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作成: 1998/10/08 山田 仁

データ番号   :010112
導電性ポリマーのPTC現象とその応用
目的      :導電性ポリマーのPTC現象と自己制御型ヒーターへの応用
放射線源    :60Co
線量(率)   :0.14MGy
応用分野    :フォーム、プラスチックの再利用、ヒーター、センサー、パイプライン

概要      :
 温度の上昇と共に急激に電気抵抗値が変化するPTC現象は絶縁材料であるポリマーに導電性のカーボンフィラーを添加することで発現し、PTC現象を引き起こすのに必要なフィラーの臨界値はポリマーのメルトインデックスや結晶化度やフィラーの特性に依存する。この現象を利用した自己制御型のヒーターが加温・保温が必要な流体の輸送用パイプラインで実用化されている。

詳細説明    :
 
 ポリマー材料は純粋な状態では電気絶縁性に優れている。しかしながらカーボンブラック、カーボンファイバー、金属粉などの導電性物質を配合することで導電性をもたせることが可能である。これらの半導電性材料のいくつかはPositive Temperature Coefficient(PTC)特性を示す。これは温度の上昇に伴い抵抗値が急激に上昇する現象でその発現はいくつかの複雑な要因によって起こると考えられている。PTC現象は1945年にFrydmanによって発見されたが、メカニズムを説明できる十分な理論は構築出来なかった。
 
 カーボンブラックの配合量が高い時と比較的低いときに伝導ネットワークが簡単に形成されることをパーコレーション理論で説明し、カーボンブラック配合量の比較的高い場合と低い場合にはトンネル効果が適用できるとShermanはパーコレーション理論と量子力学のトンネル効果を用いてPTC現象を説明した。PTC現象が起こるフィラーの臨界値はポリマーのマトリックスとフィラーの特性に依存する。
 
 またWesslingの実験ではフィラーの臨界値はポリマーマトリックスの分子量と関係することを示唆している。ポリエチレンにカーボンブラックを添加した実験を行った結果をまとめると、フィラーの臨界値はポリマーのマトリックスのメルトインデックスと共に減少する(図1)。ポリマーの結晶化度が増えると臨界値は減少する(図2)。以上よりPTC現象はポリマー結晶部分の溶融とポリマーマトリックスの膨張によって発現すると推測される。PTC現象は放射線照射による架橋で顕著となるが、結晶化度の低いポリエチレンの場合には架橋によるPTC現象の顕在化は認められない。


図1 Relation between the critical CB content and the MI of the polymer.(原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Applied Polymer Science Vol.48, No 10, 1795-1800 (1993), Fig.1(p.1797), HAO TANG,JIANHUI PIAO,XINFANG CHEN,YUNXIA LUO,SHUHUA LI, The Positive Temperature Coefficient Phenomenon of Vinyl Polymer/CB Composites; Copyright(1993), by permission of John Wiley & Sons, Inc., All Rights Reserved.)



図2 Plot of the critical CB content against the degree of crystallinity of the polymer.(原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Applied Polymer Science Vol.48, No 10, 1795-1800 (1993), Fig.2(p.1797), by permission of John Wiley & Sons, Inc.)

 この様なPTC現象を発現する材料の使用用途として自己制御型ヒーテイングケーブルが挙げられる。パイプラインによる流体の輸送は安全性と経済性に優れた特性を持っており、その必要性は増加している。近年の諸産業では、多種多様の流体を扱っており、積極的な加温、保温を必要とする流体も多い、例えば、高粘性流体、固結性流体、重合性流体などは温度が低下すると輸送が困難、または不可能となる。この様な流体の場合パイプラインを直接又は間接的に通電発熱させる電熱法が施工部の形状の自由度が高く温度コントロールが正確なことや省エネルギー、公害問題がないなどの利点から支持されている。
 
 PTC特性を有する材料を用いると温度変化に応じ自ら出力をコントロールする自己制御型ヒーターが実現可能となる。構造としては自己制御抵抗体が2本の導線間に並列に結合されており断線事故は皆無である。抵抗体としてはポリオレフィンに特殊なカーボンブラックを混和させ放射線架橋処理を行っており、これがPTC特性を有する。電源を投入するとその温度に見合った電流が流れる。
 
 これが初動電流である。電流投入後はヒーター温度が徐々に上昇し、所定の設計出力(定常電流値)が得られるようになる。この自己制御型ヒーティングケーブルには、過熱の心配がない。重ね巻きができる。また重ね巻きした部分にも自己制御作用が働くのでホットスポットを作らず断線の心配がない。均一な温度分布が得られる。単位長さ当たりの出力が一定である為、設計段階での複雑な抵抗計算が不要である。可とう性に優れており複雑な配管や異形部にも適用できる。またヒーターの接続、分岐、端末処理が簡単であるという特徴がある。システムの一例を図3に示す。その用途については配管の周辺、タンクといった従来用途のほかに船舶関係、建設、土木関係等さまざまな分野に応用されてきている。その優れた特性と信頼性から、これらの応用分野でも、十分対応が可能となると思われる。


図3 システム例。 Schematic system of F-HEATER installation(原論文2より引用)



コメント    :
 温度に対し電気抵抗が非連続で変化するPTC特性を利用した制御装置は、信頼性も高くまた取り扱いも容易である。使用用途についてはアイデア次第で様々な分野に応用が可能である。今後は効率のよいPTC特性を有する材料を安定して生産する方法の検討が課題である。

原論文1 Data source 1:
The Positive Temperature Coefficient Phenomenon of Vinyl Polymer/CB Composites
HAO TANG,JIANHUI PIAO,XINFANG CHEN,YUNXIA LUO,SHUHUA LI
Jilin University, Changchun Institute of Applied Chemistry
Journal of Applied Polymer Science Vol.48, No 10, 1795-1800 (1993).

原論文2 Data source 2:
自己制御型ヒーティングケーブル“Fヒーター”の特性
中山 邦之、黒沢 幸彦、大滝 恭吏、石橋 正嗣、飯田 正、井坂 宗晴
藤倉電線株式会社
藤倉電線技報 第68号, 64-70 (1984).

キーワード:導電性、ポリマー、ポリエチレン、カーボンブラック、PTC、結晶化度、メルトインデックス、自己制御、ヒーター
conductivity, polymer, polyethylene, carbonblack, positive temperature coefficient, crystllinity, meltindex, selfcontrol, heater
分類コード:010105,010202

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