作成: 1997/10/17 栗田 光造
データ番号 :010067
電線用ゴムの照射架橋
目的 :電線用ゴムの電子線照射架橋による特性向上と生産性の効率化
放射線の種別 :電子
放射線源 :電子加速器(1MeV,100mA)、(3MeV,25mA)
線量(率) :50-200kGy
利用施設名 :古河電気工業電子加速器、エクソン化学電子加速器
照射条件 :大気中
応用分野 :ゴム電線架橋
概要 :
電線用ゴムの電子線照射架橋の効果について研究が行われている。EPDMについては架橋効率の優れるエチレン成分の多いポリマーが選定され、充填材を含まずポリエチレンやEVAをブレンドした組成物では混合、材料供給も含めた生産効率化が図れるプロセスが研究されている。シリコーンにおいては、架橋剤残さを含まず、耐油、耐溶剤性及び熱老化特性に優れた特性の得られることが示されている。
詳細説明 :
エチレンプロピレンゴムは高エネルギーの電子線により架橋できる。エチレン・プロピレン共重合体(EPM)及びエチレン・プロピレン・非共役ジエン3元共重合体(EPDM)の電子線による架橋ではエチレンとプロピレンの割合、ポリマーの分子量、ジエン量等によって架橋性能が変化する。又、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)をブレンドすることにより、材料物性、加工性を改良することができる。この例を表1に示す。
表1 Properties of Rubber Compounds of Wire Insulation (1Mrad=10kGy).(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.22, No3-5, pp.565-574(1983), Tab.2(p.571), Hayao Ishitani,Eisuke Saito and Yasusi Sasaki, THE UNIQUE PROCESSING OF RUBBER-INSULATED WIRES BY RADIATION; Copyright(1983), with permission from Elsevier Science.)
| Radiation
| Chemical**
|
EPDM-3/EVA* =70/30
| EPM-3/LDPE* =66/33
|
Crosslinking
| 15 Mrad
| 20 Mrad
| 160℃×20″ press
|
Tensile strength, kg/cm2
| 131
| 96
| 89
|
Elongation, %
| 610
| 680
| 840
|
200% Modulus, kg/cm2
| 32
| 31
| 29
|
400% Modulus, kg/cm2
| 49
| 41
| 33
|
Gel fraction, %
| 67.3
| 66.7
| -
|
Aging
| 150℃×7days
| 135℃×7days
|
ret. of TS/El, %
| 47/68
| 91/105
| 125/90
|
Volume resistivity, Ω-cm
| 1.5x1016
| 6.0x1016
| 2.3x1015
|
Dielectric constant
| 2.55
| 2.35
| 3.05
|
Dissipation factor, %
| 0.50
| 0.22
| 1.8
|
Hardness (JIS-A)
| 75
| 77
| 65
|
Tear strength (JIS-A), kg/cm
| 21
| -
| 18
|
Tension set
| 55
| -
| 70
|
Compression set (70°×22Hr), %
| 41
| -
| 40
|
* Containing 1 phr of antioxidant, RD.
** Formulation: polymer-100, filler-100, others-20, peroxide-2.7
ゴムの熱老化特性は主に老化防止剤の配合量によって決定される。船舶用ケーブルの絶縁コア材に従来の連続蒸気加硫に代わり電子線照射架橋によるEPゴムの電線が適用された例があるが、これに用いられたコンパウンドはエチレン含有率の高いEPDMにEVAと老化防止剤を加えたものである。この方法ではエチレン成分が多いためEPDMをペレットで供給できるということと、老化防止剤もポリエチレンに混合したマスターバッチによってペレットで供給できるという特徴がある。
さらに、従来のゴムコンパウンドと異なり配合内容を単純にしてあるため、混合、材料コストを低減でき、照射架橋の際の材料供給を簡便化できるというメリットを持っている。ある試算結果では、生産コストの比較として化学架橋での電線加工単価は4.57円/mに対し、ドライブレンド材料の電子線照射架橋では4.15円/mという効果が得られている。
充填剤を含んだEPDMコンパウドにおいても照射架橋における種々の特性調査が行われている。エクソン社のハイエチレンタイプのEPDM VISTALON7000とVISTALON1721での実験では充填剤として種々材料での比較を行った結果、充填剤には表面にシラン処理を施した焼成クレーを用いたもので最も高い物性値が得られている。これに次いで水酸化アルミ(ATH)の表面にシラン処理を施したものでも良好な物性が得られている。この結果を図1に示す。
図1 EFFECT OF FILLER TYPE ON TENSILE STRENGTH (1Mrad=10kGy)(原論文2より引用)
ポリエチレン、架橋助剤を添加したコンパウンドでの特性調査では、以下の研究結果が示されている。引張り強さの熱老化特性はポリエチレンの配合量には依存せず加硫助剤(TMPT)の量に依存する。誘電率はポリエチレンの配合量、線量の双方に依存する。水中に浸漬した場合の誘電率の変化量はポリエチレン、加硫助剤の配合量に依存する。力率に関しては、常態及び浸水時の特性の何れもポリエチレンの配合量には影響を受けず、線量に影響を受ける。
熱老化特性に優れた代表的な配合組成としてVISTALON7000ではポリマー100部に対し、ATH100部、プロセスオイル50部他少量添加剤、VISTALON1721ではポリマー100部に対し、ATH 110部,低密度ポリエチレン22部、酸化亜鉛15部他少量添加剤といったものが開発されている。
シリコーン電線用ゴムの電子線照射架橋の場合には、触媒を用いないため触媒残さが発生しなくなり熱老化特性が向上する、生産コストを低減できる、高速加硫が可能となる、異物による架橋阻害が少なくなるといった効果がある。シリコーンゴムは他のポリマーと異なり、グリーン強度が低いため、押出し後の変形等の問題で、これらのメリットがあるにもかかわらず商業化されていなかった。しかし、前架橋を行った後、照射架橋を行うという方法で、実用化可能な方法が開発された。又、照射架橋では材料特性が優れるという結果得られている。ひとつには耐油、耐有機溶剤特性が従来の過酸化物加硫のものと比較すると大きく向上しており、フルオロシリコ-ン並みとなっている。例えば、トルエンに対しては室温96時間での浸漬試験による膨潤率が、一般電線用途のものでは165%に対し、電子線照射架橋したものでは52%、フルオロシリコーンでは20%といった実験結果もある。又、熱老化特性についても表2に示すように高い特性を示す。その他のメリットとして医薬、食品等の生体関連用途において人体に害を及ぼす可能性のあるオリゴマー成分が少ないという点がある。過酸化物加硫の場合には各種芳香族系化合物が残さとして生じるが照射架橋の場合は低分子量シリコーンのみである。
表2 COMPARATIVE HEAT AGE STUDIES TENSILE/ELONGATION/DUROMETER(300℃)(原論文3より引用)
SILICONE RUBER
| 0 HOURS
| 100 HOURS
| 250 HOURS
| 350 HOURS
|
A
| 1000/200/70
| 450/100/73
| 450/100/75
| 450/75/80
|
B
| 1000/450/60
| 550/100/75
| BRITTLE
| BRITTLE
|
C
| 1100/400/60
| 700/75/85
| 600/50/93
| BRITTLE
|
A = HVS-4011 (10 Mrad (100 kGy)) Radiation Crosslinked Silicone
B = General Purpose Wire and Cable Silicone
C = High Temperature Wire and Cable Silicone
コメント :
ゴム電線はポリマーの三次元網目構造を形成するため、通常イオウ加硫か過酸化物架橋が行われているが、本論文では照射架橋を適用するために、EPDMでのコスト比較、特性改良、及びシリコーンの架橋剤省略などの検討結果が報告されている。これらの提案にも拘わらず、現状では照射架橋はあまり実用化されていない。理由の一つにゴム絶縁材料は多くの添加剤を配合するので、照射架橋では十分な架橋度が得られないことがある。この問題を解決し、生産性を大幅に向上する技術が開発されればゴム電線も照射架橋で製造されることになろう。
原論文1 Data source 1:
THE UNIQUE PROCESSING OF RUBBER-INSULATED WIRES BY RADIATION
Hayao Ishitani, Eisuke Saito and Yasusi Sasaki
The Furukawa Electric Co.,Ltd. Hiratuka Reserch Laboratories, Hiratuka, Japan
Radiat.Phys.Chem.,Vol.22, No3-5, pp.565-574(1983)
原論文2 Data source 2:
ELECTRON BEAM CROSSLINKING OF ETHYLENE PROPYLENE ELECTRICAL COMPOUNDS
L. SPENADEL
EXXON CHEMICAL COMPANY ELASTOMARS TECHNOLOGY DIVISION LINDEN, NEW JERSEY 07036
J. OF INDUST. IRRADIATION TECH., 3(1), 7-39 (1985)
原論文3 Data source 3:
RADIATION CROSSLINKED SILICONE FOR WIRE AND CABLE APPLICATIONS
Paul A., Goodwin, John G. Dupont
High Voltage Engineering Corporation Burlington, Massachusetts
International Wire & Cable Symposium Proceedings 1981
キーワード:エチレン・プロピレン・非共役ジエン・3元共重合体、シリコーン、電線、絶縁体
EPDM, silicone, wire, insulation
分類コード:010105, 010104