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作成: 1997/10/23 堀野 裕治

データ番号   :010079
集束イオンビームの半導体デバイスへの応用
目的      :集束イオンビームを用いた半導体デバイスの加工、創製
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :集束イオンビーム装置(0.05-260keV、100pA)
フルエンス(率):< 1017/cm2
線量(率)   :- 100pA
利用施設名   :様々な施設(レビュー論文)
照射条件    :真空中、主に室温
応用分野    :半導体デバイス形成プロセス、SIMS、量子井戸形成、表面加工、TEM試料形成

概要      :
 半導体デバイスに関連する集束イオンビーム(FIB)技術の現状を概観し、リソグラフィーなどに関する応用について記述した。FIBを用いたエッチングはシリコンULSI製造において製造欠陥分析やマスク修正などに無くてはならない技術になってきている。また、FIBによるデポジション技術は量子効果デバイスの作製などに用いられている。しかし、ダメージが大きく、生産性が低いことから、実際のLSIデバイス製造プロセスには向かない。

詳細説明    :
 
 液体金属イオン源の開発等により直径0.1ミクロン、電流密度1.5A/cm2の10keV Ga+イオンなどのビームが実現されている。また、イオン源の寿命が長くなり、信頼性も向上しており、いろいろな応用が提案されている。

表1 FIB systems and their applications.(原論文1より引用。 Reproduced from Nanotechnology, 7(1996), 247-258, Tab.1(p.249), with permission from IOP Publishing Limited., and the authors.)
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 FIB System               Ion              Energy(keV)
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Direct Writing            Ga, Au-Si-Be      10 - 150
Ion Implantation                      Ga, Au-Si-Be      10 - 150
Retarding                             Ga                0.05 - 10
                                      Au                0.05
High Current                          Ga                20 - 100
In Situ Processes                     many              0.05 - 100
IC Process Inspection                 Li, Be            200
Falilure Analysis, Mask Repair        Ga                20 - 30
SIMS                                  Ga                35
Gas Ion Source System                 He                20, 100
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 表1にFIBが応用されている分野と用いられているイオン種及びそのエネルギーを示す。液体金属源を用いるために、利用可能なイオン種は限られていたが、現在では多くのイオン種が利用できるようになり、いろいろな半導体デバイス関連の応用に用いられている。以下ではいくつかを例示する。
  
 FIBを用いたリソグラフィーでは電子線リソグラフィーの場合と比べて照射量が2桁以上少なくて良く、レジスト中や基板からの散乱が無視できるため、サブミクロンデバイスの形成に有利である。


図1 Typical resist patterns fabricated by 260keV Be++. The line width is about 0.1 micron and the thickness is 0.6 micron. (原論文1より引用。 Reproduced from Nanotechnology, 7(1996), 247-258, Fig.2(p.247), S. Matsui and Y. Ochiai, Focused Ion Beam Applications to Solid State Devices; Copyright(1996), with permission from IOP Publishing Limited., and the authors.)

 例えば、図1は260keV Be++を用いてレジストにパターンを形成したSEM像である。線巾は0.1ミクロン、レジストの厚さは0.6ミクロンである。このように側面も滑らかで、微細で優れた加工が可能である。また従来の技術では加工が非常に困難なマッシュルーム型の形成も報告されている。集積度が大きくなるとゲートの抵抗が低下するためにGaAs-FETなどではマッシュルーム型の断面形状を持つゲート電極が必要となる。そのような加工にはFIBリソグラフィー技術が持つ微細性と制御性が有利となる。
 
 FIBによるエッチングでは物理的と化学アシストの2つのタイプがある。物理的スパッタリングによるエッチングは、半導体製造欠陥分析、回路修正、プロセスモニターになくてはならない技術である。例えばVLSIメモリーは高温耐久試験が行われる。試験後、電気的にだめになった部分をFIBでエッチング・観察し、原因を調べるのに使われる。高温によるアルミニウムの拡散により、ボイドが形成されて回路がだめになった例などが調べられている。また直接、FIBにより垂直タイプのフィールドエミッターを形成した例などがある。化学アシスト効果によるエッチングはFIBでエッチングを行う際に、Cl2ガスなどのガスを導入して、エッチング速度を速めたり、再付着を防止したり、ダメージを抑える効果が期待できる。これにより、アスペクト比が非常に高く、加工面の滑らかな加工が可能である。
 
 FIBを用いたデポジションは光学マスクやX線マスクの修正などに応用されている。化学アシスト効果を応用したものが多く、堆積したい材料によって適当なガスを選び、そのガス雰囲気でFIBを照射することで、基板とガスとの間の反応を促進して、堆積する。


図2 SEM micrograph showing regular array of 36 gold pillars fabricated by 100keV Ga+ FIB-induced deposition. (原論文1より引用。 Reproduced from Nanotechnology, 7(1996), 247-258, Fig.13(p.255), with permission from IOP Publishing Limited., and the authors.)

 図2にこの方法で堆積した典型例を示す。ビーム径0.1ミクロン、電流13pAの100keV Ga+をガス(C7H7F6O2Au)中で基板に照射し、金の細い柱を36本形成したものをSEMで観察したものである。それぞれがビームが照射された位置に相当し、直径が約0.15ミクロン、高さが約10ミクロンの柱が形成されている。照射イオン1個あたりおよそ75個の金が堆積し、形成された柱の直径はビーム径の1.5から2倍になっている。このことは化学アシスト効果を用いた堆積法が大変高い収率であることを示している。
このほかに、50eV Ga+などの非常に低いエネルギーのFIBを直接デポジションする方法などが開発されている。この方法ではガスを使わず、高真空度を保ったままでデポジションできるために、堆積膜の純度が良くなることが特徴である。

コメント    :
 質量が大きいため電子線の場合と比べて基板に与えるダメージが大きく、また生産性が低いことから、実際のLSIデバイス製造プロセスでは使用されてない。しかし、マイクロマシーンへの応用、TEM用の試料作製などFIBによる微細加工を必要とする応用分野は数多くあると思われる。

原論文1 Data source 1:
Focused Ion Beam Applications to Solid State Devices
S. Matsui and Y. Ochiai
Fundamental Research Laboratories, NEC Corporation
Nanotechnology, 7(1996), 247-258

キーワード:集束イオンビーム、FIB、半導体デバイス、LSI、リソグラフィー、エッチング、LMIソース、
focused ion beam, FIB, solid state devices, LSI, lithography, etching, LMI source
分類コード:010103, 010305, 040106

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