作成: 1998/01/23 佐々木 隆
データ番号 :010105
電子線硬化の磁気テープ製造への応用
目的 :磁性粉体を含むウレタンアクリレート-飽和ポリマーブレンド物の電子線硬化による磁気テープ製造プロセスの開発
放射線の種別 :電子
放射線源 :電子加速器
線量(率) :0 - 120 kGy
利用施設名 :ソニー社中央研究設置のESI CB-150実験機, 175 keV
照射条件 :窒素気流中(酸素濃度、< 100 ppm), 室温
応用分野 :磁気テープ製造
概要 :
アクリル系モノマー、オリゴマーの電子線硬化による磁気テープの製造を検討した。ブレンド用に用いられるポリマーは塩化ビニルービニルアルコール共重合体(UCC:VAGH) と線状ポリウレタン(日本ポリウレタン) である。オリゴマーを用いたときの性能としては、基材に対する接着力が小さいことであったが、熱可塑性ポリマーとのブレンド系では従来品と総合的に同等のテープを得ている。
詳細説明 :
電子線(EB)硬化法を磁気テープの製造に応用する目的で、まず、単官能〜6官能アクリル系モノマー、ポリオール(プロピレングリコール変性グリセリン)トリアクリレートオリゴマー(A-700, 分子量862)、ウレタンアクリレートオリゴマー(UA)のEB硬化を検討した。用いたUAは、分子量300、700、1500のポリエーテルポリオール(プロピレングリコール変性グリセリン)にトルイレンジイソシアネート、2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて合成した3官能のオリゴマーで、原料ポリオールの分子量に対応して、UA-300, UA-700, UA-1500と呼称している。これらの多官能モノマー、オリゴマーは10 kGy (1 Mrad) 程度の低線量で硬化するが、硬くてもろいため、磁気テープ用バインダーとしては不適である(図1)。
そこで、アクリレートオリゴマーに飽和ポリマーをブレンドした系についてさらに検討した。ブレンド用に用いたポリマーは塩化ビニルービニルアルコール共重合体(UCC:VAGH) と線状ポリウレタン(日本ポリウレタン) である。例えば、TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート), DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)に飽和ポリマーをブレンドすると、図2に示すようにアクリル基の反応率は低下した。溶剤可溶部のGPC測定から、ブレンド物でも、100 kGy の照射では、飽和ポリマー成分はほとんど検出されなかった。このことは、飽和ポリマーも照射によって架橋しており、ブレンド系が相互侵入網目構造的な構造になっていると推定される。
図1 Percent Conversion vs Dose. a) Acrylate Monomers and Oligomer, b) Urethane Acrylate Oligomer (1 Mrad=10kGy).(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., vol. 24, pp. 567-579 (1985), Figs.3,4(p.571), J. Seto, T. Nagai, T. Noguci, S. Arakawa, A. Shibata, C. Ishimoto and M. Miyashita, Electron Beam Curing of Acrylic Oligomers; Copyright(1985), with permission from Elsevier Science.)
図2 Percent Conversion vs Dose for Blended DPHA or TMPTA.(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., vol. 24, pp. 567-579 (1985), Fig9.(p.573), with permission from Elsevier Science.)
次に8種のオリゴマー、ブレンド系に磁性粉(ガンマフェライト)、潤滑剤(オリーブ油)溶剤(シクロヘキサノン)をそれぞれ添加して磁性塗料を作製し、EB硬化によって磁気テープを試作し、物性を調べた。表1に示すように、オリゴマーを用いたときの性能としては、基材に対する接着力が小さく、磁気テープとして不良であったが、熱可塑性ポリマーとのブレンド系、特に高分子量のウレタンアクリレートUA-1500では熱硬化ウレタンを使用した従来品と総合的に同等のテープが得られた。
表1 電子線硬化磁気テープの特性(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., vol. 24, pp. 567-579 (1985), Tab.3(p.577), with permission from Elsevier Science.)
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配 合 厚 さ 磁気特性 粉 体 粉 体 フィルム
--------------------------- 摩耗度 接着力 弾性率(E)
オリゴマー*1 VAGH*2 ポリウ 磁束密度 距形比
レタン (μm) (Gauss) (%) (mg) (g) (dyn/cm2)
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UA-300 8.5 1740 83.0 1.7 10 2.79x1010
7 0 3
UA-300 8.5 1860 81.6 4.4 10 4.40x1010
10 0 0 3
UA-700 8.5 1720 83.3 2.4 75 2.84x1010
9 0 1
UA-700 9.0 1780 82.1 4.3 25 3.24x1010
10 0 0
UA-1500 8.5 1710 83.3 1.5 110 3.05x1010
3 7 0
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(イソシアネート橋かけ)*3 5.5 1240 79.7 2.53x1010
(イソシアネート橋かけ)*3 (4.5) (1490) (80.0) (2.6) (100)
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*1 3官能ウレタンアクリレート
分子量 UA300:1200, UA700:1600, UA1500:2300
*2 塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体(UCC)
*3 ( )内カレンダ加工
コメント :
この論文ではブレンドする飽和ポリマーとしてVAGH,飽和ポリウレタンを選択した理由は明示されていない。 VAGHは熱硬化でも用いられ、磁性粉の分散性に効果があると考えられる。また、基材に対する接着性は、多数のウレタン基の存在によってもたらされることから、飽和ウレタンが添加された。EB硬化による磁気テープ製造は実用化されなかったようであるが、バインダー樹脂の組成を具体的に開示した論文の一つである。
原論文1 Data source 1:
Electron Beam Curing of Acrylic Oligomers
J. Seto, T. Nagai, T. Noguci, S. Arakawa, A. Shibata, C. Ishimoto and
M. Miyashita
Sony Corporation Research Center, Hodogawa-ku, Yokohama, 240 Japan
Radiat. Phys. Chem., vol. 24, pp. 567-579 (1985)
キーワード:電子線硬化、アクリルオリゴマー、ウレタンアクリレート、磁性塗料、粘弾性、ポリマーブレンド、接着、磨耗度
electron beam curing, acrylic oligomer, urethane acrylate, magnetic coating, viscoelasticity, polymer blend, adhesion, wear
分類コード:010102, 010205, 010304