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作成: 1996/09/30 須藤 高史

データ番号   :010030
電子線による下水処理水の処理
目的      :下水処理場放流水、脱離液の処理
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(2MeV,30mA)
線量(率)   :30-160 Gy(二次処理水)、数kGy(脱離液)
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :室温、大気中
応用分野    :下水二次処理水処理、汚泥脱離液処理、汚泥処理

概要      :
 国内下水道普及率は増加し、下水処理場から放出される二次処理水、脱離液の処理等に関し効果的な技術の開発が必要である。これ等の処理に放射線を使用すれば、その殺菌作用と共に、微生物難分解性有機物の分解が可能となる。放射線として大出力化、安全性、価格に着目し、電子加速器を選び試験を行った。二次処理水において400-600kGyで大腸菌を検出限界以下にでき、脱離液においても、効果的に照射が行える装置を開発し、成果を得た。

詳細説明    :
 
 国内の下水道の普及率は年毎に増加しており、今後も着実に増加していくと予想される。これに伴い、下水処理場から放出される二次処理水の殺菌、余剰汚泥脱水時に発生する脱離液の処理等に関し、より効果的な技術開発が必要となる。これ等の処理に放射線を使用した場合、その殺菌作用と共に、微生物処理では分解できないような有機物の分解が可能となり、染料、フェノールなどの難分解性物質の分解も期待できる。 
  
 放射線源としては、コバルト60と電子加速器が考えられるが、1)必要出力が容易に得られる、2)建設費・処理費が安い、3)保守・安全性が優れている等の点において、電子線加速器は大出力化可能で処理費が安く、出力密度が高く設置面積が少なくなり、電源を切れば完全に放射線の発生を停止できると言うような利点を持っている。ただし電子線の欠点は透過能力が低く、照射には工夫が必要となる。図1に下水処理過程における電子線の利用を示す。


図1 電子線を用いた下水処理の概要(原論文2より引用)


1)二次処理水
 二次処理水は、含まれる大腸菌が3,000個/ml以下に規制され、通常塩素殺菌後河川等に放流される。しかし、この塩素と放水中の有機物の反応による有害塩素化合物での環境汚染が問題である。この殺菌に放射線を用いた場合、処理前の状態によるが30-160Gyの低線量で可能となる。また大腸菌を検出限界以下にするためにも400-600Gy程度で良い。各種汚染物質の放射線による分解を表1に示す。前述のように電子線の透過能力は小さく、2MVで6-7mm程度の水中有効飛程であり、2次処理水を薄い層状とし、照射野を高速で流す必要がある。最終沈殿池と放流水放流溝との間の2-3mの水頭差を利用し、ノズルから噴出させることにより動力なしで高速薄膜水流(10m/s)を得る装置を考案し、実験でその性能を確かめた。

表1 Decomposition of various pollutants by ionizing irradiation(原論文1より引用)
Pollutant Initial conc. Dose  Degree of
 reduction
Cyanide     30 ppm    4×105 rad     100 %
Sodium sulfate     25   1.5×105     100
COD    110    4×105      36
Dieldrin     20    8×106      65
Dimethylphthalate     92   4.2×105      50
ABS     14    5×104      99
ABS     20    5×105      92
Phenol    100    5×105      80
Hydroquinone    100    5×105      75
Pyrocatechol    100    5×105      75
PVA    340    6×106      91
Dyes
Acid red 265    120    3×105      90
Acid Blue 40     25    3×105       95
PCB    100 ppb      107      90
Organochloride
compounds
o-chlorophenol     20 ppm      106      82
2,4dichlorophenol     20      106      96
2,4,6trichloro-
phenol     20      106      98 
Pentachlorophenol      20      106      99
Parathion     10    5×105      99
β-naphthylamine       1      104      99
Benzidine       1      104      68

2)汚泥脱離液の処理
 下水を活性汚泥処理する際に生じる余剰汚泥の脱離液中には、微生物難分解性の有機物が高濃度含まれ、悪臭があり、黒褐色に着色している。この脱離液の処理は従来の技術では困難である。しかし、酸素存在下で脱離液に電子線照射を行うことにより、微生物分解性を付与したり、炭酸ガスと水にまで分解できる。この場合には一般に殺菌に必要な線量よりも多い線量が必要となり、照射による酸化反応で消費される酸素の供給を行う必要もある。このため二重管式塔反応器を開発した。塔下部より反応器に供給された脱離液は底部より吹き込まれる空気あるいは酸素ガスとともに内管内を上昇し、酸素の供給を受け、塔頂部において電子線照射を受ける。この時の電子線飛程内の部分が反応部となる。照射された液は内管部より流出し、外環部を流下して塔下部に達し、再度酸素の供給を受け、酸素供給と照射の循環を塔内で繰り返す。
  
 実際の装置ではこの反応塔を複数個直列に連結したユニットで構成するのが有効である。本反応器による染色モデル廃液試験では気泡塔内の酸素濃度を高く維持でき、反応部での水の入れ替えも順調で、染料の脱色が良好であることを定量的に確かめた。図2に電子線照射による汚泥脱離液の水質変化を示す。照射により液中のCODは減少するが、照射後さらに微生物処理を行うことにより著しく減少する。微生物難分解性物質が照射により微生物分解性を有する構造に変化したためである。大量処理の技術及び所要照射線量低減化などを課題として研究開発が続けられている。


図2 電子線照射による汚泥脱離液の水質変化(原論文2より引用)



コメント    :
 下水処理場から放出される二次処理水等に対して塩素を使用しない効果的な方法である。今後パイロット試験を行い実規模化を図っていく必要がある。

原論文1 Data source 1:
EB Treatment of Wastewater and Sewage Sludge
Hashimoto S.
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Institute
JAERI-M 93-160

原論文2 Data source 2:
下水処理への電子線の利用
橋本 昭司、町 末男
日本原子力研究所
日新電機技報、Vol.33,No.4,p37(1988)

原論文3 Data source 3:
放射線による下水処理に関する研究 ー生物処理水の殺菌処理についての検討ー
関口 正之、沢井 照子、下川 利成、沢井 健
東京都立アイソトープ総合研究所
東京都立アイソトープ総合研究所年報

参考資料1 Reference 1:
電子ビームによる下水処理水の殺菌
近藤 正樹、中尾 彰夫、新井 英彦、宮田 定次郎
日本原子力研究所
下水道協会誌論文集、Vol.28,No.324,p28

キーワード:電子線、下水処理、殺菌、有機物分解、脱色、COD
electron-beam, sewage treatment, disinfection, decomposition of pollutants, decoloration, COD
分類コード:010502

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