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作成: 1996/09/30 須藤 高史

データ番号   :010031
カナダにおけるガンマ線照射による下水汚泥処理開発の概要
目的      :都市下水汚泥のガンマ線による低温殺菌処理
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Co-60
線量(率)   :2-6kGy
利用施設名   :The Canadian Irradiation Centre
照射条件    :大気中、室温
応用分野    :環境保全、下水処理、下水汚泥処理、肥料、土壌改良材

概要      :
 カナダでは422,000ton/年の下水汚泥が発生し、焼却、埋め立て、農地散布等の処理がなされている。しかしその処理費は上昇し、処理場所も得難くなっている。ここでは下水汚泥のコバルト60のγ線による殺菌とリサイクルについて述べる。殺菌された汚泥は有機肥料として使用され、他の有機肥料と比べても遜色ないことが野菜栽培試験で示され、処理費用も安価であることが分かった。

詳細説明    :
 
 下水汚泥は乾燥状態に換算し、422,000ton/年がカナダで、9,000,000ton/年が米国で発生していると推定される。現在まで、焼却、埋め立て、農地散布等の方法で廃棄されていた。米国では22%が焼却、41%が埋め立て、16%が散布、6%が海洋投棄、9%が再利用されている。カナダでは40%が焼却処理で、大気汚染への関心等で規制はより厳しくなっており、新処理法の研究が盛んである。埋め立てが約18%を占めているが、処理場近隣の埋め立て地が得難くなってきている。毒性や悪臭に対する住民感情や病原菌、重金属による地下水汚染等の恐れなどが理由で、埋め立て地は急速になくなり、処理コストが上昇している。29%が農地散布である。天然肥料の利点があるが、微量の重金属、病原菌の問題がある。米国では115以上のコンポスト施設がある。汚泥は木片・鋸屑と混合され、55゜C以上で、最低15日間を要してコンポスト化される。微生物、水分等は減少するが、臭い等の問題は残り、設備費、運転費等は高い。これ等の欠点を考慮し、放射線処理が西独、日本、米国等で開発研究されている。Nordion Internationalでもカナダの都市と共にγ線処理技術開発を行ってきた。
  
 汚泥のγ線殺菌処理では、照射前あるいは照射後に乾燥過程を伴う。乾燥過程では、25%固形分の汚泥を通気性のため木片と混合し、55-60%固形分まで空気中で乾燥され、その後木片分を篩い分けし再使用する。コバルト60照射施設も含む汚泥リサイクル工場平面配置を図1に示す。処理容量132,500t/年(25%固形分の汚泥)を想定し、乾燥場は舗装面で100x90 m程度必要となる。図2に照射室の概要を示す。照射室は25x11m、高さ5m程度の建物で、コバルト60による照射を行う。汚泥はNordion社製の運搬ボックスへ入れ、ベルトコンベヤで照射室への搬出入を行う。


図1 Facility layout. (原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.42, Nos4-6, pp.683-684(1993), Diagram #1(p.685), Swinwood J. F., Fraser F. M., Enviromental Application of Gamma Technology: Update on the Canadian Sludge Irradiator; Copyright(1993), with permission from Elsevier Science.)



図2 Municipal sludge irradiator. (原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.42, Nos4-6, pp.683-684(1993), Diagram #2(p.685), with permission from Elsevier Science.)

 照射殺菌された汚泥は肥料、土壌改良材あるいは特殊肥料の1成分として衛生化されリサイクルされる。照射汚泥は袋詰め、箱詰めあるいはそのままの形でマーケットへ出荷され、貴重な有機肥料として、既存の土壌改良材や動物糞と競合できる。表1には非照射液状汚泥、照射液状汚泥、照射乾燥汚泥、家畜たい肥を施肥量を変えて2種類、レタスと大豆に施した場合の収穫量を示す。これはオンタリオ農業専門学校で2年間にわたり実験された結果である。照射汚泥の植物成長に及ぼす影響は、他の2つと比べて大きな差異は認められない。

表1 Plant yield in soils with 4 different amendments. (原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.42, Nos4-6, pp.683-684(1993), Table3(p.686), with permission from Elsevier Science.)
PLANT AMENDMENT
RATE OF APPLICATION[TONNES/Ha/Yr]
10 20 30 40
[Yield in kg/ha-dry wt]
lettuce Unirrad.Sludge    
Irrad.Sludge      
Dry Irrad.Sludge   
Cattle Manure
545
497
569
408
448
478
675
544
342
320
563
603
231
260
613
630
beans Unirrad.Sludge   
Irrad.Sludge     
Dry Irrad.Sludge  
Cattle Manure
443
434
479
360
460
445
454
381
495
479
465
395
455
467
423
532
 他の処理法との経済評価を行った。評価では次の4点を仮定した。1)汚泥の重金属や化学成分はその地方の規制値以下である。ただしカナダでは微生物と化学成分について最高値の規定はなく、肥料の方で、野菜、動物、人体に有害な物質を含まない事の規定がある。2)肥料業者は下水処理場に近く、運搬費は業者が支払う。もし業者が照射汚泥の引き取りを望まなければ、さらに加工して販売するか、廃棄の方法を他に探さねばならない。3)照射汚泥の肥料利用について国民の了解がある。4)照射される汚泥は3%固形分の消化汚泥である。処理量4200万ガロン/日で、汚泥焼却の場合は年間約14M$で、照射の場合は約0.7M$ですむ。2.5億ガロン/日で、農園散布の場合は、年約9.6M$、照射の場合は約4M$となる。また、同じ処理量で埋め立て処理の場合は年約13M$となり、いずれの場合も照射の方が運転費は安くなる。
 
 近年、下水排出基準は厳しくなり、将来もこの傾向は続くと思われる。これにより、流入する下水に含まれる重金属、有害物質は減り、汚泥等のリサイクルはやりやすくなる。照射殺菌法では、有害微生物、病原菌の残留の規制強化があっても容易に対応することができる。

コメント    :
コバルト60のγ線を使用した下水汚泥の殺菌である。コバルト60はカナダが生産国であり、容易に入手でき、使用済みの処分も日本より容易である。日本では、安全性や、設備の規模等を考慮し、電子線の使用が良いと思われる。

原論文1 Data source 1:
Enviromental Application of Gamma Technology:Update on the Canadian Sludge Irradiator
Swinwood J. F.,Fraser F. M.
Nordion Internal Inc.,P.O.Box 13500,Kanata,Ontario,Canada,K2K 1X8
Radiat. Phys. Chem. Vol.42,Nos. 4-6,pp.683(1993)

原論文2 Data source 2:
Sewage Sludge Pasteurization by Gamma Radiation :A Canadian Demonstration project - 1988-91
Swinwood J. F.,Wilson B. K.
Nordion Internal Inc.,P.O.Box 13500,Kanata,Ontario,Canada,K2K 1X8
Radiat. Phys. Chem. Vol.35,Nos. 1-3,pp.461(1990)

原論文3 Data source 3:
Sewage Sludge Pasteurization by Gamma Radiation:Financial Viability Case Studies
Swinwood J. F.,Kotler J.
Nordion Internal Inc.,P.O.Box 13500,Kanata,Ontario,Canada,K2K 1X8
Radiat. Phys. Chem. Vol.35,Nos. 1-3,pp.445(1990)

参考資料1 Reference 1:
電子ビームによる下水処理水の殺菌
近藤 正樹、中尾 彰夫、新井 英彦、宮田 定次郎
日本原子力研究所
下水道協会誌論文集、Vol.28,No.324,p28

キーワード:下水汚泥、γ線照射、殺菌、リサイクル、汚泥肥料、
sewage sludge, γ-irradiation, pasteurization, recycling, sludge fertilizer
分類コード:010503

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