放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/01/23 佐々木 隆

データ番号   :010106
磁気情報材料用の分岐型ウレタンアクリレートの開発
目的      :フロッピーディスクなどの磁気記録媒体製造用のEB硬化樹脂の開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :低エネルギー電子加速器
線量(率)   :10-200 kGy
利用施設名   :日本合成ゴム東京研究所の実験室用低エネルギー電子加速器
照射条件    :窒素気流中、室温
応用分野    :電子線による磁気情報材料の製造

概要      :
 電子線(EB)硬化法で磁気情報材料を製造するためのウレタンアクリレート(UA)樹脂を開発した。直鎖型と分岐型(星状)のUAを比較した結果、分岐型UAは粘度が低く、EB硬化性も優れていることを見出した。分岐型UAを用いた磁気塗料のEB硬化では、ヤング率が高く、硬化性に優れた樹脂を用いることによって、磨耗度の低い硬化膜が得られる。

詳細説明    :
 
 磁気テープやフロッピーディスク磁気情報材料は、微粒子磁性粉を添加剤とともにバインダー樹脂溶液中に均一分散させた磁性塗料をポリエステルフィルム上に塗布して製造される。熱法で用いられるバインダー樹脂の主成分はイソシアネート基をもつウレタン樹脂でイソシアネート基の架橋硬化で耐磨耗性に優れた走行安定性が得られる。しかし、イソシアネート基は水分など活性水素に対して反応性に富むため、塗料のポットライフが短く、均一な強度をもつ塗膜とすることが難しい。EB硬化は常温硬化で生産性が高いだけでなく、樹脂が安定で均一架橋が可能である。このような観点から分岐型UAを主成分とするEB硬化型磁性塗料を開発した。
 
 ポリウレタンの骨格、アクリル基の含量の異なる直鎖及び分岐型UAを合成し、溶液粘度、EB硬化性を比較した。図1に示すように分岐型UAは、直鎖型UAより粘度が低くかつ、硬化性も良い。分岐型と直鎖型の硬化性を同一アクリル基含量で比較するとアクリル基が少ないほど分岐型が硬化性が高かった。


図1 分岐型および直鎖型ウレタンアクリレートの特性の分子量依存性。 a) 溶液粘度(メチルエチルケトン/シクロヘキサノン中、40%) (b) 溶剤抽出分率(線量、50 kGy)(原論文1より引用)

 数平均分子量3.4万、アクリル基含率0.3 ミリ当量/gの分岐型UAのEB硬化性と物性の関係を図2に示す。図2(a)から、線量の増大とともにアクリル基の反応率は増大しているが、膨潤度すなわち架橋度は50 kGy(5 Mrad) で飽和している。また、ヤング率及び破断伸びのような力学的特性も図2(b)のように50 kGy(5 Mrad)以上でほぼ一定となった。これらの事実は50 kGy以上の照射では、アクリル基の消費が分子間架橋に寄与せず、分子内反応または停止反応によるものであると解釈される。


図2 分岐型ウレタンアクリレートの(a)硬化性と(b)力学特性(原論文1より引用)

 分岐型UAを用いた14種の磁性塗料から磁性塗膜を作製し、100 gの定荷重で磨耗輪(半径200 mm、 回転数1000 rpm)による走行耐久性と動摩擦特性を調べた。図3(a)から、磁性塗膜の走行耐久性はバインダー樹脂の抽出分率に反比例して、すなわち硬化度に比例して増大している。また、図3 (b)から、ヤング率とともに摩擦抵抗が低下していることから、ヤング率の高い、硬化性に優れた分岐型UAがEB硬化型磁性塗料のバインダー樹脂として適していると結論された。


図3 磁性塗膜の磨耗特性(a) 走行耐久性、(b)動摩擦係数とヤング率の関係(原論文1より引用)



コメント    :
 論文には明示されていないが、電子線硬化によるフロッピーディスク製造実用化に用いられたバインダーの開発経過に関する論文とされている。

原論文1 Data source 1:
磁気記録媒体用EB硬化樹脂の開発
宇加地孝志、五十嵐勝利
日本合成ゴム(株)東京研究所
放射線と産業, No.41, 16 (1988)

キーワード:磁気塗料、電子線硬化、ウレタンアクリレート、分岐型オリゴマー、磨耗度
magnetic coating, electron beam curing, urethan acrylate, star-type oligomer, wear resistance
分類コード:010102,010205,010304

放射線利用技術データベースのメインページへ