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作成: 1996/08/30 細渕 和成

データ番号   :010053
生薬の放射線殺菌
目的      :放射線照射による生薬の殺菌
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :コバルト-60
線量(率)   :10kGy
利用施設名   :日本アイソトープ協会甲賀研究所
照射条件    :空気中,室温
応用分野    :医薬品、品質管理、微生物制御

概要      :
 生薬の微生物汚染の現状と対策方法について調べた。生薬1g当たり10の3乗から6乗個レベルの微生物汚染が認められた。また、汚染菌の放射線抵抗性を調べ、10kGyの線量で十分殺菌できることがわかった。この線量では生薬の薬効の変化は少なかった。

詳細説明    :
 
1.目的
 生薬とは、草根木皮や動物臓器の一部及び分泌物などの天然から得られる素材を簡単に加工、調製して得られたものをいう。現在、わが国で使用されている生薬は300種類近くある。これらの生薬は天然由来のため、微生物汚染が認められる。そこで、生薬の汚染菌数レベルを下げ、生薬の品質確保を図るために、生薬に放射線殺菌が適用できるか否かの検討を行った。

2.検討事項
 検討事項としては、生薬の微生物汚染の現状の把握、汚染菌の放射線抵抗性の測定、殺菌線量の検討、照射した生薬の薬効変化である。

3.生薬の微生物汚染
 生薬の汚染細菌数は、チンピ、オーバク、ゲンチアナの生薬に多く認められ、生薬1g当たり10の6乗から5乗個レベルの生菌数が認められた。次に、汚染菌数の多い生薬としてはショウキョウ、カンゾウやセンナであり、10の5乗から4乗個レベルの生菌数が認められた。汚染菌の少ない生薬としては、シャクヤク、ブクリョウ、ニンジンであった。また、真菌の汚染も認められ、センナ、ケイヒ、カンゾウ、ショウキョウやボタンピでは1g当たり10の4乗から3乗個レベルの汚染が認められた。このように、生薬では比較的高い微生物汚染が認められ、微生物管理の重要性が再認識された。

4.汚染菌の放射線抵抗性
 カンゾウから分離した汚染菌の放射線抵抗性(D値)は、細菌では平均2.1kGyであり、真菌では平均1.0kGyであった。また、汚染菌以外の微生物のD値は、嫌気性の芽胞形成菌、好気性の芽胞形成菌、真菌、栄養型細菌の順で低くなっていた。特に、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌群、サルモネラ菌は放射線抵抗性が弱かった。

5.殺菌線量
 生薬の汚染菌数を医薬品で認められている微生物限度値以下に抑えることが必要である。このために必要な線量は、10kGyであった。なお、この線量は、食品照射で安全性が認められている安全線量である。

6.薬効変化
 カンゾウの薬効成分であるグリチルリチンの残存比と線量の関係を求めた。この結果を表1に示す。

表1 照射したカンゾウ中のグリチルリチンの残存比 (1)は木村捷二郎らのデータによる、(2)は倉田浩らのデータによる
----------------------------------
 線量   グリチルリチンの残存比
 (kGy) -----------------------
      (1)     (2)
----------------------------------
   1          -         1.00
   2        1.00          -
   5        0.99        0.93
  10        0.99        0.93
----------------------------------
 表から明らかなように、5-10kGyの線量でグリチルリチンの残存比は0.93から0.99となった。つまり、10kGyの線量の照射ではグリチルリチンの損失は7.0%以下であり、放射線による微生物汚染対策を目的とした線量をカンゾウに照射しても、カンゾウの有効成分であるグリチルリチンの損失割合は十分許容できる範囲であった。しかし、これはグリチルリチンに関するものであって、その他の成分については試験を行っていない。また、オウレンやオウバクについては、薬効成分であるベルベリンの損失を調べた。この結果、10kGyの線量を照射しても、ベルベリンの損失はほとんどないことがわかった。

7.照射による分解生成物と安全性
 本項目の事項の検討は行っていない。この理由としては、1)殺菌線量以下での有効成分の損失量は数パーセント以下であり分解生成物の量は極わずかであること、2)生薬では未知なものも含めて成分が多数混在しており、それぞれの分解生成物の同定が困難であること、などによるためである。将来的には、分析技術の進歩にともなって、上記の検討が行われるものと考えられる。

コメント    :
 わが国においては、医薬品の滅菌や殺菌を目的とした放射線利用は行われていない。この理由としては、照射した医薬品の安全性の問題があげられる。この安全性の問題が解決されない限り、生薬の放射線殺菌の導入は難しいものと考える。しかし、放射線殺菌は、生薬の薬効成分に与える影響が少ないため、生薬の微生物対策の有効な手段である。

原論文1 Data source 1:
ガンマ線照射法による生薬の微生物汚染対策の問題点
木村 捷二郎、越川 富比古*、泰松 明子
大阪薬科大学、〒569-11 大阪府高槻市奈佐原4-20-1、*(社)日本アイソトープ協会甲賀研究所、〒520-34 滋賀県甲賀郡甲賀町鳥居野121-19
防菌防黴,Vol.23,No.11,p691 (1995)

原論文2 Data source 2:
生薬原料の品質保証への放射線利用
木村 捷二郎
大阪薬科大学、〒569-11 大阪府高槻市奈佐原4-20-1
放射線と産業,No.67,p27 (1995)

原論文3 Data source 3:
放射線照射による医薬品、化粧品の微生物汚染防止に関する研究(54)
倉田 浩、石関 忠一、藤原 みち子、宇田川 俊一、坂部 フミ、鈴木 明子、成田 紀子
国立衛生試験所、〒158 東京都世田谷区上用賀1-18-1
原子力平和利用研究成果報告書、Vol.20,p254 (1981)

原論文4 Data source 4:
放射線照射による医薬品・化粧品の微生物汚染防止に関する研究
倉田 浩、石関 忠一、藤原 みち子、長沢 道男、秋山 善彦、藤田 鎌蔵、足立 正喜
国立衛生試験所、〒158 東京都世田谷区上用賀1-18-1
国立機関原子力試験研究成果報告書、Vol.24,p.65(4)-65(6) (1984)

参考資料1 Reference 1:
甘草の放射線殺菌
細渕 和成
東京都立アイソトープ総合研究所
東京都立アイソトープ総合研究所昭和59年度年報,p30 (1985)

キーワード:生薬、殺菌、滅菌、微生物汚染
medicinal herb, disinfection, sterilization, microbial contamination
分類コード:010404,040204

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