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作成: 1997/10/10 山田 仁

データ番号   :010066
放射線照射されたPVCの改良と電線への応用
目的      :PVCの放射線照射架橋による改質と電線への適用
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Co、電子加速器(1.6MeV)
線量(率)   :0-7.5Mrad、4Mrad (0-75kGy, 40kGy)
応用分野    :電子部品、放射線高分子化学

概要      :
 PVC組成物は優れた特性をもつことから広い分野で用いられている。このPVCは放射線照射により架橋することで更に優れた長期寿命、耐ハンダ性、耐カットスルー性などの特性を付与することが可能である。しかしながら使用目的に応じた特性を持たせるためには可塑剤、多官能モノマー、安定剤等の種類と量の検討が重要である。

詳細説明    :
 
 可塑化されたPVCは広い分野に渡り使用されている。しかしながらPVCに添加される可塑剤はしみ出し、特性の低下を招く。この問題を解決するにはポリマーとの高い親和性をもつ可塑剤を選択する方法と官能性モノマーを添加し放射線照射による架橋を行う方法がある。
  
 Ecole Polytechnique de MontrealのP.Batailleらによりγ線照射によるPVCの改質と架橋反応のメカニズムについて解析が行われた。
  
 可塑剤としてはジイソデシルフタレート(DIDP)とトリ(2-エチル-ヘキシル)トリメリテート(TOTM)が、テトラエチレングリコール・ジメタクリレート(TEGDMA)とトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)の官能性モノマーが架橋剤として選ばれた。その他熱安定剤、改質材として塩素化ポリエチレン(PEC)を添加した。これらの組成は表1に示した。 

表1 Composition of the various mixtures(原論文1より引用)
--------------------------------------------------------------------
Compound          Serie no.1         Serie no.2         Serie no.3
composition       low level         high level      without monomer
                  plasticizer       plasticizer
--------------------------------------------------------------------
PVC               100    100       100    100        100     -
PEC                -      15        -      15         -     100  
DIDP               20     20        35     35         35     35
ou
TOTM
TEGDMA             10     10        10     10         -       -
TMPTMA             10     10        10     10         -       -
Tribasic lead       7      7         7      7         7       7
Sulfate
Antioxydant         0.2    0.2       0.2    0.2       0.2     0.2
--------------------------------------------------------------------
  ブラベンダープラストグラフで混練し、圧力成形して試験片を得た。この試験片にコバルト60γ線を0〜7.5Mrad (0-75kGy)照射して架橋した。評価としては応力-歪み挙動と架橋度の測定を行った。PECを添加しない系は架橋度が低く、可塑剤ではTOTMを用いた系の架橋度が低いことが判明した。応力-歪み曲線は図1に示す。 


図1 Typical stress-strain curves(原論文1より引用)

 グラフAはシリーズ1(高いレベルの可塑剤を使用)を2Mrad (20kGy)照射を行ったものである。グラフBはシリーズ2(低いレベルの可塑剤を使用)の結果である。グラフAはエラストマー的な挙動を示し、グラフBはP点で最大となり、このPは線量に伴い増大する。照射による反応のメカニズムをより明確にするためDSCによる熱分析を行った。線量が上がっていくに従いピーク温度は低くなった。熱的性質からサンプルは、1つのピークをもつものと2つのピークをもつものに大別される。この結果から2官能モノマーは均一なネットワークを形成し、3官能モノマーは濃密なネットワークを形成すると考えられる。そして高い線量では2つ目のネットワークが形成される。このネットワークの不均一性が2つの温度ピークとなって現れる。
 
 この様な架橋PVCを絶縁体として被覆した電線が1972年からBELL SYSTEM TELEPHONE OFFICEで採用されている。従来この電線には柔軟PVC組成物が被覆された上に編組と難燃ラッカーがコートされていたが、新しい電線は架橋されたPVC(IPVC)組成物が被覆されているだけであり、メインフレームやジャンパーのかなりの部分が新しい電線に置き換えられている。IPVCは電子線照射による架橋がなされているが架橋度が35%に押さえられているため低い摩擦抵抗もつ。このため混み合ったメインフレーム内においても配線が容易である。
 
 このIPVCにはテトラエチレングリコール・ジメタクリレート(TEGDMA)と反応性のモノマーが添加されている。モノマーの中には酸化防止剤と熱重合を防ぐために少量のキノンが含まれる。その他の添加剤としては無機化合物Ba/Cd/Znと滑材、着色剤、塩素化ポリエチレンがある。IPVCはChemical Research LaboratoryのE.Scalcoらによってより高特性に改良された。TEGDMAの代わりにより反応性メタクリレートモノマー(PFMAM)を用いることで機械的強度や難燃性が向上し、 Ba/Cd/Znは照射による変色防止のため鉛化合物に変えられた。塩素化ポリエチレンは液体のフタレート系可塑剤(LPP)に置き換えることで伸びを向上させることに成功した。この第二世代のIPVCで被覆された電線には、難燃性、皮むき性、長い使用寿命、低い材料コスト、色安定性などの利点がある。従来の電線はこの様に優れた特性を持つ第二世代のIPVC電線へ更に広い分野で置き換えられていくと考えられる。

コメント    :
 PVCはコスト・特性のバランスに優れた材料であることから、古くから電線の絶縁材料として用いられている。その特性は添加剤や架橋度により大きく変化し材料設計の自由度も高いため、様々な検討が行われている。しかしながら、すでに分子中に塩素を含むことや鉛などの重金属化合物を添加剤として含むことから、燃焼時のダイオキシン問題、埋め立て時の鉛による水質・土壌汚染などが重要な問題となっている。電線被覆材としては非鉛安定剤やPVCに代わるノンハロゲン材料などが電線メーカー含をめ各社で検討されている。

原論文1 Data source 1:
PROPERTIES OF POLYVINYL CHLORIDE COMPOSITES CROSS-LINKED BYγ-IRRADIATION
P.Bataille, C.Degrendele, H.P.Schreiber
Ecole Polytechnique de Montreal
Vinyl Mater. Future, p. 251-260 (1988)

原論文2 Data source 2:
A NEW RADIOLYTICALLY CROSSLINKABLE POLY(VINYL CHLORIDE) INSULATION FOR TELECOMMUNICATIONS WIRE
E. Scalco, W.F. Moore
Chemical Research Laboratory, Bell Telephone Laboratories
Radiat. Phys. Chem.,Vol.21, No.4, pp.389-396(1983)

参考資料1 Reference 1:
Salmon,W.A.,Loan,L.D.
Polym.Sci.,vol.16, 671(1972)

参考資料2 Reference 2:
DOBO
Chem.,46,1,(1976)

参考資料3 Reference 3:
The Radiation Chemistry of Macromolecules
Dole,M.
vol.2,p.107, Acad.Press,N.Y.(1972)

キーワード:ポリビニールクロライド、γ線、架橋、電話回線用電線
polyvinylchloride、γ-irradiation、cross-linking、telecommunications wire
分類コード:010105

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