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作成: 1998/01/15 佐々木 隆

データ番号   :010104
電子線硬化による磁気情報材料の製造
目的      :磁気情報材料の製造における高速化と性能向上
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(150-200 kV)
線量(率)   :10-100 kGy
利用施設名   :Lord社に設置のESI社製実験機
照射条件    :175 kV, 室温、窒素気流中(O2 200 ppm以下)
応用分野    :磁気テープ、フロッピーディスクなど磁性情報記録材料の製造

概要      :
 磁気テープ、フロッピーディスクなど磁性情報記録材料の需要拡大にともない、性能向上、製造コスト低減のため、電子線硬化法による製造の研究開発が活発になった。磁性体のバインダーとしてウレタンアクリレート/モノマーの他に高分子量の飽和樹脂を併用するので溶剤も使用している。

詳細説明    :
  
 テープレコーダーあるいはビデオ用の磁気テープ、さらにはコンピュータ、ワープロ用のフロッピーディスクなど磁性情報記録材料の需要が1980年代に入ってから急速に伸びている。これを反映して、その性能向上、製造コスト低減を目指して電子線硬化法の採用への動きが極めて活発になった。
  
通常、これらの材料はポリエステルを基材とし、ポリウレタンを磁性体(γ-酸化鉄)のバインダーとして製造されている。したがって、電子線硬化法を適用する場合にもウレタンアクリレート/モノマーをバインダーとして用いるのが通例であるが、ポリエステルとの接着性、あるいは耐摩耗性などの基本的な要求特性を満たすために、高分子量の樹脂を用いる必要があり、また、磁性体の含量が多いために、塗工のためには溶剤を使用せざるを得ない現状にある。
 
 Jurek, Keller (Goodrich) は電子線硬化型ウレタンと飽和ポリウレタンとのブレンド物について検討した。飽和ポリウレタンについては、ウレタン基含量が高、中、低の3種が用いられ、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)の他にウレタン基高含量のものにジメチルホルムアミド(DMF)、中及び低含量のものにシクロヘキサノン(CHN)がそれぞれ用いられている。表1に示すように電子線硬化型単独では伸び率が低いがブレンド化すると従来のウレタン系ブレンド物とほぼ匹敵する機械的性質が得られる。

表1 従来品(熱硬化ポリウレタン)とEBによる硬化膜の物性比較 (原論文2,Table I, II, VIのデータから合成)
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                   ポリウレタンa  EB硬化樹脂b   ブレンド物c
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破断強度、psi        7,000        7,000         1,800 - 7,000
破断伸び、%            150            5          100 -    625
ヤング率、psi       19,000      122,000        2,100 -250,000
100%弾性率、psi      3,600            -          250 -  5,200
THF溶出分、%            -             0           25 -     90
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aブレンド熱硬化
bウレタンアクリレート200 keV, 3 Mrad (30 kGy, 1 Mrad=10 kGy)
cEB硬化型樹脂添加量 12 - 45 wt.%, 200 keV, 3 Mrad (30 kGy)
  
 Lord社の Santosusso はより高分子量 (Mw=7x103〜5x104 )のアクリロウレタンとフェノキシ樹脂 (Mn=2.3 x104,Mw=5.4 x104)、ビニル樹脂 (Mn=3.1x104 ,Mw=5.7x104 ) とのブレンド系について検討している。アクリロウレタンとしては二官能性(Mn=3 x103,Mw=7 x103)、くし型構造(Mn=2.5 x104,Mw=5 x104)、三官能性(Mn=7 x103,Mw=2.5x104)の3種が用いられている。12組の配合でまず各特性を調べた結果を統計処理し、適正配合比と思われるものが選定された。表2に示すように、選定ブレンド配合 3種の内、5 Mrad (50kGy)照射で二官能/くし型/ビニル=10/60/30(ブレンドA) 、二官能/くし型/フェノキシ=25/50/25(ブレンドB)が 比較的良好な特性を示した。

表2 ウレタンとフェノキシ樹脂、ビニル樹脂とのブレンド系の諸特性(原論文3のデータより作成)
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                          ウレタン単独              ブレンド物
                    ------------------------  ---------------------
                     2官能    櫛型   3官能       A       B       C
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ガラス転移点(。C)      41       29      19        42      40      36
ショア硬度            56       64      56        57      62      61
弾性率 (103psi)      210      110      28       290     260     110
破断強度 (psi)     5,600    5,600   4,300     7,500   7,400   5,100
破断伸び (%)          37      140     220        50      50     150
5%弾性率 (%)       5,000    2,600     580     7,400   7,000   2,300
ゲル分率 (%)          86       84      91        50      52      78
膨潤率 (vol. %)       28       15      12         6       4      13
光沢度                41       43      76        46      26      45
磨耗度 (mg)           19       16      16        15      13      13
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ブレンド物配合:A=10%2官能、60%櫛形,10%ビニル
        B=25%2官能、50%櫛形,25%フェノキシ
        C=10%2官能、80%櫛形,10%3官能
 しかし、ゲル分率は50 %程度であるので多官能性モノマーを少量添加して架橋促進を図ることを示唆している。なお、磁性体のミルベース作製のときにTHFを、それを希釈する樹脂液に THF-CHNをそれぞれ使用している。

コメント    :
 磁気情報材料の製造に電子線硬化法を応用するため、リニアフィラメントを使った低エネルギー電子加速器の小型実験機の設置数が1970年代後半に急速に伸びた。ウレタンアクリレートオリゴマーは硬化性が良い方であるが、バインダーとして飽和ポリマーを使用するため、溶剤を使用せざるを得ないだけでなく、硬化線量が増大する。リニアフィラメント型加速器の大出力化はこのような事情が大きな要素となっている。

原論文1 Data source 1:
Electron Curing of Magnetic Coatings
W.M.Rand, Jr
Consultant
Radiation Curing, Feb. (1983), p.26

原論文2 Data source 2:
Electron Beam Curable Polyurethane Blends As Magnetic Media Binders
I.E.Jurek and D.J. Keller
B.F.Goodrich Chemical Co.
J.Radiat. Curing, Jan. (1985), p.20

原論文3 Data source 3:
Radiation Curable Plolymer Blends for Magnetic Media
T. M. Santosusso
Lord Corp.
Radiat. Phys. Chem., 25, pp.557-566 (1985)

キーワード:磁性塗料、磁性情報材料、電子線硬化、ウレタンアクリレート、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、フェノキシ樹脂
magnetic coatings, magnetic medias, electron-beam curing, urethane acrylates, urethanes, vinyl polymer, phenoxies
分類コード:010102, 010302, 010304

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