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作成: 1998/09/21 藤村 俊一

データ番号   :010116
高分子の線量率効果と新しい時間短縮試験方法
目的      :ガンマ線照射試験方法の研究と原子力用ケーブルの被覆材料への応用
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :0.33-5.0kGy/h, 103-106rad/h (10-104Gy/h)
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所、Naval Research Laboratories
照射条件    :空気中、窒素中、酸素加圧下、加熱下
応用分野    :ケーブル、チューブ、シート、テープ、電子機器

概要      :
 原子力施設で使用されるケーブルの認証試験では高線量率のガンマ線を照射する促進劣化試験が行われている。高分子材料の劣化挙動は低線量率照射の場合は、酸素が試料内部まで十分拡散されるので高線量率とは異なる特性を示す。いわゆる線量率効果が確認された。しかし、低線量率では試験時間がかかるので時間短縮の検討が行われ、酸素加圧下で照射する方法、加熱下で照射する方法が提案され、何れも同等の評価が行えることを明らかにした。

詳細説明    :
 
 原論文1は、原子力施設で使用されるケーブル被覆材料を用いてガンマ線の線量率効果を調査したものである。
 
 原子力施設で使用される多くの高分子材料は(40年以上の)長期間にわたってかなり低線量率(約103rad/h (10Gy/h) 以下)の放射線に暴露される。材料を評価する促進劣化試験は、照射線量が劣化を支配するとの考えで、通常ガンマ線照射の線量率を106rad/h (104Gy/h)に高くしている。しかし、多くの研究で高分子材料は、照射線量が低くても劣化が起こる、空気存在下で線量率効果を示すことなどが報告されている。そこで、現在原子力施設で使用されている安全系の低圧電力ケーブルを試料として線量率効果の研究を行った。ケーブルから採取した材料は、CLPO(難燃性電子線架橋ポリオレフィン絶縁体)、EPR(エチレンプロピレンゴム絶縁体)、CSPE(クロロスルフォン化ポリエチレンシース)、CP(クロロプレンシース)の4材料である。
 
 各線量率での照射線量と機械特性の関係をCLPOについて図-1に示す。4材料ともほぼ同じ傾向で、空気中の照射では線量率が低くなると引張り強度が低下する線量率効果が確認された。空気中では高分子材料が酸素と反応してカルボニル基を生成することが赤外分析で確認されており、低線量率照射の方が多くなっていた。膨潤度は低線量率の方が高い値を示した。高分子材料の劣化は複雑であるが、架橋と切断の組合せであり、酸素が介在する場合には大きな線量率効果が現れることが分かった。一方、窒素中の照射では引張り強度が低下しないので、架橋が主に起きている。以前、高線量率で照射した試料を加熱すると劣化が促進する現象を報告したが、今回の低線量率の条件では加熱しても変化しなかった。これは、照射で生じる安定な過酸化水素基が低線量率照射では劣化に余り影響していないことを示している。結論として、高分子材料は線量率効果があるので、高線量率の試験結果を低線量率の環境に適用するには慎重な取り扱いが望まれる。


図1 Aging of crosslinked polyolefin insulation. The tensile strength after aging divided by the tensile strength before aging (T/T0) and the tensile elongation before aging divided by the tensile elongation before aging (e/e0) plotted against the total integrated radiation dose at the various indicated dose rates. The circled numbers refer to the weight swelling ratios corresponding to the indicated experimental conditions (1 Mrad = 10 kGy).(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem. Vol.18, No.3-4, pp.679-687(1981), Fig.1(p.682), Kenneth T. Gillen and Roger L. Clough, OCCURRENCE AND IMPLICATION OF RADIATION DOSE-RATE EFFECTS FOR MATERIAL AGING STUDIES; Copyright(1981), with permission from Elsevier Science.)

 原論文2は、線量率効果を前提に短時間で評価できる促進劣化試験方法を提案したものである。
 高分子は高い線量率で照射されるとラジカル濃度が高くなるが、高分子表面で酸素と反応し内部の濃度が低下する。濃度の低下に見合う酸素の供給があれば内部は均一に酸化されるが、表面からの酸素の拡散が少なければ不均一酸化状態になる。これらが高分子の特性に影響することから、原子力施設で使用される高分子の試験はIEC規格では大気中の照射条件を0.108kGy/h以下とするように定めている。しかし、これでは規定の線量を照射するのに1年以上の試験時間が必要となるので、時間短縮のため高線量率でも同等の作用効果があると考えられる(1)酸素加圧下(0.5MPa)で線量率4.2kGy/hの照射を行う方法と(2)加熱下(空気中70℃)で線量率5.0kGy/hの照射を行う方法の2試験方法を提案する。9種類の配合組成のEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)を用いて0.5mm厚のシートにガンマ線を照射して特性を測定した。
 
 図-2に標準的な配合EPDM-1の照射線量と100%モジュラスの関係を示すが、十分酸化が進む低線量率条件(0.33kGy/h)、酸素加圧条件、加熱条件ともほほ同じ線上にある。図-3に9種類のEPDM(印で区別)の100%モジュラスについて低線量率条件と加熱条件の比率を示す。酸素加圧条件も同じ傾向であり、いずれも時間短縮条件は基準値(図中の一点鎖線)に対し±0.25の範囲内にある。また、基準値からのずれが線量と共に大きくなることはない。従って、100%モジュラスで見る限りでは、二つの時間短縮条件は妥当と判断できる。破断伸びについては、加熱条件で一部の試料に基準値より高くなり架橋が進む傾向や、酸素加圧条件で全試料が基準値よりやや高くなり切断が多い傾向にあるが、何れの方法も許容できる範囲であると考える。


図2 Changes in 100% modulus of EPDM-1 by irradiation at various conditions. ○ 0.33kGy/h in air at room temperature ,● 4.2kGy/h on 0.5MPa oxygen at room temperature, □ 5.0kGy/h in air at 70℃(原論文2より引用)



図3 The comparison of 100% modulus of samples irradiated at 70℃ under high dose rate(5kGy/h) with that of samples irradiated at room temperature under low dose rate(0.33kGy/h). The 100% modulus of samples irradiated at low dose rate referred to as 1.0.(原論文2より引用)



コメント    :
 原子力施設で使用される高分子は放射線暴露の影響を受ける。線量率効果は古くから知られており、認定試験では高線量率で時間短縮を図ると共に照射線量に裕度を持たせた促進劣化試験が行われている。Gillen, Cloughは、実際に使用されている安全系の原子力用ケーブルを用いて初めて線量率効果を理論化した。伊藤らの高崎研究所は日本の中心的研究機関として2種類の新しい試験方法を提案している。新素材の開発にはこれらの方法が有効であるが、製品の認定試験とするには特殊な設備が必要であるなど課題も残る。

原論文1 Data source 1:
OCCURRENCE AND IMPLICATION OF RADIATION DOSE-RATE EFFECTS FOR MATERIAL AGING STUDIES
Kenneth T. Gillen and Roger L. Clough
Sandia National Laboratories, Albuquerque, NM 87185, USA
Radiat. Phys. Chem. Vol.18, No.3-4, pp.679-687, 1981

原論文2 Data source 2:
エラストマーの時間短縮照射試験方法の検討
伊藤政幸、日馬康雄、八木敏明、岡田漱平、吉田健三
日本原子力研究所 高崎研究所
マテリアルライフ、5巻、1-2号、pp.18-23、1993年4月

キーワード:線量率効果, 高分子劣化, ケーブル, 酸化切断, 酸素加圧, 加熱,エチレンプロピレンゴム, 熱劣化, 時間短縮試験, 架橋, 安全系, 促進劣化試験,
dose-rate effect, polymer degradation, cable, oxidative scission, ethylene propylene rubber, pressurized oxygen, heating, heat degradation, short-term test, crosslinking, safety application, accelerated aging test
分類コード:010104, 010105, 040104

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