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作成: 1997/02/01 佐々木 隆

データ番号   :010045
電子線硬化によるプラスチックシートの印刷
目的      :プラスチックシートの印刷工程の簡略化
放射線の種別  :電子
放射線源    :リニアフィラメント型電子加速器(175keV、300mA)
線量(率)   :30-60kGy
利用施設名   :光村原色版印刷所
照射条件    :窒素気流中、室温
応用分野    :プラスチック印刷、意匠文具ケース

概要      :
 従来、紫外線(UV)によってポリプロピレン(PP)シートへのオフセット印刷を行っていた光村原色版印刷所は、製品の付加価値、生産効率をさらに向上させるため、電子線(EB)硬化による印刷方式を導入した。EB硬化では、コロナ処理PPにプライマーコートなしで直接EB硬化型インクをオフセット印刷、照射によって密着性の良い印刷面を得た。

詳細説明    :
  
 EBの工業的利用は高分子材料の橋かけ改質に始まり、塗料、インク、接着剤などの硬化反応への利用も次第に進展しつつある。これは、装置面でこの分野に用いるEB加速器は一般に低エネルギー型でエックス線に対して自己遮蔽が容易であり、従来の走査型に加えて、リニアフィラメント型、イオン衝撃型など形式が多様化するとともに、装置が小型化されたことによる。また、樹脂系に溶剤を用いないので、EB硬化システムの利点は、省エネルギー、低公害、省スペース、高生産性、常温硬化とに集約できる。常温硬化は熱変形するプラスチックの処理には最適である。このような理由から、従来UVによってPPシートへのオフセット印刷を行っていた光村印刷はEB硬化システムを導入した。
  
 設置した加速器はESI(エナージ・サイエンス)社のリニアフィラメント型でオフセット印刷機に直結されている。硬化システムの概要を図1に示す。


図1  エレクトロカーテンEPZ−2型(原論文1より引用)

 加速器はコンベア走行方向に直角に2本のフィラメント及び2個の窓(照射巾1050mm)があり、最大加速電圧175kV(実働160kV), 最大電流300mAである。EB硬化型インクはラジカル重合で硬化するのでシート導入部、窓部の4つの部分から窒素ガスを約100m3/hrで流している。コンベアはステンレス製で、シートの上下動を防ぐため減圧にする構造になっている。
 UV硬化システムとEB硬化システムとの印刷工程の違いを図2に示す。


図2  PPシートにおけるUV・EB印刷の違い(原論文1より引用)

 図に示したように、EB硬化システムではUV硬化システムのようなプライマーコートや、印刷インキ上のオーバープリント(OP)コートが必要ない。これは、電子線照射によって、PPが直接活性化され、ラジカルを生成するため、ラジカル重合型のインクがPPの表面に化学結合し、密着性を向上させるためと考えられる。PPは放射線照射後、酸素との接触により、ラジカルと酸素が反応して酸化劣化するが、このような印刷プロセスでは、表面がインク層で覆われているため、酸化劣化は無い。

原論文1 Data source 1:
印刷へのEB硬化の応用
辻 明成
光村原色版印刷所
放射線と産業、41巻、21(1988)

原論文2 Data source 2:
枚葉印刷機における電子線硬化システムの利用
辻 明成
光村原色版印刷所
Polyfile(ポリファイル),1987No.2,p34(1987)

原論文3 Data source 3:
電子線硬化システムによる枚葉オフセット印刷
辻 明成
光村原色版印刷所
コンバーテック、1987,No.2,p67(1987)

キーワード:電子線硬化、オフセット印刷、枚葉印刷、ポリプロピレン
EB curing, offset printing, sheet-fed printing, polypropylene
分類コード:010107, 010301

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