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作成: 1997/12/15 斎藤 恭一

データ番号   :010087
グラフト膜を用いる液体混合物のパーベーパレーション分離
目的      :グラフト膜を用いる液体混合物のパーベーパレーション分離
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :5-20 kGy
応用分野    :アルコール - 水混合物からのアルコールの濃縮

概要      :
 基材膜をはじめにイオン架橋し、その後、硫酸銅を含むアクリル酸水溶液中でガンマ線を照射した。一方、基材膜をグラフト溶液中に入れて照射し、その後、硝酸アルミニウム水溶液でイオン架橋した。エタノール-水のパーベーパレーション分離で高性能であったのは、ポリアクリル酸の含有量が15〜20 wt%であるグラフト共重合膜であった。分離係数が10〜25、透過速度は30〜250 g/m2/hであった。

詳細説明    :
 
1)アクリル酸グラフト膜を用いるエタノール-水混合物のパーベーパレーション分離
 25%のポリアクリル酸(PAA)水溶液とナイロン-6をギ酸に溶かした液を混合した。これらの混合液をガラス板にキャストした後、乾燥させた。得られた膜を基材としてつぎの2つ方法でアクリル酸グラフト重合膜を作成した。
  
 (作成法1)まず、基材を10%硝酸アルミニウム溶液に浸すことによってイオン架橋をおこなった。つぎに、アクリル酸(AA)を含む溶液中に浸しガンマ線を照射してAAをグラフト重合させた。
 (作成法2)まず、AA溶液中の基材にガンマ線を照射した。つぎに、イオン架橋をおこなった。いづれの方法でも、ポリAAのホモポリマー(PAAゲル)の生成を抑制するために水溶液に0.04 Mの濃度になるように硫酸銅を混ぜた。
 
 グラフト重合のときの照射量(5〜20 kGy)とモノマー濃度(0.5〜1.5 M)とを変化させて、作成法1に従いPAAグラフト重合膜を作成した。例えば、PAAを20%混ぜてキャストして得た基材を使って、グラフト重合での反応液のモノマー(AA)濃度1.5 Mとした場合、20 kGyの照射量でグラフト率は45%となった。また、グラフト率はモノマー濃度に比例した。膜内でグラフト高分子が膜厚み方向に均一に形成された。
 
 PAAとナイロン-6を混合しキャストして得られる基材膜中のPAAの混合率が20%を超えると分離係数が低下し、一方、透過速度が増加した。得られた膜中のPAAの総量は、基材膜中に混ぜたPAAの量と放射線照射によりグラフト重合されたPAAの量の和である。パーベーパレーションの性能は膜中の親水性と疎水性の釣り合いで大きく変化するので、このPAAの総量がパーベーパレーション性能に関係する。PAAの総量が15〜20%でエタノール-水の分離係数は最大値(28)となった(図1)。


図1 Effect of total PAA content in membranes on the separtion factor prepared by method-1.(原論文1より引用。 Reproduced from Eu. Polym. J., 24, 927-931(1988), Fig.4(p.929), R. Y. M. Huang and Y. F. Xu., Pervaporation separation of ethanol-water mixtures using grafted poly(acrylic acid)-nylon 6 membranes; Copyright(1988), with permission from Elsevier Science.)

透過速度はPAAの総量の増加とともに増加し(図2)、透過速度は60〜300 g/m2/hの範囲となった。


図2 Effect of tatal PAA content in membrane on the permeation rate prepared by method-1.(原論文1より引用。 Reproduced from Eu. Polym. J., 24, 927-931(1988), Fig.5(p.929), with permission from Elsevier Science.)

  
 作成法2についても作成法1と同様にパーベーパレーション性能を調べた。アルミニウムイオンによる架橋段階が異なっていてもほぼ同様の性能を示すことがわかった。
 作成法1に従い作成した膜に供給液(エタノール-水)濃度を変えて、パーベーパレーション性能を調べた。供給液濃度が50%で分離係数は最小値(24)となった(図3)。


図3 Effect of feed composition on the separation factors.(原論文1より引用。 Reproduced from Eu. Polym. J., 24, 927-931(1988), Fig.8(p.930), with permission from Elsevier Science.)

供給液濃度が50%で透過速度は最大値(45 g/(m2 h))となった。供給液濃度と透過速度とがトレードオフの関係であった。

2)アクリル酸グラフト膜を用いるメタノール-水混合液のパーベーパレーション分離
 水、メタノールおよびモノマー(アクリル酸またはメタクリル酸)を含む溶液にポリビニルアルコール膜を浸しガンマ線を照射してグラフト重合反応をおこなった。得られた膜をメタノール-水混合液のパーベーパレーション分離膜として用いた。グラフト率が増加すると水の透過速度が増えた。一方、グラフト率の増加とともにメタノールの透過速度が減少した。したがって、グラフト率の増加とともに水の選択係数は増加した。
  

コメント    :
 非多孔性膜にアクリル酸をグラフト重合して、アルコール-水混合物から水を選択的に透過させる技術の開発に関連している。アクリル酸のカルボキシル基の周囲に水和水のつくる空間または空隙ができ、そこを水が通り抜ける。その空間の評価基準として、含水率とプローブ分子(例えば、尿素や塩化ナトリウム)が利用されている。グラフト高分子の長さ(分子量分布)や密度を決定するために、グラフト高分子鎖のキャラクタリゼーション技術を進歩させて、膜の精密な設計ができるようになることが望まれる。

原論文1 Data source 1:
Pervaporation separation of ethanol-water mixtures using grafted poly(acrylic acid)-nylon 6 membranes
R. Y. M. Huang and Y. F. Xu
University of Waterloo
Eu. Polym. J., 24, 927-931(1988)

原論文2 Data source 2:
Separation of liquid mixtures by using polymer membranes. 3. Grafted poly(vinyl alcohol) membranes in vacuum permeation and dialysis
V. Shantora and R. Y. M. Huang
University of Watereloo
J. Appl. Polym. Sci., 26, 3223-3243(1981)

キーワード:パーベーパレーション分離、液体混合物、膜、グラフト重合
pervaporation separation, liquid mixture, membrane, graft polymerization
分類コード:010201, 010203, 010502

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