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作成: 1998/01/16 幕内 恵三

データ番号   :010102
放射線硬化性水系樹脂
目的      :水性塗料の放射線による硬化
放射線源    :低エネルギー電子線(ESI製)、紫外線発生装置
線量(率)   :20-60 kGy
応用分野    :木材表面塗装

概要      :
 放射線硬化は、省エネルギー、環境保全対策の有力な技術として1970年代後半に印刷及び塗装業界に衝撃を与えた。当初の放射線硬化系は、本質的に100%ソリッドであったため、水系開発の利点は見当たらなかったが、最近、水系の開発が着実に進展した。本論文はこの背景を探るとともに、水系製品の種類や製造方法をレビューした。特にポリウレタンに焦点を当て、配合と性能試験に基づいて主要な用途を検討した。

詳細説明    :
 
 放射線硬化が発展した理由には、硬化のエネルギーが低い、VOCが低い、通常は100%ソリッド、硬化が速い、熱に弱い下地に適している、場所を取らないなどがある。通常の放射線硬化の配合は、樹脂と反応性希釈剤が必須の成分である。放射線硬化用の樹脂には、アクリル変性の不飽和ポリエステル、エポキシ、ポリウレタンなどがある。アクリル変性エポキシは、エポキシ樹脂とアクリル酸の反応で、アクリル変性不飽和ポリエステルは、ポリオールとアクリル酸、多塩基酸の縮合重合で合成される。
 
 反応性希釈剤は単官能性モノマーまたは多官能性モノマーであり、その量は、樹脂100 重量部に対して20〜30重量部である。反応性希釈剤は樹脂の粘度を下げる目的で使用される。低分子量のアクリル酸エステルには皮膚毒性があるため、低毒性モノマーの製造に関心が持たれている。反応性希釈剤のもうひとつの問題は、木材などの下地へ吸収されやすいことである。さらに、反応性希釈剤の悪臭も問題となっている。このため、反応性希釈剤を水で置き換えた水系が望まれている。水系には水希釈性型(water reducible systems)と水分散型(water based dispersions) とがある。
 
 水希釈型は放射線硬化樹脂に化学的変性で親水性官能基を導入して水可溶化したもので、水溶液型ともいえる。水希釈性型の粘度は樹脂の分子量と濃度によって決まる。多量の親水性官能基を導入する結果、放射線硬化膜の物性は変性前に比べて劣ることが多い。
 
 水分散型は樹脂が微粒子となって水中に分散したもので、粘度は樹脂の分子量に依存しない。エマルションとも呼ばれる水分散型は、粒子表面の電荷による分類のほか、製造法によっても分類できる。製造技術の主なものは、外部乳化法と内部(自己)乳化法の2つである。外部乳化法は、乳化剤を用いて樹脂を水に分散する方法で、乳化剤は樹脂によって使い分ける。自己乳化法では、樹脂を変性して乳化効果のある官能基を樹脂に導入する。一般的にはカルボニル基が導入され、中和でアニオン型となる。ここでは、自己乳化ウレタン系の放射線(UV、EB)硬化を報告する。
 
 自己乳化アクリル変性ポリウレタンの合成は、次のとおりである。イソシアネートを分子末端に持つポエステルまたはポリエーテル、ジメチロールプロピオン酸などでカルボキル基を導入する。この反応は溶剤で行われる。次いで、アクリル酸2-ヒドロキシエチルを分子末端のイソシアネートと反応させてアクリル変性する。カルボキル基を3級アミンで中和し、内部乳化性を付与する。水に分散した後、残存NCO基をジアミンで鎖長を延長する。外観は透明もしくは乳白色であり、固形分は40%、pHは8.0 、粒径は0.1 ミクロン、粘度は 4番Ford cupで15秒である。硬化後、IRによる重合性、引張試験、化学的耐久性及び最終製品性能評価を行った。
 
 木材塗装の結果では、接着性(クロスハッチ)、耐酢酸(10%) 、耐NaOH(10%) 、耐黒色靴クリームでは、UVとEB硬化に差は認められなかった。しかし、EB硬化は耐アセトンにやや優れ、耐メチルエチルケトンで劣った。UVもEBもスチールへの接着は貧弱である。水系の特長は、ベースとなる樹脂設計の柔軟性、配合が容易、スプレー塗装が可能、硬化時に塗膜がドライ状態、皮膚毒性がない、塗膜重量が軽い-印刷・木材塗装に有利、機器類の洗浄が容易、低臭気、低収縮などである。

コメント    :
 放射線硬化性水系樹脂は、従来の放射線硬化性樹脂で必須成分であった反応性希釈剤を必要としないため、皮膚毒性や臭気の問題がない放射線硬化が可能となる。

原論文1 Data source 1:
Development and Application of Waterborne Radiation Curable Coatings
W. D. Davies abd I. Hutchinson
Akcros Chemicals, UK
Spec. Publ. R. Soc. Chem., No. 165, p. 81-94 (1995)

キーワード:水系、放射線硬化、 水分散型、エマルション、ポリウレタン、紫外線、電子線、乳化
water borne, radiation curing, water based dispersions, emulsion, polyurethane, UV, EB, emulsification
分類コード:010302, 010303, 010304

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