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作成: 1996/08/30 細渕 和成

データ番号   :010060
化粧品の放射線殺菌
目的      :放射線照射による化粧品の殺菌
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :コバルト-60
線量(率)   :5-25kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :品質管理、微生物制御

概要      :
 化粧品の微生物汚染の現状と対策方法について調べた。酵素原料1g当たり102から105レベルの汚染が認められた。また、原料を段階的に照射し、汚染微生物に殺菌効果を示す線量を調べたところ、5-10kGyの線量で十分な殺菌効果が得られた。

詳細説明    :
  
1.目的
 化粧品とは、人の身体を清潔にし、皮膚や毛髪をすこやかに保つためのものである。この化粧品が微生物で汚染している場合には、使用した部位(身体や皮膚)に対して悪影響を及ぼしかねない。また、品質面では有効成分の劣化による商品価値の低下をきたすこともある。このため、従来は、化粧品の殺菌には加熱処理が主に行われてきたが、加熱処理できない原料や製品が多くある。そこで、冷殺菌法である放射線殺菌が化粧品の殺菌に利用できるか否かの検討を行った。
 
2.検討事項
 検討事項としては、化粧品の微生物汚染の把握、汚染微生物の放射線抵抗性の測定、殺菌線量の検討、照射した化粧品の化学的変化の把握である。そして、これらの結果を基にして、化粧品に放射線殺菌を導入するための計画法を立案した。
 
3.化粧品の微生物汚染の把握
 化粧品の微生物の汚染源としては、原料、製造用水、包装容器、製造環境等が考えられる。特に、製造原料に天然由来の原料を使った場合には微生物汚染が高くなる。例えば、ジアスターゼ、リパーゼ、ブロメライン、パンクレアチンの汚染状況は1g当たり102〜105個の細菌が検出された。また、真菌数では101〜103個レベルの汚染が認められた。汚染菌の種類では、表1に示すように、いろいろな種類の微生物が検出された。特に、シュードモナスは製造用水が汚染源として考えられるため、製造用水の微生物学的管理が大切となる。

表1 化粧品原料から分離した汚染菌の種類
--------------------------------------------
細菌(グラム陽性)   真菌
  バシラス        アスペルギルス
  ブドウ球菌       ペニシリウム
  レンサ球菌       クラドスポリウム
  ミクロコッカス     アルテルナリア
  サルサイナ       ジオトリクム
細菌(グラム陰性)     リゾプス
  エシェリキェ    酵母
  プロテウス       カンジダ
  セラチア
  シュードモナス
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4.汚染微生物の放射線抵抗性
 化粧品分野における放射線照射に関する報告例は少ないのが現状である。過去に、眼製品関連の化粧品の微生物学的管理を目的とした研究で、製品に2kGyの線量を照射したところほとんどの汚染菌が死滅したとの報告がある。本研究において行った酵素類でも同じような結果が得られている。すなわち、酵素類に5-10kGyの線量を照射すると、汚染菌である細菌や真菌ともに102個以下に減菌することができた。
 
5.殺菌線量の検討
 化粧品の場合には滅菌レベルの線量は必要とされない。あくまでも、汚染している微生物数をある一定レベルまで減少させるのに必要な線量が要求される(むろん、病原微生物はすべて殺滅させなければならない)。この殺菌線量としては、10kGyの線量が妥当と考えられた。
 
6.照射した化粧品の化学変化
 照射した酵素活性の変化を乾燥減量、デンプン糖化力、タンパク消化力、脂肪消化力等の活性で調べた。この結果、10kGyの線量を照射した試料と未照射試料とでは、それぞれの活性に著しい変化が認めらず、照射によると考えられる酵素類の化学変化は確認できなかった。このように、個々の原料に関しては照射による化学的変化は少ないことが予想された。しかし、商品としての化粧品の面から見てみると、化粧品を照射すると、極わずかな臭いの発生や着色といった問題が残ってしまう。
 
7.化粧品への放射線殺菌の導入法
 化粧品分野の放射線殺菌の適用例は極わずかしか成功していない。このため、どのような計画を立て、導入を図ったらよいかの検討を行った。この結果、次の2段階によって進めることを推奨する。第一段階では、試料の規格試験を照射前、照射直後、経時的(有効期間2年間)に行うこと。未照射試料についても同様にして行い、保存条件の影響について調べること。未処理製品の汚染菌数を測定し、殺菌線量を決定すること。そして、第二段階では、試料を構成している個々の成分について照射を行い、粘性、比重、pHなどの物理試験を行うこと。さらに安全性試験を行い、すべてに合格していれば放射線殺菌の導入を図ること。

コメント    :
 タルク、デンプン、ゼラチン、ベントナイトなどの原料に関しての放射線殺菌の可能性は高い。しかし、化粧品そのものに放射線を適用した場合には、臭い、着色などの面で問題が生じる可能性が高い。また、実際に放射線殺菌を導入した場合には、化粧品は美しさをイメージする商品のため、消費者の理解を得ることや感性に訴えることも重要と考える。

原論文1 Data source 1:
医薬品・化粧品ならびに医療用具等の微生物汚染対策としての放射線の利用と現状
石関 忠一
国立衛生試験所 〒158東京都世田谷区上用賀1-18-1
Radioisotopes, Vol. 34, No.5. p.282 (1985)

原論文2 Data source 2:
放射線照射による医薬品・化粧品の微生物汚染防止に関する研究(55)
倉田 浩、石関 忠一、藤原 すみ子、宇田川 俊一、坂本 フミ、鈴木 明子、成田 紀子
国立衛生試験所 〒158東京都世田谷区上用賀1-18-1
原子力平和利用研究成果報告書、Vol.21, p.272 (1982)

原論文3 Data source 3:
Radiation Sterilization in the Cosmetic Industry,
Maher W.J., Dietz G.R.
Isomedix,Inc., Whippany, NJ, USA,
Cosmetics & Toiletries,Vol.96,No.3.p53 (1981)

原論文4 Data source 4:
Radiation Sterilization in the Cosmetic Industry Update 1982,
Dietz G.R., Maher W.J.
Isomedix,Inc., Whippany, NJ, USA,
Cosmetics & Toiletries, Vol.97, No.11. p.96 (1982)

原論文5 Data source 5:
Radiation Processing Technology for Cosmetics, a Report on a Canadian Study ,
Reid B.D., Wilson B.K.,
Nordion International Inc., P.O. Box 13500, 447 March Road, Kanata, Ontario, Canada,
Radiat. Phys. Chem., Vol.42, No.4-6. p.595 (1993)

参考資料1 Reference 1:
Preservation of Cosmetics,
Sharpell F., Manowitz M.
Givaudan Coporation, Clifton,NJ,USA,
Disinfection, Sterilization, and Preservation, 4th(Block SS ed),. p887, Lea & Febiger (1991)

キーワード:化粧品、殺菌、滅菌、微生物汚染、放射線利用
cosmetics, disinfection, sterilization, microbial contamination, radiation process
分類コード:010404,040204

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