放射線滅菌に使用される医療用包装材料の開発と要求される特性

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作成： 1996/10/04 関口　正之データ番号　　　：010057 放射線滅菌に使用される医療用包装材料の開発と要求される特性目的　　　　　　：医療用包装材料の開発と評価放射線の種別　　：ガンマ線放射線源　　　　：ガンマ線照射装置(2.96PBq) 線量（率）　　　：15 kGy, 20 kGy, 25 kGy, 3.33 Gy/min, 6.66 Gy/min, 13.32 Gy/min 照射条件　　　　：常温応用分野　　　　：医療用具、食品照射、包装材料、動物飼料概要　　　　　　：　医療用包装材料の種類、要求される特徴をまとめた。放射線滅菌用包装材料では、照射による材質変化が少なく、使用時までの無菌性の保持が必要とされる。さらに、シール強度や着色、有害物質生成などや、滅菌前のバイオバーデン(汚染菌数)管理は包装の密封の確実性及び無菌性、そして衛生安全性や商品性に影響を与える。医療用包装材に使用されるPE及びCCPフィルムの耐放射線性と開発における課題について解説した。詳細説明　　　　：　　　医療用具包装材料に対する基本的要件には、器具の確認が容易、滅菌工程を行えること、外界からの器具の保護と安定した保存、使用時までの滅菌性の保持を挙げることができる。しかし、基材の性能以外にも、シールの完全性や容易さ、開封時の再汚染の防止も重要な要素である。また、包装材料を構成する紙、プラスチックフィルム、接着剤、コート剤、印刷インキなどが接触する医療用具に影響を与えたり、受けたりしないこと、溶出物や硫化物などが許容レベル以下で衛生安全性が確保されていること、開封時に紙粉、プラスチック粉などの発生がないこと、滅菌前バイオバーデンが少ないことも要求される。放射線滅菌用としては、滅菌線量の照射による物理・化学的変化に伴う材質劣化が要求性能の許容限度内に収まることが求められる。表1に医療用具包装材料の構成と特徴を示す。表1　ディスポーザブル医療用具包装材料の構成、形態、特徴の概要（原論文1より引用） ------------------------------------------------------------------------ 包材構成と　　　　　特　　　　徴　　　　　減菌法　　　　用途（内容品）　　包装形態　 ------------------------------------------------------------------------ プラスチック　１．内容が見やすい　　　　ＥＯＧ　　　ダイアライザー, フィルムにテ　２．強度があり、重量物の　γ線　　　　注射用具,輸液セット, ープ挿入の背　　　包装に適す　　　　　　　　　　　　輸血セット,チューブ貼袋　　　　　３．取扱時水にぬれにくい　　　　　　　類,カテーテル類など４．Ｖ-ノッチ（切り込み）　　　　　　　　　による開封方法 ------------------------------------------------------------------------ プラスチック　１．内容が見やすい　　　　ＥＯＧ　　　ダイアライザー,縫合フィルムに耐　２．強度があり、重量物の　オートクレ　糸,血液回路,血液バッ水性テープ挿　　　包装に適す　　　　　　ーブ　　　　グ,各種手術用具など入の背貼袋３．取扱時水にぬれにくい　　　　　　　４．Ｖ-ノッチ（切り込み）　　　　　　　　　による開封方式 ------------------------------------------------------------------------ 紙又は特殊紙　１．紙粉の発生がほとんど　ＥＯＧ　　　特殊注射針,チューブ／プラスチッ　　　ない　　　　　　　　　γ線　　　　類,カテーテル類,セックフィルムの　２．耐水性が良い　　　　　オートクレ　ト類,各種手術用具なシール紙　　　３．Ｖ-ノッチ（切り込み）ーブ　　　　ど　　　　　　　　　はピールオープン方式 ------------------------------------------------------------------------ 紙又は特殊紙　１．ピールオープン方式　　ＥＯＧ　　　手術用手袋,各種手術／紙又は特殊　２．耐水性が良い　　　　　γ線　　　　用具など紙のシール紙　　　　　　　　 ------------------------------------------------------------------------ 紙又は特殊紙　１．ブリスター包装様式　　ＥＯＧ　　　注射針,翼状針,三方活／プラスチッ　２．ピールオープン方式　　γ線　　　　栓などクシートのブ　３．シートの種類は各種　　オートクレリスター包装　　　選択ができる　　　　　ーブ ------------------------------------------------------------------------ 　以上の中で、耐ピンホール性などの強度、紙繊維の脱落による汚染、内容品透視性などから透明性のあるフィルム包装(片側が紙構成も含む)が主流であり、かつフィルム包装も単体からなる2重包装形式から複合フィルムのシングル包装へ移行している。包装形態としては、パウチ(袋状)とブリスターに大別され、開封機能としては、Vーノッチ(切り込み)方式及びピールオープン方式が主流である。包装材料の規格は、国内では医療用プラスチック協会の“ディスポーザブル医療用具包装材料　自主規格　Ⅱ放射線滅菌用"、また国際規格(ISO11607)“最終滅菌される医療用具の包装"などがある。　　次に、腸線縫合糸と輸液セットの包装材料であるCPP／AL／PET複合フィルムとPEフィルムの物理化学的性質及び毒性試験に与える放射線の影響を調べた。適性線量(20kGy)を照射したPEフィルムの物理的特性の変化を表2に示す. 表2　Radiation influence on the physical characters of PE membrance.（原論文2より引用。　Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.42, Nos 4-6, p.637-639(1993), Tab.6(p.639), Z.Qichang, W.Qing, F.Junjie, J.Renhua and W. Jianying, Studies of Radiosterilization and Radiation Effect on Disposable Medical Products and Their Packing Materials, Copyright(1993), with permission from Elsevier Science.） ------------------------------------------------------------------- Item Unit Control Radiated(20 kGy) ------------------------------------------------------------------- Extended load MPa 23.2/20.7 21.4/19.5 (lengthwise/crosswise) Stretching rate of fracture % 552/575 542/568 (lengthwise/crosswise) Tearing load of right angle N/cm 842/882 827/863 (lengthwise/crosswise) ------------------------------------------------------------------- 　照射によるPEフィルムの引張強度、破断時伸度、直角での引裂強度の低下は認められず、いずれも国家基準を満たしていた。マウスによる5日間の毒性試験でも異常は認められず、解剖所見において内臓に病理学上のいかなる変化も認められなかった。但し、PEフィルムの場合、20kGyの照射で赤外吸収スペクトルの一部がわずかに変化しており、PEフィルムで包装されるPVC製輸液セットは、滅菌前バイオバーデンを管理し滅菌線量を約15kGyに抑える必要がある。照射したCPP／AL／PET複合フィルムの物理的特性も同様の結果を示した。一方,従来使用されていたPE／接着剤／ナイロンの層構成からなる複合フィルムは、PEが1)耐熱性が劣り、深絞り成型時の成形性が悪い、2)深絞り成形後に失透し、透明性が低下する、3)照射後著しく着色するなどの問題点を抱えており、ポリプロピレン(PP)を用いた耐放射線フィルムの開発を試みた。一般のPPは、照射により耐衝撃強度の低下が著しく、着色も生じる。そのため、PPの中でも材質劣化に関わるラジカルが動きやすく、再結合して安定化しやすい結晶性の低いエチレンープロピレンランダムコポリマー(RPP)及びブロックコポリマー(BPP)をCPP原料として選択した。表3に各種PPの耐放射線性及び物性を比較検討した結果を示す。表3　各種PPの耐放射線性及び物性比較（原論文3より引用） ----------------------------------------------- 　　項　目　　　ホモPP　ランダムPP　ブロックPP ----------------------------------------------- 　ＭＦＲ変化　　　×　　　 ○　　　　　 ◎ 　引張り強度　　　×　　　 ○　　　　　 ◎ 　引張り伸び　　　×　　　 ○　　　　　 ◎ 　耐衝撃強度　　　×　　　 △　　　　　 ◎ 　透　明　性　　　△　　　 ◎　　　　　 × ----------------------------------------------- 　このような特徴から、原料樹脂としては、ヒートシール層にヒートシール性の良いRPPを、耐熱層には表面凹凸のため透明性は悪いが、PP中最も放射線抵抗性の強いBPPを用いたCPP2種2層フィルムを基本構成とした。透明性については、RPP層及び外層ナイロンの積層で解決しており、また着色原因がフェノール系抗酸化剤の使用によることを明らかにした。さらに、樹脂の分子量分布制御(ビスブレーク処理)により低分子量分子を除去したり、Tダイ成形条件のうちチルロールの冷却を急冷条件として樹脂の非晶性部分を増加させることが耐放射線性の獲得手段として有効であることを報告した。コメント　　　　：　最近のディスポーザブル医療用具は、GMPに対応した衛生的な環境下で製造、管理されてきており、バイオバーデンも低減化の方向にある。医療用具の包装材料に付着した菌は当然医療用具に接触し、医療用具のバイオバーデンを高める要因となりうる。特に低バイオバーデンの医療用具では、包装材料の方が高いバイオバーデンを持つことも起こりうるため、包装材料のバイオバーデン管理には十分注意しなければならない。放射線滅菌用として用いる場合、包装材料は医療用具以上の耐放射線性を持つことが望ましい。そして、材質の健全性から評価した最大許容線量及び照射時の製品線量分布を考慮して、特定の滅菌線量での使用が可能であるかどうかを判断することが重要である。その意味で、20kGyという比較的低い線量での包装材料の物性試験だけでは不十分であるし、経時変化等の情報も蓄積する必要がある。放射線滅菌用包装材料として多様な医療用具を対象とするなら、より高い耐放射線性を持たす必要がある。　　また、耐放射線性については、PEの欠点を補うためCPPを対象にして、ポリマー中の非晶部分の寄与を考慮した材質設計と成形条件を中心に検討し一定の成果を得ている。なお、酸化防止剤やラジカル捕捉剤などの添加剤は、着色や対放射線性へ与える影響が大きいので、これらについての知見も重要である。原論文１ Data source 1：ディスポーザブル医療用具包装材料の安全性石井　述史*、松田　照夫** *日本医療用プラスチック協会包装材料自主規格小委員会(藤森工業(株)) **同上((株)トップ) 医器学,Voi.57, NO.1, p10(1987) 原論文２ Data source 2： Studies of Radiosterilization and Radiation Effect on Disposable Medical Products and Their Packing Materials, Z.Qichang, W.Qing, F.Junjie, J.Renhua and W. Jianying, Institute for Application of Atomic Energy, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hanghou 310021, P.R.China Radiat.Phys,Chem., Vol.42, Nos 4-6, p.637-639(1993) 原論文３ Data source 3：医療用包装材料の耐放射線性CPPフィルムの開発渡辺　和幸昭和電工(株)　大分研究所第2G PACKPIA, Vol,3, p60(1995) 参考資料１ Reference 1：各種ディスポーザブル医療用具の滅菌前の汚染菌数の測定, 佐藤　健二,田部井　雅枝東京都立アイソトープ総合研究所,〒158東京都世田谷区深沢2-11-1, 医科器械学雑誌,Vol.43, p400(1973) 参考資料２ Reference 2：第92回滅菌法研究会記録　ヨーロッパにおける病院の滅菌用包装材料の現状と品質について S.ソアールド SPS研究所、フランス医器学,Vol.61, No.3, p135(1991) 参考資料３ Reference 3： ISO/CEN/FDAの最新動向およびバクテリア・バリア試験方法について M.H.Scholla 米国デュポン社微生物部門担当医科器械学会、第108回　滅菌法研究会テキスト、平成7年7月14日参考資料４ Reference 4：ディスポーザブル医療用具包装材料自主規格　Ⅱ　放射線滅菌用日本医療用プラスチック協会昭和63年2月参考資料５ Reference 5： Packaging for Terminally Sterilized Medical Devices International Organization of Standardization ISO 11607 (1995) キーワード：包装材料、医療用具、放射線滅菌、バイオバーデン、放射線耐性, packaging materials,medical products,radiation sterilization, bioburden,radio-duarability 分類コード：010401, 010402
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