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作成: 1996/09/30 須藤 高史

データ番号   :010029
下水汚泥の放射線殺菌とコンポスト化
目的      :下水汚泥の放射線殺菌とコンポスト化による有効利用
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(2MV,30mA)
線量(率)   :5-10kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :汚泥脱水ケーキ6mm厚、大気中、室温
応用分野    :環境保全、肥料、土壌改良

概要      :
 500kg/回規模の電子線殺菌汚泥コンポスト化パイロットプラント試験を行い、殺菌が確実であること、及び発酵期間は従来法の1/2になることがわかった。また得られたコンポストを用いた肥料効果試験では従来法と同程度あるいは上回る効果がみられた。結果を基に、電子線による汚泥処理施設の建設費、維持管理費等の試算を従来法と比較する経済性評価を行い、25t/日程度より大きい規模では、費用は安くかつ施設用地も1/2程度となることがわかった。

詳細説明    :
 
 日本における下水汚泥はその大部分はそのままあるいは焼却後、やっかいな廃棄物として処分される。下水汚泥は有機質に富み、問題点を解決すれば農業用肥料として有効利用できる。問題点は重金属汚染の可能性、病原菌・寄生虫卵等の土壌汚染、悪臭や集まる害虫等による環境汚染の恐れ等がある。重金属等については工場廃水等を下水放流前に有害物処理を行う必要があり、土壌汚染に対しては汚泥の殺菌、殺虫が必要である。環境汚染に対してはコンポスト化が有効である。本報告では500kg/回規模の電子線殺菌汚泥コンポスト化パイロットプラント試験を行い、殺菌プロセス、コンポスト化プロセス及びその施用効果について検討を行った。

(1)基礎試験
 パイロットプラント試験に先立ち基礎試験を行った。図1に示すように汚泥への5kGyの電子線照射で総菌数は4桁程度減少し、大腸菌群は2kGyの照射で検出されなくなる。またガンマ線と電子線との効果の差はほとんどない。照射汚泥のコンポスト化では、従来の発酵時に高温に保つ方法と比較し、図2の様にきわめて短時間で終了できた。


図1 放射線照射による汚泥中の菌数の変化(原論文1より引用)



図2 最適条件下における電子線殺菌汚泥の発酵(原論文1より引用)


(2)パイロットプラント試験
 図3にパイロットプラント試験のフローシートを示す。汚泥は安全側をみて5〜10kGyの電子線照射を行った。使用した電子加速器の最大加速電圧は2MVであり、その時の汚泥内の透過距離は1cm程度であるので、汚泥はノズルよりステンレス鋼製のコンベア上に6mm厚さで押し出し照射した。コンポスト化は、好気性発酵のため、従来は籾殻や稲藁等が通気改良材として使用されるが、本試験では製品コンポストを一部照射汚泥に混合し、含水率の調整及び種菌とし、造粒する事により通気性を改良した。小規模試験では5mm粒径が必要な酸素供給に望ましく、発酵時間の短縮となる。発酵に際しては発酵槽内の温度均一化、未発酵部分への酸素供給等の点で頻繁な攪拌が望ましく、コンポストの細粒化、均一化も得られる。最適温度は40-50゜Cであり,60゜Cを越えるとコンポスト化速度は著しく低下する。従来法では殺菌のため65゜C以上の温度を2日以上保持し、攪拌は1回/日であり、原料の造粒は行わないため、発酵期間が長くなるが、電子線法では発酵期間が従来法の1/2となる。本試験で得られたコンポストを用いて群馬県農業総合試験場の協力を得て肥料効果試験を行った。電子線殺菌汚泥コンポストは従来法コンポストと同程度ないしはそれを上回る効果を得た。


図3 パイロットプラント試験フローシート(原論文1より引用)


(3)プロセスの経済性
 電子線法による汚泥処理施設の建設費及び維持管理の試算例を従来法施設と比較した。建設費はコンポスト化処理を1次発酵までとし、袋詰めなしを想定した場合処理能力が25t/日以下では従来法が安価であるが、50t/日以上では電子線法が安価となる。維持管理費においても電子線法が安価であり、25t/日以上の処理規模では有利である。建設用地については立地条件により差があるので建設費には含めていない。電子線法では発酵槽が小さく、例えば50t/日の時、従来法の建設用地の半分程度となり、都市近郊等では有利となり、既設処理施設の改造では電子線法の採用により、処理能力を高めることが可能となる。  
 電子線法ではあらかじめ汚泥の殺菌を行うため、殺菌のための高温保持は必要なく、熱に対する抵抗性が弱い種々の有用微生物の培養も期待でき、微生物資材化(微生物農薬等)等の付加価値の高い利用法が期待できる。
  

コメント    :
 環境保全への放射線利用の一つであり、排ガス脱硫脱硝処理と共に、パイロット規模の試験も終了し、その経済性も検討され、実装置での実証が残されるのみである。海外でも、ドイツ、カナダ等でデモンストレーションが行われており、早期の実用化が望まれる。

原論文1 Data source 1:
下水汚泥の放射線殺菌と有効利用
橋本 昭司
日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233
原子力工業、第41巻、第7号,p.47(1995)

原論文2 Data source 2:
Pilot Plant Test of Electron-Beam Disinfected Sludge Composting
Hashimoto S., Nishimura K., Iwabu H., Shinabe K.*
Japan Atomic Energy Research Institute, 1233 Watanuki-Machi,Takasaki-City,Gunma-Ken, 370-12, Japan * Kubota Ltd., 3-3-1, Nihonbashi-Marunouchi, Chuo-Ku, Tokyo, Japan
Wat. Sci. Tech. Vol. 23, Kyoto, pp.1991(1991)

原論文3 Data source 3:
A Microbiological Study on Sewage Sludge Treatment
Sermkiattipong N.*, Ito H., Hashimoto S.
Japan Atomic Energy Research Institute, 1233 Watanuki-Machi,Takasaki-City,Gunma-Ken, 370-12, Japan *Office of Atomic Energy for Peace, Thailand
JAERI-M 90-145

参考資料1 Reference 1:
Environmental Application of Gamma Technology : Update on the Canadian Sludge Irradiator
Swinwood J.F., Fraser F.M.
Nordion International Inc., P.O.Box 13500, Kanata, Ontario, Canada
Radiat. Phys. Chem. Vol. 42, Nos.4-6, pp.683(1993)

キーワード:下水汚泥、電子線殺菌、コンポスト化、電子線加速器、パイロット試験
sewage sludge, electron radiation disinfection, composting, electron accelerator, pilot test
分類コード:010503

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