プレコート鋼板における電子線利用の現状

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作成： 1997/03/03 森　浩治データ番号　　　：010049 プレコート鋼板における電子線利用の現状目的　　　　　　：電子線を利用したプレコート鋼板の現状放射線の種別　　：電子放射線源　　　　：電子加速器線量（率）　　　：2-20Mrad (20-200kGy) 照射条件　　　　：窒素気流中、室温概要　　　　　　：　従来のプレコート鋼板の硬化システムは熱を利用したものであり、これらに対して電子線利用システムでの特徴を活かすことによって、熱硬化型塗料では得られない高鮮映性、高硬度、耐汚染性等の塗膜特性に優れた塗装鋼板、熱に弱いポリ塩化ビニルフィルムならびに高鮮映性のポリエステルフィルムをラミネートした鋼板、さらに、塗膜表面のみをグラフト重合を利用して改質した塩ビゾル鋼板が得られる。詳細説明　　　　：　　従来、鋼板などの金属材料に対する電子線の適用例は少なかったが、近年、プレコート鋼板への適用について検討がなされ、実用化に及んでいる。これらは、電子線利用技術の長所である　1)室温での硬化が可能であり、熱に弱いフィルムの接着が可能である、2)低分子量型樹脂の硬化が可能であることから、高架橋化により高鮮映性、高硬度、耐汚染性等の性能付与が可能であることを活かしたものである。一方、短所として、1)常温短時間硬化であるため樹脂硬化時の収縮による内部応力の残留が大きく密着性が得られにくい、2)フィルムの接着では熱硬化型接着剤のような熱融着・濡れに基づく接着性向上効果が期待できないことをも十分に認識して、技術的工夫の上、実用化されたものである。表1にEBCエリオ鋼板(No.5)の塗装性能を示す。表1　EBCエリオ鋼板(No.5)の塗装性能（原論文1より引用）評価項目　　　　　　試験方法 EB硬化ポリエステル　　熱硬化硬質　　　　アクリル光沢表面硬度　　　光沢計三菱”ユニ”鉛筆　　　　　85 　　　　　8H 　　　　　80 　　　　　4H 密着性煮沸点煮沸　2h 　　　100/100 　　　　　5 　　　100/100 　　　　　5 耐汚染性口紅色鉛筆マジックインキ（赤）カレーカラシ　　　　　　 24h 24h 24h 24h 24h 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　4 　　　　　　3 　　　　　　4 耐薬品性　塩酸（5%）カ性ソーダ（5%）トルエンメチルエチルケトンエタノール　 24h 24h 24h 24h 24h 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　 5 　　　　　　5 　　　　　　5 　　　　　　5 耐熱性光沢保持率(150℃、500h) 　　　　　　85 　　　　　60 　　熱硬化型塗料に比べて塗膜硬度、耐汚染性に優れた特徴を有する塗装鋼板であり、ホワイトボード用に使用されている。　　　筆者等は電子線硬化型接着剤を樹脂メーカーと共同開発して電子線接着 PET (2軸延伸ポリエチレンテレフタレート)フィルムラミネート鋼板を開発した。電子線接着 PET フィルムラミネート鋼板の製造プロセスはあらかじめプライマーおよびベースコートを設けた鋼板に電子線硬化型接着剤を塗布し、この上にPETフィルムを積層した後、電子線を照射するものである。PET フィルムを透過した電子線が接着剤を瞬時に硬化する。電子線量と接着性との関係を検討した結果、電子線量が5Mrad (50kGy, 1Mrad=10kGy)では接着剤の凝集破壊が発生し、20Mradでは接着剤とPETフィルムとの界面剥離が発生したが、10～15Mradでは高い接着強度が得られた。そして、電子線感受性、凝集力ならびに接着性が高いモノマーについて検討を加えた結果、接着剤膜厚10μm、線量5～10Mradで50μmのPETフィルムが破断する接着性を得ることができた。表2にEB接着PETラミネート鋼板の一般特性を示す。表2　EB接着PETラミネート鋼板の一般特性（原論文1より引用）評価項目試験方法 EB接着PET ラミネート鋼板加工用熱硬化型プレコート鋼板硬度光沢鮮映性 (D/I値) 一次物性　・ゴバン目　・ゴバン目エリクセン　・デュポン衝撃加工性　・T折曲げ　・＃エリクセン二次物性　・ゴバン目　・ゴバン目エリクセン　・デュポン衝撃耐汚染性　耐食性　耐摩耗性　　　　　　 JIS G3312鉛筆硬度試験 60度鏡面反射率 ASTM　E430 JIS G3312 6mm押出し 1/2インチ、1kg、50cm JIS G3312 180度折曲げ 8mm押出し沸騰水2時間浸積後 24時間放置油性マーカー塗布 24時間浸積後エタノール拭き JIS Z2371塩水噴霧試験 240hr後のフクレ、変色の状態テーバー指数　CS-10　摩耗輪、1kg、 1000回　　　HB～F 　105～110 　　90～95 　　　　　100/100 　100/100 　　　◎ OTノークラック　　　◎　　　　　100/100 　100/100 　　　◎ 　　　◎ 　　　　　　　　　◎ 　　　9.5 　　　　　　F～H 　　　85 　　　20 　100/100 　100/100 　　　◎ 2Tノークラック　　　◎ 　　　100/100 　100/100 　　　◎ 　　　△ 　　　　　　　　　◎ 　　　19 　　　　　　従来の加工用熱硬化型プレコート鋼板に比べて、鮮映性、光沢に優れた表面外観を有し、また、加工性、耐汚染性などにも優れた性能を有する。　次に塩ビゾル鋼板の表面改質について検討を行った。塩ビゾル鋼板はソフトな外観ならびに優れた成形加工性を有するが可塑剤が塗膜表面にブリードすることから耐汚染性が劣る欠点がある。この塩ビゾル鋼板にモノマーを含浸させて電子線を照射すると、塩ビ樹脂にモノマーが電子線グラフト重合することが分かった。そこで、モノマー種依存性について検討した結果、モノマーの溶解度パラメーターδが大きいほど、すなわち塩ビ塗膜のδとの差が大きくなり、見かけのグラフト量は減少した。一方、モノマーのδが大きいほど、重合体であるグラフト鎖は可塑剤との相溶性が低下することから、塩ビ塗膜内表層の可塑剤の表面移行を抑制することが分かった。図1に表面改質塩ビ鋼板の断面写真を示す。図1　表面改質塩ビ鋼板の断面写真（原論文1より引用）　表面改質塩ビ鋼板では塩ビ塗膜表層にあるグラフト層中において可塑剤の移動が抑制される。ここで塩ビ鋼板の耐汚染性が劣る原因は表面に移行した可塑剤が汚染因子を溶解し内部に移行して、取り込むためである。表面改質塩ビ鋼板では可塑剤の表面移行が抑制されていることから、油性マーキングペンによる汚染性試験をはじめ、各種汚染物質(口紅、靴墨、ソース、醤油、ケチャップなど)に対しても優れた耐汚染性を示す。　電子線硬化方式は従来の熱硬化方式に比べ、エネルギー効率に優れ、室温短時間硬化、無溶剤、省スペースなどの特長があるが、接着性、塗装性など熱硬化方式に比べて劣る点も多い。今後は電子線硬化方式と熱硬化方式の長所をうまく活かせるような複合化させた新技術の開発が必要である。コメント　　　　：　鋼板は熱に強い基材であることから、電子線の適用例が少ない。これは従来の熱を利用したプロセスを電子線に置き換えるだけでは特に優位性が見出せないためである。本報告では従来の熱プロセスでは得られない高硬度、高鮮映性、耐汚染性を有するプレコート鋼板を電子線利用プロセスで実用化している。原論文１ Data source 1：プレコート鋼板における電子線利用の現状輿石　謙二日新製鋼㈱鉄鋼研究所コンバーテック,vol.11.p47(1991) キーワード：プレコート鋼板、電子線、硬化、接着、グラフト重合 precoated steels, electron beam, curing,adhesion, graft-polymerization 分類コード：010302,010303,010304
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