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作成: 1997/01/05 斎藤 恭一

データ番号   :010042
ブロック共重合体をガンマ線架橋して作成した荷電モザイク膜
目的      :三ブロック共重合体をフィルム成形して放射線架橋後,荷電モザイク膜を作成
放射線の種別  :ガンマ線
線量(率)   :100kGy程度
応用分野    :脱塩、生化学物質や食品添加物の精製

概要      :
 スチレンーブタジエンー4-ビニルピリジンの三元ブロック共重合体を逐次アニオン重合法によって作成し、キャストしてフィルムに成形した。つぎに、ポリブタジエン部分の二重結合を利用してガンマ線架橋した。さらに、ポリ4-ビニルピリジン部の四級化そしてポリスチレン部のスルホン酸化によって荷電モザイク膜を作った。荷電モザイク膜の塩化カリウムの透過流束は、2.10 x10-8mol/(cm2s)であった。

詳細説明    :
 
 アニオン交換部とカチオン交換部が並行配列した膜が荷電モザイク膜である。低分子量の非電解質を通さずに塩をよく通すために、水の脱塩や、生化学物質、食品添加物の精製に利用できる。高密度なカチオン交換部とアニオン交換部の幅がそれぞれできるだけ狭く、また、全体に均一に分布していることが好ましい。本研究では、スチレンーブタジエンー4-ビニルピリジンの3元ブロック共重合体を作成した後、放射線架橋さらにはイオン交換基の導入を行った。また、作成した膜の分離特性を議論する。

1.三元ブロック共重合体の作成
 スチレンーブタジエンー4-ビニルピリジン(SBP)の三元ブロック共重合体を逐次アニオン重合法によって作成した。スチレン、ブタジエン、4-ビニルピリジンの順に重合させた。収率は95%を超えた。得られた三元ブロック共重合体の物性として、粘性、ゲルパーミエーションクロマト(GPC)、電子顕微鏡観察、赤外吸収(IR)スペクトルを測定した。SBPの三元ブロック共重合体フィルムを電子顕微鏡で観察した結果、3層からなるラメラ構造が観察された(図1)。


図1  Electron micrograph of triblock copolymer.(原論文1より引用。 Reproduced from J. Polymer Sci., Part B, Polymer Physics, Vol. 31, 1075-1081(1993), Fig.3(p.1078), Liang, L., Ying, S., Charge-mosaic membrane from gamma-irradiated poly(styrene- butadiene- 4-vinylpyridine) triblock copolymer; Copyright(1993), by permission of John Wiley & Sons, Inc., All Rights Reserved.)


2.ガンマ線架橋とイオン交換基導入による荷電モザイク膜の作成
 三元ブロック共重合体をブチルアルデヒドとクロロホルムの混合溶媒に溶解させたのち、テフロン板上へキャストし、溶媒を蒸発させて、約80ミクロンの厚さのフィルムを作成した。つぎに、ポリブタジエン部分の二重結合を利用してガンマ線架橋した。さらに、つぎの3つの反応を行った。(1)ポリ4-ビニルピリジン部の四級化、(2) ポリスチレン部のスルホン酸化、(3)ナトリウム型への変換。
  
 ガンマ線架橋によって、ポリスチレン部でもポリビニルピリジン部でも架橋が起こりうるし、また、四級化やスルホン酸化反応でも架橋が起こりうるので、上記の反応によって作成された膜は架橋がかなり進んでいる。 IRスペクトルから、ブタジエン部の二重結合がガンマ線照射によって消失したこと、四級アンモニウム塩基とスルホン酸基が導入されたことが確認された。
  
3.膜の塩透過性能
 作成した荷電モザイク膜をセル(各容積24mL)に挟んで、導電度を測定した。同様の装置を使って塩化カリウムの透過流束を算出した。カチオン交換基密度Qcに対するアニオン交換基密度Qaの比(Qa/Qc)と、含水率、導電率および膜電位との関係を調べた。Qa/Qcが増加すると、膜電位が減少し、一方、導電率と含水率は増加した。理想値Qa/Qc=1にすることが本研究ではできなかった。
 アニオン交換膜、カチオン交換膜、荷電モザイク膜という3種の膜を使って、塩化カリウムの透析をそれぞれ行った。荷電モザイク膜を挟んで、一方のセルに0.1M塩化カリウム水溶液、もう一方のセルに0.001M塩化カリウム水溶液を入れたときに、透過流束は、2.10 x10-8mol/(cm2s)と得られた(図2)。


図2  Salt fluxes of ion-exchange membranes.(原論文1より引用。 Reproduced from J. Polymer Sci., Part B, Polymer Physics, Vol. 31, 1075-1081(1993), Fig.11(p.1080), by permission of John Wiley & Sons, Inc.)

 従来のアニオン交換膜、カチオン交換膜のそれぞれの透過流束、7.9 x10-10、4.8 x10-10mol/(cm2s)に比べて大きな値であった。

コメント    :
 荷電モザイク膜の作成法には、この研究のように三元ブロック共重合体からカチオン交換基とアニオン交換基を導入する方法と、フィルムの上に縞状マスクをのせて照射後、片方のイオン交換基をもつモノマーをグラフト重合後、さらにマスクをずらして同様にもう一方のイオン交換基をもつモノマーをグラフト重合する方法もある。いずれの方法でも、フィルムに交互にカチオン交換部とアニオン交換部を並べるには相当の工夫が必要である。そのコストに見合うモザイク膜の用途が見つかっていないのが現状である。
  
 本研究で作成された荷電モザイク膜の塩透過性能の評価には塩化カリウム水溶液のみが使われている。今後、混合溶質を用いて選択性の評価試験が必要である。

原論文1 Data source 1:
Charge-mosaic membrane from gamma-irradiated poly(styrene-butadiene-4-vinylpyridine) triblock copolymer
Liang, L., Ying, S.
Institute of Materials Science and Engineering, East China University of Chemical Technology, 130 Meilong Road, Shanghai, Republic of China
J. Polymer Sci., Part B, Polymer Physics, Vol. 31, 1075-1081(1993)

キーワード:ブロック共重合体、ポリ(スチレンーブタジエンー4-ビニルピリジン)、ガンマ線照射、架橋、荷電モザイク膜
block copolymer, poly(styrene-butadiene-4-vinylpyridine), gamma-irradiation, crosslinking, charge-mosaic membrane
分類コード:010201

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