特に、ノンハロゲン材料は環境保全のためにも今後あらゆる分野で活用されるであろう。

原論文1 Data source 1:
原子力発電所用ノンハロゲン難燃ケーブルの開発
吉田 伸、伊藤 一己、会田 二三夫、松下 茂利、矢地 竹男
昭和電線電纜株式会社
電気学会絶縁材料研究会:EIM-89-127, p.47 (1987)

原論文2 Data source 2:
原子力用非ハロゲン系難燃ケーブルの開発
松本 鉄男、木村 人司、石井 伸尚
古河電気工業株式会社
FAPIG, No.145, p.26 (1997)

キーワード:原子力発電所、ノンハロゲン、難燃、ケーブル、発煙性、耐放射線性、 耐水蒸気性、冷却材喪失事故
nuclear power plant、halogen-free,flame-retardant, cable, smoke emission, radiation resistance, steam resistance, loss-of-coolant accident
分類コード:010105

放射線利用技術データベースのメインページへ