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作成: 1996/09/20 友松 功
データ番号 :010038
電子・イオンビーム照射を利用したポリマー光導波路の作製
目的 :ポリマーの屈折率制御とその応用
放射線の種別 :ガンマ線,電子,軽イオン
放射線源 :電子加速器(25keV、10nA)、HVEE accelerator(400kV)
フルエンス(率):2000μC/cm2、1013-1015ions/cm2
利用施設名 :電子線リソグラフィーシステム(JEOL JBX-5FE)
照射条件 :真空中、室温
応用分野 :オプトエレクトロニクス
概要 :
電子・イオンビームを照射することによって、ポリマーの屈折率を増加させ、エッチング作業無しにポリマー光導波路の作製が可能なことを確認した。屈折率変化は、分子鎖の切断などに起因するものであり、長期放置しても導波路構造は保たれる。伝搬損失は0.6dB/cmあり、まだRIE(反応性イオンエッチング)等のエッチングを用いている導波路には及ばないが、照射量等の調整で低損失な光導波路が作製できる可能性も有る。
詳細説明 :
1)目的
従来、光導波路の作製方法としては、RIE等のエッチングを用いる方法が一般的であった。しかし、作製する範囲の制限や多段階、長時間が必要という短所があった。一方、ポリマーにイオンまたは電子ビームを照射すると屈折率が増加することが知られており、最近、このビーム照射による導波路作製の検討が行われている。この方法の場合、図1に示すように、コア・クラッド用それぞれ別の樹脂を用意する必要が無く、作製工程数も減少する。また、エッチングの際に生ずるポリマーへのストレスが無い。
図1 Fabrication sequence for channel waveguides by the use of electron-beam lithography:formation of (a) the SiO2/Si substrate,(b) the 6FDA/TFDB polyimide layer,and the polyimide layer is followed by (c) electron-beam lithography and (d) spin coating of the new 6FDA/TFDB layer.(原論文1より引用。 Reproduced with permission from APPLIED OPTICS, Vol.34, No.6, p.1047-1052(1995), Fig.2(p.1048), Yasuko Yamada Maruo, Sigekuni Sasaki, Toshiaki Tamamura, Channel-optical-waveguide fabrication based on electron-beam irradiation of polyimides.)
本報告では、電子またはイオンビームの照射によるポリマー光導波路の作製について検討した。なお、電子線照射用サンプルとしてはフッ素化ポリイミド、イオンビーム照射用にはCR39(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)という、それぞれの線源に対して屈折率変化の大きいポリマーを用いた。
2)ビーム照射と屈折率変化
それぞれのサンプルに対して、電子線は2000μC/cm2まで、イオンビームは50-300keVで1013-5×1015ions/cm2を照射して、屈折率変化を測定した。電子・イオン共に、照射量の増加に従って屈折率は増大する傾向にあった。しかし、屈折率の分布については両者に差がある。電子線の場合、サンプル厚みである8μmの深さまで均一な屈折率分布となるが、イオンビームの場合は図2に示すようにサンプル表面の屈折率増加が最も大きく、深さ方向に向かって減衰する。
図2 Refractive index profile using 300keV proton irradiation.(原論文3より引用。 Reproduced from POLYMER, Vol.35, No.11, p.2447-2451(1994), Fig.8(p.2449), C.Darraud, B.Bennamane, C.Gagnadre, J.L.Decossas, J.C.Vareille, Optical modifications of polymers by ion beam irradiation; Copyright(1994), with permission from Elsevier Science.)
これは、電子、イオンそれぞれの場合で、屈折率変化を生じさせるメカニズムが異なることに起因しているものと思われる。なお、イオンビームの場合、打ち込んだイオンの存在する位置は表面から数μm深さに集中しており、このことから、屈折率変化の原因はイオンのドーピングによるものではないことが判る。また、重いイオンを用いた方が、より屈折率変化を増大させるmass effect(質量効果)が観察された。
3)屈折率変化の原因の同定
IR、XPS、GPCなどの分析機器を用いて、照射サンプルの分析を行った。その結果、電子線の場合、ポリイミド中に存在するカルボニル酸素より高結合エネルギーを持った酸素成分が出現していることが判り、これが屈折率変化の原因と考えられる。一方、イオンビームの場合、ポリマー鎖の切断が観察され、これが屈折率変化の原因と考えられる。
4)導波路の評価
図3に作製した導波路のモードプロファイルを示した。
図3 Beam profiles for electron-beam irradiated waveguides:mode profiles for (a) TE-polarized incident light,(b) TM-polarized incident light,and (c) white light are presented.(原論文1より引用。 Reproduced with permission from APPLIED OPTICS,Vol.34,No.6,p.1047(1995), Fig.6(p.1051).)
コア中を光が通っているのが判る。ビームの強度、照射量、コア幅を調整することで、シングル・マルチモードどちらも作製することが可能である。しかしながら、導波路の伝搬損失は最も良いものでも0.6dB/cmと、RIEを用いて作製したポリマー導波路に比べて大きい。これは、ビームの衝撃によって、ポリマーがダメージを受けているためと思われる。現に、照射量を多くした導波路の場合、伝送損失は格段に悪くなった。
5)まとめ
電子・イオンビームを照射することによって、エッチング作業無しにポリマー導波路を作製できることが判った。与えるエネルギー、照射量を検討することによって、より低損失なポリマー導波路を作製できる可能性が出てきた。
コメント :
加工が容易、フレキシブルであるといった長所から、ポリマー光導波路に関する研究が盛んに行われているが、これまではRIEなどのエッチング手法によって作製されるものが大部分であった。本報告では、均一ポリマーに電子線などを照射する方法が紹介されている。作業工程が軽減されるなど工業的なメリットは大きい。今後の光導波路開発の重要な鍵を握る技術の一つであると考える。
原論文1 Data source 1:
Channel-optical-waveguide fabrication based on electron-beam irradiation of polyimides
Yasuko Yamada Maruo,Sigekuni Sasaki,Toshiaki Tamamura*
NTT Interdisciplinary Research Laboratories,3-9-11 Midori-cho,Mushashino,Tokyo 180,Japan,*NTT Opto-Electronics Laboratories,3-1,Morinosato Wakamiya,Atsugi,Kanagawa 243-01,Japan
APPLIED OPTICS,Vol.34,No.6,p.1047-1052(1995)
原論文2 Data source 2:
電子線照射によるフッ素化ポリイミドの屈折率制御
丸尾 容子、佐々木 重邦
NTT境界領域研究所
Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.3,p.1140(1993)
原論文3 Data source 3:
Optical modifications of polymers by ion beam irradiation
C.Darraud,B.Bennamane,C.Gagnadre,J.L.Decossas,J.C.Vareille
Laboratoire d'Electronique des Polymeres sous Faisceaux Ioniques,Faculte des Sciences,123 Avenue Albert Thomas,87060 Limoges Cedex,France
POLYMER,Vol.35,No.11,p.2447-2451(1994)
原論文4 Data source 4:
Ortical waveguide fabrication by ion beams in the PADC-polymer
B.Bennamane,J.L.Decossas,C.Gagnadre,J.C.Vareille
Laboratoire d'Electronique des Polymeres sous Faisceaux Ioniques,Universite de Limoges,123 Avenue Albert Thomas,87060 Limoges Cedex,France
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research,B62,p.103(1991)
キーワード:光導波路、屈折率、電子線リソグラフィー、イオンビーム、構造改質、フッ素化ポリイミド、CR39
optical-waveguide,refractive index,electron beam lithography,ion beam irradiation,structural modifications,fluorinated polyimide,CR39
分類コード:010206,010101
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