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作成: 1997/09/22 島田 守

データ番号   :010062
放射線照射によるポリエチレンフォームの改質
目的      :放射線照射によるポリエチレンフォームの改質
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :電子加速器(1.5MeV)、60Co線源
線量(率)   :1 - 30MRad (10-300 kGy)
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :空気中・窒素雰囲気中・真空中/室温
応用分野    :ポリエチレンフォームの表面改質、ポリエチレンフォームの加工、表面グラフト重合

概要      :
 放射線グラフト重合法によりポリエチレンフォームを改善するため、アクリル酸のグラフト重合挙動を調査した結果、重合禁止剤の活用によって内表面にグラフト重合させ、フォームの気泡構造を保ったまま親水化させることができた。なお、フォームに電子線を照射した時の物性変化は、窒素中30Mradの照射によりゲル分率が30%増加する、寸法安定性は照射によって著しく改善される等が確認された。

詳細説明    :
 
 高密度ポリエチレンのフィルムに前照射法(コバルト60γ線 1Mrad (10kGy)を照射後、所定時間アクリル酸水溶液に浸す)によってアクリル酸をグラフト重合させた。反応溶液には重合禁止剤のモール塩を加えたものと加えないものの二種類を用いた。グラフト重合後のフィルムを、光学顕微鏡、X線マイクロアナリシス(EPM)、全反射赤外分光(ATR)、走査型電子顕微鏡(SEM)、X線光電子分光(ESCA)を用いて観察及び測定した。
 
 モール塩無添加の場合にはグラフト層はフィルムの外表面に生成した。グラフト率の増加とともにフィルム表面を球状物が覆い尽くし、ポリエチレンのラメラ構造が見えなくなるのが観察された。ATR測定を行ったところ、表面がグラフトポリアクリル酸で覆われていることがわかった。反応液にモール塩を添加しない場合にはグラフト部と未グラフト部の境界は明瞭である。重合の進行に伴ってフィルム全体の厚みは増してゆくが、未グラフト部の厚みは変化していない。他方、モール塩が添加された反応液中で重合させた場合には、重合禁止剤の作用により外表面ではグラフト重合は生じにくくなるため、グラフト層が内表面に生成する。そのためフィルム表面では、グラフト率の上昇に伴い若干平面性が低下してゆくのが見られるものの、ポリエチレンのラメラ構造が保たれる。また、ATR測定結果から、10数μmまでの表面にはポリエチレンとグラフトアクリル酸が共存していることがわかった(図1)。


図1 アクリル酸グラフト重合されたポリエチレンフィルムの断面 (a)モール塩無添加 (b)モール塩添加(原論文2より引用)

 連続気泡ポリエチレンフォームに電子線 5Mrad(50kGy)を照射し、アクリル酸をグラフト重合させた。モール塩添加反応溶液中で反応させることにより、フォームの気泡構造を破壊せずに親水化させることができた。グラフト重合は約15分で飽和に達し、最終的なグラフト率は反応液の濃度に依存する。表面グラフト化で、染色性、帯電防止性、ウイッキング特性が改善された。帯電電圧半減期は未照射ポリエチレンフォームが8000秒に対し、グラフト率50%で1秒まで短くなる(図2)。


図2 フォームにおけるグラフト率と表面電位半減期の関係:相対湿度60%(原論文2より引用)

 ポリエチレンフォーム及びEVAフォームに電子線あるいはγ線の照射を行い、ポリエチレンの架橋・分解に伴うフォーム物性の変化について測定した。測定した物性値は引張り強度、ゲル分率、及び寸法安定性である。また、ESRによってγ線照射フォームを加熱した場合のラジカル挙動を測定した。その結果、真空中で照射した後に真空中で130℃迄加熱したときに残るラジカル量は、照射直後の約30%であることが分かった。
 
 フォームに対して電子線照射を行い物性測定を行ったところ、その挙動は他の形態のポリエチレンと本質的に異ならないことがわかった。窒素中照射では強度に殆ど影響を与えないが、空気中照射では照射量が多い場合に強度が低下し、30Mrad (300kGy) の照射では20% 強度減少が見られた(図3)。窒素中照射試料は、処理温度が高い場合あるいは照射量が多い場合に、熱処理後強度が増加した。


図3 引張り強度と線量の関係:□は窒素雰囲気下で照射の場合、△は空気中で照射の場合、ともに測定温度は22℃(原論文1より引用)

 未照射フォームはすでに化学架橋が行われているため約50%のゲル分率を示すが、窒素中で 30Mrad の照射によりゲル分率が約30%増大した。また照射によって寸法安定性は大きく改善された。EVAフォームに関しても、多くの場合照射の効果はポリエチレンのフォームの場合と同様であった。
 
 熱処理に伴う物性の変化は、残存架橋剤による架橋の進行の影響ではなく、むしろポリエチレンの高次構造の変化によるものと考えられる。ポリエチレンの場合には熱処理によって結晶化が進行するために強度が上昇すると考えられる。他方EVAの場合には、照射試料も無照射試料もともに熱処理によって強度の低下が見られるが、この原因は高温で酢酸ビニル部分の相分離が生ずることによる影響が大きいと考えられる。

コメント    :
 ポリエチレンの放射線改質には多くの研究があり、照射製品も工業化されているが、ポリエチレンフォームの研究は少ない。この論文は吸収線量と物性との相関を定量的に示し、連続気泡フォームの気泡構造を破壊することなく改善することができるとしている。この技術を応用すれば、ポリエチレンフォームに難燃性、耐薬品製、抗菌性等の所望の機能を付与できるので、製品の付加価値を上げるために重要である。

原論文1 Data source 1:
ポリエチレン・フォームに対する放射線照射効果
湯 倍琳,梶 加名子,吉沢 巌,小原 長二,畑田 元義
中国原子能科学研究院,日本原子力研究所高崎研究所大阪支所,三和化工株式会社
JAERI-M 91-134

原論文2 Data source 2:
ポリエチレンフォームに対する放射線照射効果
梶 加名子
日本原子力研究所高崎研究所大阪支所
プラスチック加工技術、Vol.16,No.4,p9(1989)

キーワード:ポリエチレン、フォーム、グラフト重合、アクリル酸、親水化、ゲル分率、寸法安定性
polyethylene, foam, grafting, acrylic acid, hydrophilization, gel fraction, dimension stability
分類コード:010107, 010108, 010304

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