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作成: 1997/03/31 佐々木 隆

データ番号   :010043
EB硬化型ラミネート用接着剤
目的      :食品包装用材料の製造プロセスにおける無溶剤化と高速簡略化
放射線の種別  :電子
利用施設名   :大日本インキ
照射条件    :室温、(不活性ガス中)
応用分野    :食品包装用フィルム材料の製造

概要      :
 末端にイソシアネート基(-NCO)あるいは水酸基(-OH)をそれぞれもつ2種のアクリレートプレポリマーからなる2液型の無溶剤ラミネート用接着剤を開発した。この接着剤系はホットメルト形式で塗布され、EB照射でアクリロイル基の硬化が進むと同時にイソシアネート基と水酸基の反応が接着力の向上に寄与する。EB照射直後に、スリット加工などの後加工が可能である。

詳細説明    :
 
 現行の食品包装用ラミネートフィルムの製造には、溶剤型と無溶剤型の加熱硬化型接着剤が用いられている。硬化反応はイソシアネート基によるもので、十分な接着強度を得るために、ラミネート処理後、加温状態でのエージング工程が必要である。エージング工程は数日を要することもあり、一定幅に切るスリッティング加工や製袋加工が大幅に遅れる。ラミネートフィルム製造における生産性向上、納期短縮を目的として、室温で瞬間硬化するEB硬化型接着剤を開発した。開発した接着剤は、主剤と硬化剤とからなる2液型でともにEB硬化し、さらにイソシアネート硬化する複合硬化(hybrid cure)あるいは二段硬化(dual cure)システムである。すなわち、主剤は両末端にアクリロイル基とイソシアネート基(-NCO)をもち、また、硬化剤は両末端にアクリロイル基と水酸基を持っている。開発したEB接着剤システムにラミネーション加工と従来法のそれとを比較して図1に示す。


図1 ラミネーション工程および後加工工程(原論文1より引用)

 この接着剤システムの開発では次のような検討を行った。骨格部をポリエステルまたはポリエーテルとして、アクリロイル基とイソシアネート基あるいはアクリロイル基と水酸基の割合が異なる主剤と硬化剤を合成し、種々の配合物を調製した。これらの配合物について硬化皮膜のガラス転移温度(Tg)、 破断伸度、破断強度、引張弾性率を測定するとともに、OPP/CPP (1軸延伸ポリプロピレン/2軸延伸PP)ラミネートのT型剥離強度、ヒートシール強度を評価した。結果を表 1に示す。これらの結果から、次のことが結論された。
 
1)剥離強度は破断伸度とともに増大する。2)剥離強度、破断伸度は二重結合による架橋では、限界値があり、NCO 架橋により増大する。3)ヒートシール強度も剥離強度と同様の傾向を示す。4)NCO 基と水酸基はほぼ等量のとき剥離強度、ヒートシール強度が大きい。さらに、4)項に合致する配合物 (表1のA4、A6)についてアルミ箔ラミネートを作製し、180度剥離強度、破断強度の温度依存性を測定した結果、測定温度がTg近傍で極大値を示した。このことから、接着剤のTgを流通過程の温度付近に設定すべきであると結論された。

表1 配合組成と測定結果(原論文1より引用)
サン
プル
     
C=C
濃度
mmol/g
NCO
濃度
mmol/g
OH
濃度
mmol/g
 剥離
 強度
g/15mm
ヒート
シール kg/15mm
Tg
   
 ℃  
破断
伸度
%
破断
強度 kg/cm
引張
弾性率
kg/cm2
A1
A2
A3
A4
A5
A6
A7
A8
A9
0.6
0.8
0.6
0.6
0.6
1.1
0.8
0.4
0.2
0
0
0.2
0.4
0.7
0.4
0.4
0.4
0.4
0.9
0.7
 0.55
 0.45
0.4
0.3
0.4
0.7
0.9
 50
 30
115
120
120
 95
100
 70
 50
1.1
1.3
2.0
2.1
2.2
2.2
2.1
1.5
1.4
 9.0
13.0
 7.1
10.3
18.3
21.3
15.4
-5.0
-
 90
 65
216
292
223
168
256
120
-
 19
 85
 77
115
183
190
130
60
-
 21
156
133
126
272
322
244
 57
-
 このような検討結果に基づき、DICBEAM QA100とQA300 の2種類のEB硬化型ラミネート用接着剤を開発した。ともに、一般用に使用できるが、QA300 はボイル・レトルト用にも対応できる。これらの接着剤は常温で20,000 cps程度の高粘度液体であるため、実際に均一かつ薄く(1〜3 g/m2)塗工するためには、70〜80度C に加温する必要がある。この接着システムには2液定量(主剤3/硬化剤1)混合供給装置を付したコーターラミネーターを使用する。コーター部はゴム、金属、ゴムの順の 5本ロールで、金属ロールは、高周波電磁誘導方式または温水循環方式で、加温できるようにしてある。EB照射装置は加速電圧150〜300kVの低エネルギー電子加速器を用いる。照射直後のラミネートフィルムでは剥離強度は最大値に達していないが、直ちにスリッティング加工しても、ロールがたけの子のようにずれていくテレースコープ現象は生じない。表2 に新規開発の接着剤システムと現行のシステムとを比較して示す。

表2 EBラミネートシステム(DICBR QA)と現行システムの比較(原論文1より引用)
        DICBEAM QA 現行
溶剤型 無溶剤型
硬化システム



不揮発分

エージング
(ラミネート後の熟成)
ラミネート強度
シール阻害 
EB硬化
および
イソシアネート
硬化
のデュアルキュア
100%
(無溶剤)

不要
イソシアネート
硬化



40〜90%


 イソシアネート
硬化



100%
(無溶剤)



コメント    :
 ラミネート加工は紫外線照射では達成できないケースが多く、EB照射加工に適したプロセスであると思われる。この意味で、この接着剤は注目すべきである。しかし、イソシアネート基は水分と反応するので樹脂のポットライフが短いのが、プロセス管理上の大きな問題となるであろう。

原論文1 Data source 1:
EB硬化型ラミネート用接着剤
小林 正秀
大日本インキ化学工業 グラフィック関連開発研究本部
機能材料、Vol.12, No.8, 23(1992)

キーワード:EB硬化、イソシアネート硬化、ラミネーション、食品包装フィルム、官能性アクリレートオリゴマー
EB curing, isocyanate curing, lamination, food packaging films, functional acrylate oligomer
分類コード:010102,010303

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