放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/10/03 山田 仁

データ番号   :010115
架橋ポリプロピレン
目的      :ポリプロピレンの放射線架橋による改質と電線への応用
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(2MeV)
線量(率)   :50kGy
照射条件    :窒素雰囲気中、空気中
応用分野    :環境汚染防止、電線

概要      :
 ポリプロピレンは、放射線照射により劣化するが多官能モノマーを配することにより架橋することができる。適切な多官能モノマーと線量によりメルトストレングスを向上させ、再溶融が可能なフォームに利用したり、ポリプロピレン固有の優れた機械的強度や耐熱性を生かした高耐熱、高難燃の電線として実用化されている。

詳細説明    :
 
 ポリプロピレンは、ポリマー固有の優れた機械的特性と耐熱性をもつ材料であるにもかかわらず、空気中で電子線を照射すると劣化が優先しゲルを生じないもろい材質となる。このため放射線照射架橋用のポリマーとしては利用しにくい。しかしながら多官能モノマーをポリプロピレンに添加することで、劣化に優先して架橋反応を促進することが可能である。この様なポリプロピレンの特性の改質については様々な検討がなされている。多官能モノマーについては、2官能のアクリレートモノマー例えば1,4-ブタンジオール-ジアクリレート(BDDA)や1,6-ヘキサジオール-ジアクリレート(HDDA)が、架橋効率に優れているため低い線量でポリプロピレンの改質が可能である。
 
 熱安定性や引張り強さを改質する場合、多官能モノマーはレジン100重量部に対し2〜5重量部と比較的高濃度が必要とされる。多官能モノマーの濃度が低い場合には、高分子鎖成分とネットワーク構造を伴わない長い枝構造を形成するためメルトストレングスを増大させる。架橋によりメルトストレングスが増大したポリプロピレンは溶融温度や溶融特性がオリジナルのポリプロピレンと比較して変化する。DSCの測定結果を図1に示すが、メルトストレングスの増大と共にメルティングポイントは低温側にシフトし、ピークはブロードなものになっていく。また、メルトストレングスの増大したポリプロピレンは架橋してもゲルをもたないので熱による再溶融・再使用が可能である。このためプラスチック屑による環境汚染の低減に有効である。


図1 DCS curves of various melt strength PPs. (原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Applied Polymer Science, Vol.60, 617-623 (1996), Fig.6(p.621), Fumio Yoshii, Keizo Makuuchi, Shingo Kikukawa, Tadasi Tanaka, Jun Saitoh, Kiyohito Koyama, High-Melt-Strength Polypropylene with Electron Beam Irradiation in the Presence of Polyfunctional Monomers; Copyright(1996) by permission of John Wiley & Sons, Inc., All Rights Reserved.)

 また、架橋ポリプロピレンは、難燃剤を添加しても機械的強度の低下が少ないことと優れた耐熱性を有するため電線の難燃耐熱絶縁材料としても利用価値が高い。難燃剤については難燃効果の高い臭素系難燃剤と溶融落下を防ぐ塩素系難燃剤を併用し、難燃助剤は三酸化アンチモンが効果的である。ポリプロピレンの分子構造から来る酸化しやすさは酸化防止剤と銅害防止剤を添加することで補うことが可能である。酸化防止剤は酸化初期のラジカルトラップ効果の高いイオウ化合物と主剤の併用が加速劣化試験で良い結果を与える。架橋においては多官能モノマーに3官能のトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTM)が効果的である。但しTMPTMを樹脂100重量部に対し15重量部以上添加してもゲルは60%以上にはならない。
 
 架橋ポリプロピレンの伸びは線量の増加と共に急激に低下する。難燃剤を含むものはその傾向が更に顕著である。このため実用的な難燃耐熱ポリプロピレン絶縁体を得るためには、架橋による伸びの低下を防ぐ必要がある。伸びの低下を防ぐためにはエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、スチレン-エチレン-ブチレンブロック共重合体(SEBS)等の弾性を有するポリマーを添加する方法があるが、特にSEBSの添加は伸びの低下防止ばかりでなく、耐熱性の観点からも有効である。オリジナルのポリプロピレンとSEBSを添加したポリプリピレンの線量と伸びの関係を図2に示す。 
 こうして得られる難燃耐熱ポリプロピレン電線は、耐熱性についてはUL150℃グレードに適合し、低温性、耐加熱変形性、耐高温圧壊性についても従来の耐熱難燃ポリエチレン電線以上の特性を有する。今後は現在の絶縁体では強度不足である分野や、絶縁厚を薄くしたい分野においての使用が期待される。


図2 SEBSのFRXLPP絶縁体の伸びに対する添加効果(原論文2より引用)



コメント    :
 ポリプロピレンは耐熱性、機械的強度に優れていることから、さまざまな用途に用いられているが柔軟性に欠けるため、他の柔軟性のある樹脂とブレンドされて用いられることが多い。特に今後は対環境問題からハロゲンフリー難燃材料のベース材料として検討されると考えられる。

原論文1 Data source 1:
High-Melt-Strength Polypropylene with Electron Beam Irradiation in the Presence of Polyfunctional Monomers
Fumio Yoshii, Keizo Makuuchi, Shingo Kikukawa, Tadasi Tanaka, Jun Saitoh, Kiyohito Koyama
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Chisso Petrochemical, Faculty of Engineering University
  Yamagata University 
Journal of Applied Polymer Science, Vol.60, 617-623 (1996).

原論文2 Data source 2:
難燃耐熱架橋ポリプロピレン絶縁電線
片平 忠夫、鈴木 秀雄、佐藤 信安、平坂 則康
藤倉電線株式会社
藤倉電線技報,66号,p.57-62(1983)

キーワード:架橋,ポリプロピレン,多官能モノマー,メルトストレングス,DSC,難燃,耐熱,電線,SEBS 
crosslinking, polypropylene, polyfunctional monomer, melt-strength, DSC, flameretardant, heatresistance, wire, SEBS 
分類コード:010105,010202

放射線利用技術データベースのメインページへ