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作成: 1997/03/18 佐々木 隆

データ番号   :010048
EB硬化型シリコーン剥離剤
目的      :電子線硬化型シリコーンの開発と剥離紙への応用
放射線の種別  :電子
放射線源    :低エネルギー電子加速器
線量(率)   :10-100KGy
照射条件    :室温
応用分野    :工程紙, 粘着剤

概要      :
 グラシン紙に各種シリコーンとエポキシエステルアクリレートオリゴマーの混合物を塗布して低エネルギー電子線で硬化させた。グラシン紙の機械強度は線量の増加と共に低下した。また剥離力は100kGyまでの線量増加と共にゆるやかに上昇する傾向があり、剥離剤の酸化反応を示唆している。塗工量を0.01%として10〜50KGyの線量を照射すると熱硬化法と同程度の剥離性能が得られた。

詳細説明    :
  
 剥離加工基材は、ポリエチレン, ポリエステル, グラシン紙, 上質紙などが一般的である。本報告では、グラシン紙にエポキシエステルアクリレート(EEA)と各種シリコーンの混合液を塗布して、低エネルギー電子線で硬化させ各種性能を検討した。加速電圧200kVでグラシン紙に電子線照射すると、引張強度は100kGyで約30%低下した(図)。


図1 グラシン紙の引張強度の変化(原論文1より引用)

 また引裂強度も低下しており、シリコーン混合液は速硬化性タイプを選択する必要がある。なお剥離性能は、接着剤の濡れを小さくする程、向上するとされており、シリコーン混合液の水滴接触角を測定した。エポキシ基含有ポリシロキサンをEEAに対して2〜5%添加した際に、接触角が90度と最大値を示した。従ってその範囲で剥離性能が最良になると予測してEEAに各種シリコーンを5%添加して照射線量と剥離力の関係を検討した結果を図2に示す。


図2 線量と剥離特性(原論文1より引用)

 片末端反応性シリコーン混合液とエポキシ基含有ポリシロキサン混合液はいずれも線量と共に剥離力が徐々に増大する傾向を示した。その傾きは、後者の方が大きく、照射時の酸化反応に起因にするものと推察した。前者の混合液について、電子線照射中の酸素濃度と剥離力との関係を調べたところ、酸素濃度が300ppm以内では、剥離力に有意差が認められなかった。さらに両混合液について、塗工量と剥離力の関係を検討した結果、0.01〜0.02%の範囲で剥離力が最小値を示し、ほぼ一定であった。EEAに各種シリコーンを5%混合して、0.01%を塗工した試料に10〜50kGyの電子線を照射したときの剥離力を表1に示す。

表1 エポキシエステルアクリレートにシリコーン, 混合物の剥離特性(原論文1より引用)

記号 混合比
%
 剥 離 力 kg/25mm
 10kGy  30kGy 50kGy
Si-1
Si-2
Si-3
Si-4
5
5
5
5
0.008
0.022
0.004
0.010
0.010
0.004
0.005
0.003
0.011
0.005
0.013
0.004
塗工量:0.010kg/m2
 この線量域ではいずれの混合液も熱硬化法による剥離力と同程度の値を示し、実用可能と判断した。参考資料1に報告されている20kGy以上で硬化するアクリルシリコーンも上市されている。反応未端がアクリロイル基となっているシリコーンが最も硬化性が高く、その含有量をコントロールすると剥離力を任意に変えることが出来る。また重剥離タイプと軽剥離タイプのシリコーンの剥離速度依存性を検討した結果、後者の方が大きく依存することが分かった。なお、前者の剥離力は1100gf/5cmで後者のそれは40gf/5cmである。また電子線照射に用いた装置は加速電圧が165kVの低エネルギー電子加速器である。

コメント    :
 剥離紙は、シリコーン液を極めて薄く塗布して作製される。よって電子線法の場合、低エネルギー電子加速器が多用される。しかし、基材にグラシン紙を用いると機械強度の低下が生じる為、シリコーン液は20kGy以下の線量で硬化するような設計が望ましい。

原論文1 Data source 1:
低エネルギー電子線による剥離紙加工
榎本 一郎、飴谷 和夫、沢井 健
東京都アイソトープ総研
東京都立アイソトープ総合研究所年報、1988, p.4-6 (1988)

原論文2 Data source 2:
電子線硬化型剥離紙用シリコーン
信越化学工業(株)シリコーン事業本部、〒100東京都千代田区大手町2-6-1
Polyfile, No.12, p.36(1994)

原論文3 Data source 3:
Strahlenhartbare Siliconacrylate fur Trennbeschichtungen.
Dr.Peter Lersch, Dr.Thomas Ebbrecht, Dr.Dietmar Wewers.
Coating, vol. 2, pp. 44-47 (1993)

キーワード:シリコーン、低エネルギー電子加速器、グラシン紙、剥離力
silicone, Low-energy eletron accelerators, glassine paper, peel strength
分類コード:010303

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