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作成: 1996/12/27 斎藤 恭一

データ番号   :010040
放射線グラフト重合法で作成した電気透析用イオン交換膜
目的      :強酸性カチオンおよび強塩基性アニオン交換膜の簡便な作成法の開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(1.5MeV, 1mA)
線量(率)   :200kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :窒素中、室温
応用分野    :脱塩、水処理、電池膜

概要      :
 非多孔性ポリエチレンフィルム(厚み50ミクロン)に、電子線を照射した後、2つのモノマーの混合液中に浸して共グラフト重合反応を行い、電気透析用のスルホン酸基を有するカチオン交換膜およびトリメチルアンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を作成した。市販のイオン交換膜に比べて、作成が容易で、作成された膜の電気抵抗は1桁低い値を示した。塩化ナトリウム水溶液を使って脱塩性能を比較した。従来のイオン交換膜を用いたときの脱塩時間(99.5%脱塩に要する時間)を85%まで低減できた。

詳細説明    :
 
 従来型イオン交換膜は、ジビニルベンゼンを架橋剤にしてスチレンを重合し、補強材料を使ってフィルムに成形した後、イオン交換基を導入して作成される。架橋剤の割合が多いとイオン交換基密度が低くなったり、また、補強材料があるために電気抵抗が増すという欠点がある。
  
 放射線グラフト重合法を適用して、ポリエチレンフィルムに、イオン交換基をもつモノマーを重合させることによって、補強材料を用いずに、しかも容易にイオン交換膜を作成することができる。本研究では、放射線前照射グラフト重合法によって電気透析用イオン交換膜を作成し、その脱塩性能を塩化ナトリウム水溶液を使って評価した。比較のため、従来型イオン交換膜も同様に評価した。
  
1.共グラフト重合法によるイオン交換膜の作成
 市販の高密度ポリエチレン(PE)フィルム(厚さ50ミクロン、大きさ5cm四方)に電子線を照射した(200kGy)。その後、照射フィルムを、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)とアクリル酸(AAc)の混合液(濃度は共に1.0Mで、溶媒は水)、またはビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)と2-ヒドロキシエチルメタクリル酸(HEMA)の混合液(濃度はそれぞれ0.6M,1.2Mで、溶媒はメタノールとジメチルホルムアミド)に浸して、所定時間(12hまで)反応させた(図1)。


図1 Preparation scheme of ion-exchange membrane by radiation-induced cografting.(原論文1より引用。 Reproduced from Tsuneda, S, Saito, K., Mitsuhara, H., Sugo, T.: Novel ion-exchange membranes for electrodialysis prepared by radiation-induced graft polmerization, J. Electrochem. Soc., Vol.142, 3659-3663(1995), Fig.1(p.3660), by kind permission of the Electrochemical Society, Inc. )

 SSS、VBTACはそれぞれスルホン酸基、第四級アンモニウム塩基をもつモノマーであり、PEフィルムへのグラフト重合によりカチオン交換、アニオン交換膜を作成できる。作成された膜をそれぞれ、CEM(X)、AEM(X)と名付けた。ここで、Xは反応時間を示す。また、AAc、HEMAは重合しやすく、フィルムを親水化させることによって、SSSやVBTACがフィルム内部まで浸透して重合するのを助ける役割をはたす。
  
2.イオン交換膜の物性
 作成したイオン交換膜のイオン交換密度、膜厚、含水率および電気抵抗を測定した。CEM(12)、AEM(12)のイオン交換基密度は、それぞれ2.5,1.3mol/kgに達した。膜厚はそれぞれ82、65ミクロンに増加した。スチレンージビニルベンゼンをベースにした従来型カチオンおよびアニオン交換膜のイオン交換密度0.28,0.25mol/kgに比べて高い値である。
  
 0.5M塩化ナトリウム水溶液中で電気抵抗を測定した。電気抵抗値は、CEM(X)の場合、反応時間X=2h以上で電気抵抗は0.25オームcm2の一定値に減少した。AEM(X)の場合,反応時間の増加とともに電気抵抗は減少し、反応時間X=12hで、0.85オームcm2に減少した。従来型カチオンおよびアニオン交換膜のそれぞれの電気抵抗2.28、4.19オームcm2に比べて低く、有利である。X線マイクロアナライザーを使って、膜厚方向のナトリウムおよび塩素の分布を調べると、反応時間が2時間以上なら、それぞれが均一に導入されていることがわかった。イオン交換基をもつグラフト鎖が重合により膜内部まで侵入したことによって電気抵抗が急減したことが説明できた。
  
3.脱塩性能
 作成したカチオン交換膜CEM(X)とアニオン交換膜AEM(X)を組合せて、初期濃度0.5M塩化ナトリウム水溶液の電気透析による脱塩実験を行った(図2)。


図2 Schematic diagram of the electrodialysis apparatus.(原論文1より引用。 Reproduced from Tsuneda, S, Saito, K., Mitsuhara, H., Sugo, T.: Novel ion-exchange membranes for electrodialysis prepared by radiation-induced graft polmerization, J. Electrochem. Soc., Vol.142, 3659-3663(1995), Fig.2(p.3661), by kind permission of the Electrochemical Society, Inc. )

 濃縮側液には5%硫酸ナトリウム液を用いた。初期濃度の導電率が、99.5%脱塩されたときの導電率250マイクロS/cmまでに低下する時間を、いろいろな膜(CEM(X)とAEM(X))の組合せで比較した。まず、CEM(2)とAEM(X=2〜12)との組合せでは、AEM(X)のXが大きいほど、脱塩時間が短縮された。CEM(2)とAEM(12)との組合せでは、従来型イオン交換膜の組合せと比較して、脱塩時間は15%短縮された(33分から28分)(図3)。


図3 Conductivity of NaCl solution as a function of desalination time.(原論文1より引用。 Reproduced from Tsuneda, S, Saito, K., Mitsuhara, H., Sugo, T.: Novel ion-exchange membranes for electrodialysis prepared by radiation-induced graft polmerization, J. Electrochem. Soc., Vol.142, 3659-3663(1995), Fig.7(p.3663), by kind permission of the Electrochemical Society, Inc. )

 つぎに、CEM(12)とAEM(X=2〜12)との組合せでは、どの組合せでも、99.5%の脱塩を達成できなかった。これは、CEM(12)は含水率が高いことから、脱塩実験の後半では、濃縮液側から希釈液側への濃度勾配による輸送分の寄与が、希釈液側から濃縮液側への電位勾配による輸送分に比べて無視できなくなるためである。

コメント    :
 イオン交換膜の作成法として、放射線前照射グラフト重合法を提案している。これまで、強酸性カチオン交換基であるスルホン酸基、あるいは強塩基性アニオン交換基である第四級アンモニウム塩基をポリスチレン基体に導入するには、過酷な反応条件での反応が必要であった。現在では、イオン交換基をもつモノマーが開発されているので、グラフト重合が容易になった。しかしながら、ポリエチレンが疎水性であるので、こうしたモノマーの重合が進みにくい。そこで、重合の先導役として、ポリエチレンと反応しやすいアクリル酸や2-ヒドロキシエチルメタクリル酸を共グラフト重合させる点に工夫をしている。
  
 対象溶液によって、例えば、水溶液か有機溶媒か、イオン強度が低いか高いかによって、イオン交換膜は膨潤したり収縮したりする。透析操作では平膜間の距離をできるだけ短くして重ねて張ることになるので、膨潤や収縮によって膜がたるんでくっついたり、膜が張って破けたりすると問題である。従来型イオン交換膜は補強材料があって寸法変化が少ない。本研究内容の範囲では、その検討がなされていない。実用化段階でさらに工夫が必要になるかもしれない。
  

原論文1 Data source 1:
Novel ion-exchange membranes for electrodialysis prepared by radiation-induced graft polmerization
Tsuneda, S, Saito, K., Mitsuhara, H.*, Sugo, T.**
Department of Chemical Engineering, University of Tokyo, Hongo, Tokyo 113, Japan, *Ion Exchange Membrane Administration, Asahi Chemical Industry Co., Yako, Kawasaki 210, Japan, **Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki, Gunma 370-12, Japan
J. Electrochem. Soc., Vol.142, 3659-3663(1995)

キーワード:イオン交換膜、電気透析、脱塩、共グラフト重合、放射線グラフト重合法、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド
ion-exchange membrane, electrodialysis, desalination, cografting, radiation-induced graft polymerization, sodium styrenesulfonate, vinyl benzyl trimethyl ammonium chloride
分類コード:010201, 010205

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