放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/10/02 山田 仁

データ番号   :010063
電子線照射による熱収縮チューブの製造方法
目的      :熱収縮チューブの開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(1-3MeV)、電子加速器(0.5-1MeV)、電子加速器(0.3MeV)
線量(率)   :20-30Mrad (200-300kGy)
応用分野    :電子部品、放射線高分子化学

概要      :
 ポリエチレンやエチレン共重合体の架橋による形状記憶効果を利用して、熱収縮チューブは作られる。材料だけでなく製造工程においても安定した特性が得られるよう検討されている。特に熱融着性接着剤と組み合わせて通信用電線を接続するSTAC法に使用するチューブは収縮力や耐亀裂性の相反する両特性を満足する改良がなされている。

詳細説明    :
 
 典型的な高結晶ポリマーであるポリエチレンは放射線照射で容易に架橋反応をおこす。架橋ポリエチレンは融点を越えても溶融しない、ゴムライクであるなどの特性をもつ。架橋したポリエチレンは分子が三次元網目構造をしているが、架橋は通常非晶部分でおこると考えられている。この架橋したポリエチレンを融点以上に加熱すると結晶部分は消失するが溶融は起こらない。もしこの段階でストレスを加え伸ばされた状態で冷却した場合、伸ばされた形状で結晶化が起こりストレスから解放されても伸ばされた形状を維持し続ける。再加熱した場合結晶が消失し、再冷却で再び結晶化するとストレスの加わる前の形状に戻る。これが記憶効果であり熱収縮チューブの原理である。
 
 実際に熱収縮チューブを製造するにはチューブ法とシート法の2つがある。チューブ法はチューブを押し出し放射線照射して拡管を行う。シート法は架橋して伸ばされたシート又はフィルムをマンドレルに幾層にも巻き付け加熱し各層を融着させチューブ状にした後マンドレルから引き抜き製造する方法である。材料は主に高密度ポリエチレンが使用されるが、低密度ポリエチレン、エチレン共重合体などもその目的に応じて用いられる。また、酸化防止剤、難燃剤、着色剤も添加される。十分な架橋を得るためには、電子線の加速電圧はチューブでは1〜3MeV、シートでは0.5〜1MeVである。照射量は20〜30Mrad (200〜300kGy) が適当である。チューブ法において、拡管は熱したチューブの一端から圧縮空気を注入する異圧法と機械的拡管法がある。異圧法は拡管率が1.5〜2.5にあるのに対して、機械的拡管法は円錐状のくさびを通す方法で拡管率3〜4以上である。更に、2つの回転するローラーを通す方法では、600mm〜1000mm以上の大外径を製造することが可能である。
 
 これらのチューブの水密、気密性を更に向上させるため、熱収縮チューブと熱溶融接着剤を用いる方法(STAC法)が通信ケーブル外被接続方法として実用化された。接着剤とチューブの接着性を高めるために高い収縮力が要求されるが、収縮力が高まると亀裂が生じやすい。茨城電気通信研究所の村田らにより相反する両特性を満足させた熱収縮チューブが開発された。素材としては高密度ポリエチレン(HDPE)分岐状低密度ポリエチレン(BLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)及びそれらのブレンド材を検討した。図1に架橋ポリエチレンシートの平衡応力(歪み33%)とゲル分率との関係を示す。


図1 架橋PEシートの平衡応力とゲル分率の関係(原論文2より引用)

 応力はゲル分率と共に増大する。また、分岐点を持たないHDPEとLLDPEは網目構造を形成しやすいため低いゲル分率で高い応力を持つと思われる。
  
 図2にタフネス値とゲル分率の関係を示す。


図2 架橋PEシートのタフネスとゲル分率(原論文2より引用)

 タフネスはゲル分率の増加と共に増大するが、あるゲル分率以上において耐亀裂性は低下する。そのためタフネスのゲル依存性はある極限値を持つ。次に、タフネスと平衡応力曲線を図3に示す。


図3 架橋PEシートのタフネスと平衡応力の関係(原論文2より引用)

 平衡応力の増加と共に耐亀裂性(タフネス)は低下する。直鎖構造のPEは長鎖分岐構造のPEに比べて優れた耐亀裂性と高い収縮率を持つことが判明した。HDPEはLLDPEと比較して熱融着用接着剤との接着性、融点以下での透明性、収縮温度が高いなどの問題がある。よって、LLDPEがSTAC法用チューブとして最適である。LLDPEは酸化防止剤のブリードが問題であるため、エチレン共重合体をブレンドし酸化防止剤の保持力を向上させた。収縮力と耐亀裂性への製造工程での影響は配向度と架橋度が考えられる。配向度は小さくゲル分率は30〜40%のものが高い収縮力と耐亀裂性に優れる。開発されたチューブはSTAC法用熱収縮チューブの要求条件を十分に満足する特性を有していることが判明した。

コメント    :
 現在、熱収縮チューブは架橋した結晶性ポリマーの形状記憶効果を利用した特徴ある製品であるばかりでなく、架橋電線と同じく世の中に広く知られている。その使用目的も電線の接続部保護だけでなく、パイプラインの腐食防止など様々である。このため目的に応じて大きさ、難燃性、収縮力など様々なバリエーションがある。材料的には電線被覆材料と類似した点があるが、安定した特性を得るためには高度な工程技術が不可欠である。特に、拡管工程は重要であり製造各社がそれぞれ検討を重ねている。

原論文1 Data source 1:
CURRENT STATUS OF IRRADIATED HEAT-SHRINKABLE TUBING IN JAPAN
Ozawa Noda
Sumitomo electric industries, Ltd.
Radiat Phys.Chem., Vol.18, No.1-2, pp.81-87,(1981)

原論文2 Data source 2:
STAC法用熱収縮チューブ
村川 則夫、山本 二三男、山川 進三、久保田 義則、松永 哲正、貝津 良輔
茨城電気通信研究所
通研実報第31巻、第2号、p.435-444(1982)

参考資料1 Reference 1:
Japanese patent Toku-kou-sho 33-2637

参考資料2 Reference 2:

Japanese patent Toku-kou-sho 47-37506

参考資料3 Reference 3:

Japanese patent Toku-kou-sho 52-40343

参考資料4 Reference 4:

Japanese patent Toku-kou-sho 50-24355

参考資料5 Reference 5:
熱収縮チューブ法によるケーブル外被の接続
山川、山本
通研実報、24、No.7、p.1525(1975)

参考資料6 Reference 6:
Splicing Method using Heat-Shrinkable Tubes for Submarine Local Cable
Y.Kubota,S.Yamakawa
Proc.26th IWCS,p.129(1976)

参考資料7 Reference 7:
Sleeve-Cable Jointing with Heat-Shrinkable Tubing for Splice Enclousures
S.Yamakawa,Y.Kubota
Review of ECL,25,No.5-6,p.587, (1977)

参考資料8 Reference 8:
STAC法によるガス保守ケーブルの外被接続
久保田、武田、松永、渡辺、山川、貝津
通研実報、31、No.2,p401,(1982)

キーワード:放射線照射、架橋ポリエチレン、熱収縮チューブ、記憶効果
radiation, cross-linked polyethylene, heat-shrinkable tubing、memory effect
分類コード:010207

放射線利用技術データベースのメインページへ