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作成: 1997/10/20 藤村 俊一

データ番号   :010068
電子線照射で架橋した高電圧ケーブル
目的      :高電圧ケーブルへの電子線照射の適用性
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子線加速器(3MV、100mA)、(750-1500kV)
線量(率)   :15Mrad (150kGy)
利用施設名   :GoldStar Cable Co.,Ltd
照射条件    :大気中
応用分野    :電線、家電、高分子加工

概要      :
 電子線架橋は低電圧の電線では確立した技術となっているが、高電圧ケーブルでは絶縁体が厚いため、加速器を複数台使う必要がある。また、電荷蓄積の問題がある等の理由からあまり実用化されていない。しかし、生産性が高く、償却まで含めると安価な製造方法であるので今後の技術革新が待たれる。これらの現状と、最近の実用化の一例として高電圧リード線の開発報告をまとめた。

詳細説明    :
 
 原論文1では高電圧ケーブル製造における電子線照射プロセスについて総論をまとめている。電子線照射は電線分野では既に確立された技術である。しかし、高電圧ケーブルでは、絶縁厚が厚いため加速器の限界が問題である。例えば、絶縁厚2.5mmの低圧電線はドラム4個用いて電線を多条に配列させて一度に電子線を照射する方法で加速器も1.5MVで十分製造できるが、製造量の多い30〜60kVの高電圧ケーブルでは銅導体が太くなるので、ドラムに巻くことができず加速器も3MV以上が必要となる。厚肉の絶縁体に電子線を照射すると絶縁体に電荷が蓄積されリヒテンベルグ破壊につながる問題があるので、多官能性モノマーを添加して解決する方法が提案されている。これを克服した架橋ポリエチレン電線は、化学架橋で製造された絶縁体に生成する微小ボイドが皆無という特徴を持っている。
 
 太物の高電圧ケーブルをドラムに巻くと変形し絶縁体に過度の歪みを与える問題に対しては、複数の加速器を用いてケーブルに多角度から照射する方法が実用化されている。しかし、絶縁体の温度上昇の問題があるので架橋効率の良い材料の開発が待たれる。15kV用の高電圧ケーブルで導体サイズ240mm2の場合、乾式化学架橋方式では27m/分の製造速度に対し電子線架橋方式では43m/分が可能との報告があり、生産性は1.6倍となる。表1に示すように、電子線架橋方式は初期投資が高いが、ランニングコストを含めると生産コストは乾式架橋方式に比べ半分となる。

表1 Estimated Comparison of EB and Drycure For Power Cable.(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.18, No.5-6, pp.1331-1340 (1981), Tab.3(p.1337),James H. BLY, ELECTRON BEAM PROCESSING OF POWER CABLE INSULATION; Copyright(1981), with permission from Elsevier Science.)
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240 mm2  Cu, 15-20 kV rating
EB-Two 3 MV, 50 mA accelerators
Drycure-150 m Catenary, 150 mm insulation extruder
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                            EB             Drycure
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 Running Speed, m/min      43.3            12
 Avg.rate, km/hr           2.08            0.576
 Avg.rate, kg/hr           1174            327
 Investment*               $4.5 M          $1.75M
 Avg.Cost/km*              $88.71          $161.71
 Avg.Cost/kg*              $0.16           $0.283
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*Includes extrusion for EB
 原論文2では高電圧リード線の開発が報告されている。テレビの内部配線に使用される高電圧リード線は安全上、カットスルー性が良く難燃性であることがUL、CSA規格に規定されている。電線の構成は銅導体、架橋ポリエチレン(PE)絶縁体、難燃性ジャケットとなっており、これら被覆材料の検討を化学架橋法より生産性の高い電子線架橋法で行った。カットスルー性は105℃の恒温槽中で電線にV字の刃を押しつけ絶縁破壊しないことが必要であり、絶縁体の性能に大きく影響される。低密度と中密度のPEは融点が低く、114℃の融点を持つ高密度PE(HDPE)が望ましい。図1は各種溶融指数(MI)のHDPEに電子線照射を行ってゲル分率75%に架橋した試料の動的粘弾性試験(TMA)の結果である。


図1 Onset temperature and penetration of various crosslinked high density polyethylene.(原論文2より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.46, No.4-6, pp.959-962 (1995), Fig.1(p.960), Bae Hun-Jai, Sohn Ho-Soung and Choi Dong-Jung, DEVELOPMENT OF HIGH VOLTAGE LEAD WIRE USING ELECTRON BEAM IRRADIATION; Copyright(1995), with permission from Elsevier Science.)

 何れもカットスルー性は良好であるが、TMAで融点付近の挙動を見るとMIが0.6以上では変形しやすくなるのでMI0.2のHDPEを採用した。ジャケットはエチレン酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体(VAVC)に難燃材を配合して柔軟性を出した。難燃材は塩素化PE、三酸化アンチモン、金属水酸化物を選定し、熱安定剤、老化防止剤、加工助剤なども配合している。ゲル分率を上げるための架橋助剤は3官能基を持つモノマーが良好である。電線は電子線が均一に当たるよう多条に送線し、加速器は絶縁厚によって750kV,1000kV,1500kVの中から選択した。製造した高電圧リード線はUL,CSA規格に合格した。

コメント    :
 高電圧ケーブルの絶縁体は以前は水蒸気架橋で製造されていたが、水トリー問題があるため現在は乾式架橋(熱源は溶融塩、窒素ガスなど)が主流である。電子線架橋は生産性を上げることができるので有望であるが、高エネルギーの加速器が必要なことや電荷蓄積の問題があってあまり実用化されていない。償却まで考えると電子線架橋の方が優れているので、架橋効率の良い材料開発が待たれる。高電圧リード線は絶縁厚が比較的薄いので、電子線架橋が高電圧分野で採用されている一例である。

原論文1 Data source 1:
ELECTRON BEAM PROCESSING OF POWER CABLE INSULATION
James H. BLY
Radiation Dynamics Inc.
Radiat. Phys. Chem., Vol.18, No.5-6, pp.1331-1340 (1981)

原論文2 Data source 2:
DEVELOPMENT OF HIGH VOLTAGE LEAD WIRE USING ELECTRON BEAM IRRADIATION
Bae Hun-Jai, Sohn Ho-Soung and Choi Dong-Jung
GoldStar Cable Co.,Ltd
Radiat. Phys. Chem., Vol.46, No.4-6, pp.959-962 (1995)

参考資料1 Reference 1:
High-voltage XLPE with a free-strippable insulation shielding
Shousaku Yamanouchi, Masaaki Kondo, Minoru Kameda, Kusuo Sanjo
Sumitomo Electric Co.Ltd
WIRE JOURNAL INTERNATIONAL, pp.72-79, AUGUST (1983)

キーワード:高電圧ケーブル、多角度照射、乾式架橋、高電圧リード線、難燃性、カットスルー、多官能性モノマー
high voltage cable, multiple-side irradiation, drycure system, high voltage lead wire, flammability, cut-through, monomer with mulutifunctional group
分類コード:010105

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